18話前後のラウスレ事後
ヒマナッシオ・ボンビーナ「……ここまでするつもりじゃなかった」
裸で埃っぽいリノリウムの床に寝そべっていれば、小さく男が呟くのが聞こえた。女は俯いた。冷え始めた汗が床に体を貼り付ける。
空き教室でもつれ込むように求めあった。少しの隙間も許せないとぴったり体をくっつけ合って。あんなに満たされていたのに、だんだんと冷めていく。
「後悔していますか?」
「僕は」
ラウダはしばらく言葉を探して、やがて絞り出すように吐き捨てた。
「――こんな、弱ってるところにつけこむような真似、するべきじゃないだろ」
「でも、私は嬉しかったですよ。つけこまれて、慰められて、甘やかされて、大事にしてもらって」
そう、スレッタは嬉しかった。好いた相手に求められて。――要らないと言われ続けたばかりだったから、尚更。
それがわかっているからこそラウダは余計に苦しい。ぐしゃりと罪悪感で顔が歪んだ。
「僕、僕は、兄さんの好きな人にこんなことする気はなかったんだ」
「もう、こういう時に他の人の話するのはマナー違反なんですよ!」
ぷりぷりと怒りながらスレッタはラウダの脛を枕にして覗き上げる。
「今は私のことだけ考えててください。――ね?」
にっこり、甘えるように、ねだるように。ラウダの膝に額を擦り付けると、諦めを含んだ溜息が降ってくる。
「お前にベッドマナーを教えられるとは思わなかった」
「うふふ、昔見たムービー、大人っぽくて覚えてました」
ラウダの指がスレッタの巻き毛を弄ぶ。
「……悪かったよ。今更この関係を否定するようなこと言って」
「しょうがないから、今ならキス一つで許してあげます」
スレッタは半身を伸び上げて、恋人を待ってあげた。
唇が触れて、離れ際、ラウダは零す。
「いっそお前に初めて会った時――いや、もっと前、お前がミオリネに会う前、何なら水星にいる頃からやり直したい」
ぎゅうぎゅうとラウダの腕がスレッタを抱え込む。閉じ込めるみたいに。独り占めするみたいに。
「お前がミオリネに懐く前、兄さんがお前を見初める前から。そうしたら何憚ることなくお前を好きでいられるのに」
男の言葉に、女は笑った。
「素敵ですね。それも」
あんなに傷付いたことをなかったことにできたなら。ありえないIFのお話。夢物語、寝物語。戯れ言の睦み言。
「――あなた一人だけの私、それって、とっても素敵です」
閉じた瞼の裏でほんの少しだけ、そんな夢を見た。
蛇足
「ところでお前、人のちんちん凝視するのそろそろやめろ」
「だって気になるんですもん。こんなのぶらさげてて邪魔にならないんですか?」つんつん
「あーもう、つっつくな!もう一回するぞ!」
「……」
「……」
「……」つんつん
「……誘うならもっとマシな誘い方しろ!」