龍虎相撃つ
※暴力表現ありなので注意
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「辻斬り?」
ある日の事。アリス保護財団で保護され、ミレニアムで新しい生活を行っているリウにそんな情報が入ってきた。耳に入れているのは、かつて彼女が率いていた傭兵達の副官、マクリーだ。
「はい。ここ数日、複数の量産型アリスが襲撃され、破壊されているようです。」
「成る程な。被害者に特徴は?」
「……全員、アリス解放戦線の所属です。」
聞かされる被害者達の共通点。それを聞いたリウは表情をぴくりと動かした。アリス解放戦線とは、アリスの自由と権利の為に戦うことをモットーとしている集団である。だがその実態は、ただの過激派だ。
「そうか……もう少し詳しく調べておいてくれるか?嫌な予感がする。」
「了解しました。」
とはいえ、そこに所属しているアリス達の中には名の知れた武闘派も多く存在する。そんなアリス達が次々と破壊されているとなれば、当然警戒するというものだ。マクリーは、そう考えていた。
しかし、事実はそうではなかった。リウは一人残された部屋の中で、椅子に座りながら用意された資料を読み込み、考え事をしていた。注目するのは、破壊されたアリスに付けられた傷だ。
「……(被害者等に付いた傷、これは刃物……刀剣類だな。どれもこれも一太刀で致命傷を与えてやがる)」
明らかに、手練れが与えたものであろう深い傷跡。どう考えても、襲撃に慣れた者がした事だ。そして、また違う資料の束を手に取る。此方は、アリス解放戦線に所属しているアリスの中でも武闘派としてマークされている者達だ。
「次はこいつだな。全く……もう、会うことは無いと思っていたんだがな。」
そう呟きながら、リウは一枚の資料を手に取る。犯人はそこに書かれていたアリスを次に狙うだろうと予想する。その口振りから、この惨事を引き起こした下手人が何者であるのかを理解しているようだが……?
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一方その頃、ある古びた廃墟ではというと。
「ぐ、っ…げほっ、げほっ……」
「この程度とは……まぁ、頬に傷を付けたことは評価しますが。」
「っっ…(化け物かよ…)」
下手人のアリス、センクがベンチに座りながら刃から燃料を拭っていた。その周囲には、複数のアリス及び解放戦線に所属している生徒達が転がっていた。
その中で唯一意識を保っていたのは、リストにピックアップされていた元傭兵である海賊版アリス、リックである。彼女は右手を切り落とされた上、喉を切り付けられて残った左手で押さえなければならなくなり、無力化されていた。
「質問がある。それに応えたら、生かしてあげるかも…ね?」
「……誰が、組織が得ている情報を話しますか。」
センクはそう告げると、得物であるブロードソードの切っ先を突き付ける。しかしリックも組織に属している者だ。組織が持っている情報を話す気はなかった。
「アリス解放戦線に喧嘩売って、ただで済むと思っt」
「うるさいですね。」
「~~~~ッ!」
しかし、センクは何の躊躇いもなく剣を横に振り抜き、リックの頬を切り裂いた。痛みに悶えるリックを足蹴にする。
「全く、素直に話せば壊されずに済んだものを……勿体ない真似しましたね。」
「命乞いは、しないですよ…こんな生き方、してるんです。覚悟は……出来てます。」
「そうですか……では。」
傭兵という生き方をしてきた。故に、覚悟は出来ている。リックの言葉に、センクは切っ先を喉元へと向ける。
「させませんよ。」
「!」
しかし、それが喉元を貫くことはなかった。何処からともなく狙いがセンクに合わさり、同時に二発の弾丸が放たれた。とはいっても、それはセンクに避けられるのだが。
「久しぶりだな。センク。」
「……リーウー……やぁぁっと、会えましたねぇぇ?」
物陰から表れたのは、既に闘気を滾らせたリウであった。その姿を見た瞬間、センクもまた、殺気が凄まじい勢いで吹き出す。
「何、が…」
「無事ですか?」
「……貴女、は?」
「アリス保護財団です。」
何が起こっているのか分からないといった様子のリックの元に、マクリーがやって来た。よく見るとククラも来ており、物陰へと引き込んだアリス達の応急修理を行っていた。
「お前を殺すのを、ずぅぅぅっと、待ってたぞぉ?」
「随分と、人相が悪くなったな。」
「変わったのはお前もだろぉ?綺麗なヘイロー付けちゃってさぁ。」
そんな事を一切気にすることなく、二人は向かい合う。リウの漆黒の両腕と両足には、無骨な鎧が身に付けられている。
「お前が脱走して以来、ファミリーは潰れちまったぞ?家族を、引き裂いてさぁ…どんな気持ちなんだ?」
「洗脳されて良いように使われるよりマシだろ。お前みたいに、今も囚われ続けてるよりはな。」
互いにそんな事を言い合いながら、一歩、また一歩と近付いていく。彼女達二人は、かつて同じ場所に居た。同じマフィアに購入され、同じ釜の飯を食い、同じように殺しの技を教え込まれた。
だが、その末に辿った道は違った。壊れていくファミリーに対し、リウは逃げ出す道を、センクは殉ずる道を選んだ。それによってリウはククラと出会い、センクは怨念を宿した。
「……もう、何言っても聞かなそうだなぁ?」
「お前もな……道は別れた。だから、もう残った選択肢は一つだ……」
互いの間合いに入った時、最早、言葉は要らなかった。
「オオオッ!」
「シュウッ!」
「まぁ、これくらいなら防ぐか…!」
「次は、私の番だな…!」
互いに強く踏み込む。センクが剣を袈裟懸けに振るうが、リウがその空気を切り裂く渾身の一撃を防ぐ。
それと同時。リウの足が地面を強く踏み締める。
「破ァ!」
「ぐぅぅぅ!」
繰り出されるは左の掌底。空気が爆発したかのような衝撃音と共に、センクは大きく後退する。しかし彼女も一流。咄嗟に腕を間に入れることで直撃を防いだ。
「こっからが本番、だよなぁ?」
「当たり前だ。」
龍虎相撃つとは正にこの事か。だが、これは始まりに過ぎない。この死闘は続いていく。最早この戦いは、どちらかが倒れるまで終わることはない。