18話前後のラウスレ恋の始まり
ヒマナッシオ・ボンビーナ「――また泣いているのか」
呆れと苛立ちを多分に含んだ声にスレッタは身を固くした。声の主が自分を決して良く思っていないことを知っていたから。
「お前も女に振られたからっていつもまでもメソメソしてるんじゃない」
ぐうと膝を抱く腕に力を込めていっそう丸まる。
(放っておいて……)
また酷いことを言われて傷付けられる。もう何も聞きたくない。
スレッタはズ……!と洟を啜って――いい匂いがした。香ばしい肉の匂いについつい鼻がヒクヒクと動き、そして。
ぐうう~っと、気の抜ける音がした。無論スレッタの腹の音である。
「ぶっ!」
吹き出す音に慌てて顔を上げればなぜかランチボックスを開いたラウダが口元を抑えてこっちをみていた。
「っくくく、体は正直だな」
「わ、笑わないでください!」
「ははは!悪い悪い」
スレッタの抗議にラウダはついに声をあげて笑った。そういえば、嫌味に口の端を上げる以外のラウダの笑顔を見るのは初めてかもしれない。
「いや本当に悪かった。ほら、食べろよ。昼からずっとここにいただろうお前。パイロットの資本は体だぞ」
「ううう、いただきます!」
ぐしぐしとスレッタが袖で涙を拭くと一転してラウダの眉間に皺が寄る。
「おい止せ、ますます腫れるぞ。……ちょっと目を閉じろ」
ラウダの手がハンカチでスレッタの目元をそっと押さえる。二度三度、押し当てられていたハンカチが離れる。
「もういいぞ」
そろりとスレッタが開いた目をじっと見て、ラウダはふ、と口元を緩めた。
「――うん、もう泣いてないな」
(――あ)
スレッタは目を奪われた。こんな優しい顔もするのか、と。
――恋に落ちるにはそれで十分だった。
蛇足
「大丈夫そうだけど一応このハンカチ貸してやるよ」
「ありがとうございます、うっ」
ぢーーーーん!!!
「おい待て洟を嚙んでいいとは一言も言っていないぞ水星女ァアアアア!!!」