黒々と
心から満足げな笑い声と、花の残り香から逃げるように、その場を去った。
「……私達にも、もっと何か、出来る事があったのでは……」
「神々の意志が関わる以上、どうしようもなかった。例えばドゥリーヨダナが居なくとも、別の誰かの腹から機構が生まれて人間は間引かれる。巻き込まれる者の中には、間違いなく百の王子と一の姫も含まれるだろう。人を守るには、結局悪魔に弓を引くしかない。」
「……。」
クリシュナは冷静に、淡々と事実だけを語り、アルジュナを諭す。
下らない妄言に水をさすように。
「⸺出来る事はなかった。理解っているだろう?そもそも、この地そのものが限界であった以上、八方塞がりだった。」
「クリシュナ……。」
……何かがおかしいと思いながら、縋るように無言で目を閉じれば、ぴしゃんと戸を閉めるように告げられる。
「過程はどうあれ、戦争は終わった。我々の勝利で。荒れた地も安定して徐々に元の姿を取り戻すだろう。おまえが塞ぎ込む必要は……」
「⸺勝利?」
そうしてクリシュナが並べ立てる言葉は、事実。事実である筈だったが。
そこへ、嫌に柔らかな言葉が混ざっているのに気が付いた。
気が付いてしまった。
……そうなれば、もう、唇が嫌な弧を描くのを止められない。
「クク。ハハハ……あははははははは……!」
「……アルジュナ?」
乾き切った笑い声が、血濡れた大地に木霊する。
誰にも見られてはならないと、悍ましくも愚かな■への嘲笑が漏れ出す口を覆いながら、ふらふらと座り込んだ。
……従兄弟たちが天の国へ去って往った後で、本当に良かった。
だって、申し訳が立たない。
「それこそ、欺瞞だ。クリシュナ。いいや……■■■■■。私が何に勝ったというんだ!?何も、何にも勝ててなどいない!どうしようもなかった?出来る事はなかった?そう思いたいだけだろう!そんなもの、英雄の責務から逃げているだけだ……!」
今更こんなにも恥ずべき黒(己)に気が付いてしまった。
私は、何も諦めない、瑕疵の無い立派な英雄でなくてはならないのに。
そうでなくては、彼らの流した血に報いることが出来なくなってしまう。彼らの流した血が無意味になってしまう。あってはならない、そんなこと!
「⸺では、救わなくては。もう二度と、こんな悲劇が起きなくていいように。」
「……そうだ。」
「我々が……」
「「救いようのないアルジュナ(私/俺)が、全てを救い上げるまで、勝利なぞ、無い。」」
そして、本当に全てを救い上げたとしても、その日はけして訪れない。
だってそれは授かり物の勝利だ。
それを己の勝利と勘違いする日など、永久に訪れなくて、いい。
苦い苦い己の汚濁でふらふらしては不健康極まりない思考を吐き出す自我を抑えつけて、土埃を払い、立ち上がった。
なんでもない顔をして。