1334年2月 駅路の法の復活(5)
TSHパロ ※R15くらい? ※尊直前提の憲直?
主要人物:直義・上杉憲顕
~1334年2月 駅路の法の復活(5)~鎌倉にて~
あまりにもしずかな、夜だった。
まだ復興の端緒についたばかりの、鎌倉は、人気(ひとけ)もほとんどない。
ひとの道にはずれた、鬼よりも劣る、畜生以下の、いや、それよりもはるかに劣る、けだもののおこない。そのゆえに、失ってしまったもの。
みやこにいたときから、覚悟はしていたのに。と、直義のこころが、きりきり、と、いたむ。胸がしめつけられた。
なにかをおもう資格など、もはや、ありはしない。ああ、それなのに。と、直義は、目をとじた。
その耳に、庭の砂利を踏みしめ、こちらに近づいてくる、かすかな足音が聞こえた。優雅な、おおきな猫科のけものを思わせるような足どりだった。
年上のいとこは、穏やかな低い美声で、相州どの、と、うしろから、よびかけてきた。今川のことについて、上杉の菊慈童の医師たちから、報告をうけたのだろう。
きてくれたのか。と、直義は、男に、しずかにほほ笑み、医師たちを遣わしてくれたことに礼を言おうとした。
その瞬間、直義は、男の、狩衣の大きな袖に包まれた。力づけるように、背中に大きな腕がまわされた。
欠けてしまったものが、もはやもどることはなかったが、その傷あとが、すこしだけ、癒されていくのを感じた。
目をとじたまま、直義は、男の胸もとに、そっと、白い頬をすりよせた。
あの兄にすら、抱いたこともない、かぎりない、安心と信頼。
この男は、昔から、「わたしも、もちましょう」と、直義が、その肩に背負うものを、わかちあい、ともに歩んでくれる。
夜の闇に、薫きこめられた沈香の香りがただよう。
そして、男のくちびるが、直義の白い頬に、かたくとじたままの目に、いくつもおちてくる。
ふと、目をあけた直義のくちびるに、男のそれが重なってきた。
こんどは、誓いもなにもないくちづけだった。
軍役をつとめはするが、どこまでいっても武士にはなりきれぬ、芯から貴族らしい、どこか、世をつきはなして観(み)ている男の、衝動じみた、めずらしいくちづけだった。
胸の奥底から湧き上がる、名のつけようのない気持ちに動かされ、つまさき立ちになり、背の高い男の首に両腕をまわす。単衣の袖がまくれ、直義の白い腕がむきだしになった。
そのほそい腰にまわされた男の大きな手が、さらに下にさがり、単衣のうえから、ちいさな尻をゆるやかにもみしだく。
直義は、はじめて、あいての咥内に、処女のように、おずおずと、ちいさな舌先をさしいれた。あの、いとおしい、兄にすら、したことはなかった。
そのちいさな舌は、男の長い舌にからめとられ、むさぼられた。くちづけは、だんだんと、ふかいものに変わっていった。
ぬるぬるとからみあう舌の感覚に、兄に抱かれ、はげしく愛されているさなかでさえ、どこか、遠い意識のなか、失わなかった、直義の冷静な思考が、蜜のようにとろけていった。