1334年3月 子鬼と菩薩(7)

1334年3月 子鬼と菩薩(7)


TSHパロ ※R15? ※憲直? ★兄上のファンの方は読まないことをお勧めします。

主要人物:直義・上杉憲顕

~1334年3月 子鬼と菩薩(7)~


直義は、男の、狩衣の大きな袖に包まれた。男が狩衣に薫きこめさせた沈香の香りが、直義をつつみこむ。

「なにもわかっていない、とは」

直義は、男の秀麗な顔をみあげる。

「あの少年は、修羅にあこがれるだけの、子鬼。ただの、無邪気なこどもだ」


男は、直義の白い手を優雅にすくいとり、もてあそび、その白い指さきにくちづけた。

さくら色の爪が、男の口の先に含まれ、その長い舌が、指の股にまで、ちろちろと這う。

「ですが、それでも、相州どのは、あの麒麟児を、お育てになるおつもりでしょう」と、指から口を離した男は、直義の耳もとに、優雅にささやく。

直義は、そっと、目をとじる。

「…そうだ。わたしが、この地位を退いたあとに、新しく親王将軍の執権となる義季を、連署(副執権)として、支えてもらわねばならぬ」


親王将軍を戴いた、義弟と、あの麒麟児が、執権と連署として並びたち、東国の二柱の護り神となる。かれらが、手を携えて、甥の千寿王を支える。そして、かがやしく強い兄が、その頂点に立ち、この日の本を統べる。

それが、直義の描く構想だった。

そのために、この北条氏の残党の乱を足かがりとして、義弟とあの少年の、名と実力を、関東一円の武士たちに知らしめねばならぬ。

だからこそ、あの、少年の智謀と奸智の才が、いま、必要なのだ。

ほんとうは、あの少年の、頭脳ではなく、そのこころが、つくべき地位にみあうほど成熟するまで、何年でも、待ってやりたかった。

だが、迫るいくさが、それを許してくれない。

あのようなこどもに、ひとの運命を左右する、手にあまる力を、まだ、持たせたくないのに。


秀麗な男の唇が、直義の白い頬に、とじたままのまぶたに、いくつもおちてきた。

そして、直義のうすいくちびるに、男のそれが、しずかに重ねられる。

直義は目をとじたまま、男の咥内に、ちいさな舌さきを、そっと差し入れた。そのちいさな舌は、男の長い舌にからめとられ、吸われる。

直義は、喉奥につたいおちてくる男の唾液をすすり、のみこんだ。兄とはちがう味だ、とおもう。


色とりどりの梅が咲き誇る苑中で、直義は、男に身をゆだね、そのなすがままにされながら、そのたくみな愛撫を、素直にうけいれた。

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