麦わら帽子のヒーロー②

麦わら帽子のヒーロー②









なんというか、段々腹が立ってきた。

未だに姿を現さない幼馴染に対し、ウタはそんなことを思い始める。


「正義のコートに恥じぬよう、精進するように」

「はい!」


今、勲章と共に正義のコートを受け取っているのは彼女の部下である女性海兵だ。彼女が終わると、いよいよウタとルフィの番になる。

だが、相変わらず彼の姿はない。


(もうなるようになるよね)


最早、諦めの境地へと突入したウタ。センゴクも何かを察したらしく、チラリとこちらに視線を送ってきたので頷いておいた。

微妙に青筋が浮かんでいるのは知らない。怒られるのはルフィだけだし。

そして、ウタとここにいないルフィの番になった瞬間。


「どいてくれぇ〜!!」


轟音と共に、会場のど真ん中に何かが着弾した。そう、着弾としか言いようがない衝撃音が響き、会場に小さなクレーターができる。

いきなりの出来事に、海兵たちが反射的に武器に手をかけた。こういうところは流石である。

ただウタだけは、右手を額に当てて呆れたようなため息を零している。そして彼女は、そのままツカツカとクレーターに向かって歩いていく。


「いや〜、間に合ったかな?」

「間に合ってるわけないでしょ!」


そしてそのままチョップを叩き込んだ。痛ぇ、という声が上がる。


「何すんだよウタ!」

「こっちの台詞! 大遅刻どころか屋根突き破って落ちてくるなんて前代未聞よ!」

「しょうがねぇだろ色々あったんだから!」

「色々って何!」


いつも通りといえばいつも通りの光景である。無茶をするルフィを怒るウタ、という構図だ。普段なら本部でもスルーされる二人のやり取りであるが、今は状況が状況である。


「お二人とも、落ち着いてください!」


二人の部下の女性海兵が制止に入る。おっ、とルフィがその姿を見て笑った。


「いたいた。なあ、お前の弟が来てるんだよ」

「え、はっ、弟?」

「う、う〜ん……」


困惑する女性海兵に、ルフィは彼が連れてきた青年を指し示す。彼は数回頭を振ると、女性海兵を見て表情を変えた。


「姉さん!」

「え、ちょっ、嘘、なんで」

「姉さんを探しに来たんだよ! 父さんもすまなかったって言ってる!」

「は、はぁ!? 何を今更!」


姉と弟、感動の再会である。ししし、とルフィが笑った。


「やっぱりか〜。いや人違いだったらどうしようかと」

「ルフィ、あの人は?」

「弟だってよ。なんか、えれじあ? ってとこから来たらしい」

「エレジア……へぇ……」


音楽大国、エレジア。音楽に携わる者としては、興味のある国だ。いつか行きたい場所である。


「音楽の国なんだってな。行ってみてぇよな〜」

「そうだね、いつか行ってみたい」

「じゃあ一緒に行こうぜ!」


笑いながら言うルフィ。思わず、こちらも笑顔が溢れた。


「うん、約束だね。……で、あの人を連れてくるのに遅れたの?」

「いや? その時はもう遅刻は確定してたな」

「おい」


思わず素でツッコミを入れてしまう。それがよ、とルフィは腕を組んで言葉を紡いだ。


「時間は余裕があるはずだったんだよ。あの後に着替えて、部屋を出てさ」

「ふむふむ」

「そしたらよ、迷子がいてな。一緒に探してたんだ」

「……ふむ」

「そうしてるうちに今度はなんか、この間近くの島で海賊の襲撃があったんだろ? あれで家と店を焼かれたっておっさんがいたから、食堂のおばちゃんに紹介してた」

「ふ〜む……」


嘘のように思えるが、ルフィである。まず間違いなく真実だ。

そうなると、とウタは思った。自分に彼を怒ることはできない。彼は式典よりも、市民のトラブルの解決を優先していたのだから。



「なるほど、話はわかった」



そこに、重い、腹の底に響くような声が響いた。

あ、ヤバい。とウタが直感した瞬間。



「静粛に!!!!!」



大音量の、元帥による一喝が入った。その場の全員が、海兵も民間人も思わず背筋を伸ばす。ルフィとウタも反射的に海軍式の敬礼をしていた。


「まだ式は終わっておらん。そこの二名、前へ。……勲章を」


二名を招き寄せ、センゴクは補助の海兵から勲章を手に取る。


「此度の働きは見事であった。勲章の授与と、ウタ中佐は大佐への昇格を。ルフィ少佐は中佐への昇格を決定する」


それを手渡された二人は、敬礼で返した。それに頷きを返すと、センゴクが宣言する。


「今後も、己が正義を貫き、市民を守り、救うのだ」


そして、司会が終了を宣言する。会場の空気が、緊張から少しずつ解放されていく。


「いやー、終わった終わった」


そして、この幼馴染は敢えて背後から視線を逸らしながらそんなことを言う。


「なあ、ウタ。食堂に行こうぜ」

「うん。いいけど、その前に」

「そうだな、その前に私と話をしよう」


びくり、とルフィが身を震わせた。彼がゆっくりと振り返ると、憤怒の表情をしたセンゴクがいる。

ルフィは自然とその場に正座をしていた。すすっ、とウタは二人から距離を取る。縋るような目で見られたが、視線を逸らした。自業自得である。


「さて、何から説教するべきか」

「い、いや〜」

「まずは、遅刻についてだな」


はあ、とため息を零して言うセンゴク。既に式は終わったというのに、海兵たちも市民たちも彼ら二人を見守っていた。公開説教である。

割と本部内ではよく見る光景ではあるのだが、それはそれとして立ち去るのも……という感覚でここにいるのだ。ちなみにモルガンズは目を輝かせている。ルフィ着弾からずっとそうだった。


「あ、あの、すみません。僕が姉に会いたいと言ったせいで」


意を決した、という調子でルフィが連れてきた青年が声を上げる。センゴクはそんな彼に対し、いや、と首を横に振った。


「あなたは何も悪くはない。家族が栄誉を受ける式典だ。むしろ出席して欲しいと思うくらいでさえある。我々は市民を守ることが役目であるが、それは非人間であれという意味ではない。家族を大切にする気持ちを、海軍は蔑ろにはしない」


一息。


「あなたの姉は優秀な海兵だ。正義のコートを纏える立場であるということは、相応の責任が勿論あるがそれ以上に海軍という組織がその海兵の“正義”を認めたということでもある。細かな事情については承知しておらず申し訳ないが、あなたの姉は我々の誇りだ。そこだけは信じて欲しい」


誇り、という言葉を受けて、女性海兵が僅かに涙ぐんだ。単身で海軍本部の門戸を叩き、ここまで来たのだ。それをこうも真正面から称賛されれば、込み上げるものがあるのだろう。


「故に、その件については問題はない。迷子の親探しも、先日の海賊襲撃の被害者の手助けについてもだ。それはむしろ海兵としては実に正しい振る舞いである。我々はただの戦う集団ではないのだ。か弱き人々に寄り添い、共に在ることこそが大前提だ」


ただし、とセンゴクは言う。


「そこには、信頼がなくてはならん。時間というものはその最たるものだ。なあ、ルフィ中佐。いつも遅刻を繰り返す海兵が、襲われる街から助けを求められたとして。『すぐに行く』と、そう応じたとして。……その言葉に、どれだけの信頼がある?」

「…………」

「約束の履行を積み重ねて、ようやく“信頼”は築かれる。お前が今回成し遂げたことによって、お前に対する“信頼”が一つ、積み上がった。しかしそれは、一瞬で崩れ去る脆いものなのだ」


流石のルフィも、沈黙して話を聞いている。知らず、周囲の者たちもセンゴクの言葉に聞き入っていた。


「お前がすべきだったのは、他の海兵の手を借りることだった。一人で動く必要などない。我らは組織で、市民を想う気持ちは皆同じなのだから。……故に、遅刻については顛末書の提出だけにしておく」


顔を上げるルフィ。その彼に、ただし、と彼は言葉を続けた。


「天井の穴は別だ」


あ、ヤバい。

ウタもそうであるが、この場の全員が確信し。

そっと、示し合わせたわけでもないのに全員が耳を塞いだ。



「来るなら扉から来いこの馬鹿者が!!!!! あの天井の修繕にも金がかかかるのだ!!!!! この件については貴様の給料から修繕費を天引きする!!!!!」



建物が揺れるのではないかという程の怒声から、ルフィへの説教が始まる。

その光景は、モルガンズによって次の日のニュースの一面写真に使われた。



◇◇◇



説教を終えたルフィは、あはは、と笑いながら建物を後にしていた。全く堪えていない様子に、ウタは逆に安心する。


「いやー、怒られた。けどまあ、時間については気をつけるよ」


ただ、こうして意識改革が少しでもできたなら成功なのだろう。……どうせ彼のことだ。すぐに何か問題が起こるとそちらに向かっていくのだろうが。


「とりあえず、腹減ったなー。食堂もおっさんがどうなったか気になるし、食いに行こうぜ」

「いいよ、じゃあ勝負する?」

「いいぞ、俺の517連勝目だな!」

「む、私の517連勝目でしょ!」


二人しての、いつものやりとり。当たり前の光景故に海兵たちは特に何も言わないが、この場には約一名、食いつく人間がいる。


「へいルフィの旦那! 今日も楽しませてもらったぜ!」


モルガンズだ。彼は翼で器用にサムズアップしながら、こちらへと歩いてくる。


「今日は遅刻したのは何でだ?」

「色々あったんだよ」


平然とルフィは受け答えしているが、ウタはこの鳥が苦手だ。ゴシップだろうと何だろうと、面白ければなんでも記事にする。一度ルフィとの熱愛スクープを流された時は大変な目にあった。

何というか、そういうのはまだ、こう。

気持ちの整理が、ついていないのだ。


「ああ、いた!」


気持ちウタがモルガンズから距離を取ったところで、そんな声が聞こえた。見ると、若い女性と一人の少女がいる。少女の方は、その手に一輪の花を持っていた。


「あの、今日は本当にありがとうございました!」


女性が頭を下げる。ルフィはいいよいいよ、と手を振った。


「会えたなら良かったんだ」


そんな彼に、少女が手に持っている一輪の花を差し出す。


「ありがとう」

「ししし、いいよ」


その一輪の花を受け取り、ルフィは笑う。その親子は帰り際にもう一度礼を言うと、手を繋いで帰っていった。

その姿を見送って、モルガンズが問う。


「ありゃ、さっき言ってた迷子探しかい? 中佐の立場になる海兵がすることじゃねぇだろう?」

「階級は関係ねぇさ。おれの手の届くところで泣いてたから、手を引いた。それだけだ」


伸びをしながら言うルフィ。彼はそのまま歩き出した。その背を追おうとしたウタに、モルガンズが問いかける。


「なあ“歌姫”。ありゃ、本気で言ってるのか?」

「ルフィが嘘を吐けると思う?」


そう言い切ると、ウタはルフィの背を追っていく。

モルガンズは、顎に手を当てて何かを考え込んでいた。



◇◇◇



食堂は、いつも通り盛況だった。いや、いつも以上かもしれない。普段から常にキャパシティオーバーな状態なところに、新たなコックが加わったことは非常に大きい。


「はい、お待ち!」


ルフィが紹介した男性は、額の汗を拭いながらも笑顔で働いている。その姿を見つけ、ルフィが声をかけた。


「おっさん、ここで働けるようになったんだな!」

「ルフィさん! はい! 採用していただいて……ありがとうございます! 恩に着ます!」

「大袈裟だなァ。まあいいか」


笑うルフィ。その彼に、厨房の責任者でありルフィがおばちゃんと呼ぶ人物が声をかけてきた。


「ルフィちゃん、いいのを紹介してくれてありがとうね! 言うだけあるよ!」

「ホントか!」

「ああ! これは礼だよ、奢りだから一緒に持って行きな!」

「おお、ありがとう!」


ルフィが注文した大量の肉の定食に、更に肉が大量に積まれた皿が追加される。男はそのトレイを持ちながら、ありがとうございます、ともう一度ルフィに感謝の言葉を述べてルフィへと手渡した。

その光景を隣で見ていたウタは、ルフィとは違って全体的にヘルシーな定食を手にしつつ、ねえ、とルフィに言葉を紡ぐ。


「あの人がさっき言ってた人?」

「ああ、そうだ。コックだって言うからおばちゃんに連絡したんだよ。いやー美味そうだな!」


当然のように食堂の一角に座る二人。ルフィは既に目の前の食事に夢中だ。


(自分がどれだけあの人にとっての救いになったか、わかってないね)


隣で美味しそうに定食を食べるルフィは、おっさんやるなーなどと声を上げている。

住む場所を奪われ、明日さえも見えない中でルフィがやったことは救済そのものだ。ルフィはそれを当たり前だと言うだろう。彼はいつだって、そう言って誰かを救ってくれるのだ。


(全く、人の気も知らないで)


ウタ自身も、彼に救われた一人だ。シャンクスに置き去りにされ、周囲に当たり散らし、荒れるだけだった自分の側に居てくれた人。

だから、ウタはルフィの隣にいることを決めた。

いつか、彼がくれた救いを返したいから。

そうしてから、ずっと隣にいたいから。


「ん、どうしたウタ。おれの顔に何か付いてるか?」

「うん。ソースが付いてる。ちょっと待ってね」


おしぼりを手に取り、顔を拭いてあげる。世話が焼けるな〜、とウタは笑った。

ルフィは嫌そうにしているが、抵抗はない。いつものことだ。

そんな、周囲の人間がブラックコーヒーを注文しにいくようなやりとりをしていた二人に、とある男女が歩み寄ってくる。


「あの、ルフィさん。今日はありがとうございました」


そう言ってきたのは、ルフィと共に会場へと突っ込むという罰ゲームを受けた青年だ。その隣には彼の姉であり、二人の部下である少尉の姿もある。


「いいよ、おれも行く途中のついでだったんだし」

「むしろ謝らないと……ごめんなさい」


ウタが頭を下げる。彼女はルフィに抱えられてあのふざけた移動について慣れているのだが、流石に一般人にあれはキツいだろう。部下の中には……というか大多数が、ルフィが運ぼうとすると走って行きますと拒否している。

ちなみに単純な拒否もあるが、ウタ以外が抱えられるのはちょっと……みたいな妙な考えが二人の部隊にはあるので専らルフィ式ゴムゴム移動はウタを抱えてのものになる。追いかける部下たちはそれだけでやたらと鍛えられていた。


「いえ、姉があなた方のような方の下で働いていると聞いて安心しました。父からは連れ戻せとも言われましたが……」


ちらりと、青年は自身の姉を見た。彼女の肩には、正義のコートがかかっている。


「充実していて、音楽も続けているようなので。僕は帰ろうかと」

「まあ……たまに連絡はするから」


バツの悪そうな表情で言う少尉。そういえば、かつて父と喧嘩して海軍に入ったとウタは聞いたことがある。その時、ウタもまた父であるシャンクスに置き去りにされた過去から自分も父と揉めていると言い、それがきっかけで仲も良くなった。


「お父さんと喧嘩した、って言ってたけど。何が理由だったの?」

「音楽性の違いです。その……私はロックとか、そういう流行りの曲が好きで。でも父はクラシックこそが至高だっていう頑固ジジイなもので」


頬を掻きながら言う少尉。まあ、ジャンルの好き嫌いで揉めるのは音楽関係者あるあるである。一家で音楽家、それもエレジアともなればそういうこともあるだろう。


「でも姉さん、流石にバイオリンでロックは行き過ぎだと思う」

「いやだってロックは自由だし」


思った以上に少尉がロックだった。


「まあでも、ここで大佐と一緒に色んなライブをやったりして私も考えが変わったから。……あ、そうだ」


ふと、思いついたように少尉が言う。食堂の奥に置かれたピアノを示し。


「久し振りにあんたのピアノ、聴かせてよ」

「え、いいけど。……どうせなら、歌も欲しいですね」


ちらりと、青年がウタを見る。おっ、とルフィが声を上げた。


「ウタの歌が聴けんのか?」


その声に、周囲の海兵たちが反応する。


「おい椅子どけろステージ作れ!」

「飯は急いで詰め込め!……ああいや味わいながら食え! ただ急げ!」

「ピアノ動かすから手を貸してくれ!」


問いかけだったはずの言葉は、一瞬にして真実になった。今更やらないなんて言えず、あー、とウタは声を上げる。


「ま、いっか。私とルフィも、少尉も昇進して。ナミの入隊式もあったし、そのお祝いということで」


おおっ、と周囲から歓声が上がる。中には廊下に出て呼び込みを始める者もいる。

ウタのファンは非常に多い。それが食堂で、ゲリラライブをするのだ。ここぞとばかりに海兵たちが食堂内にステージを作成する。


「じゃあ、私はバイオリンで」


青年が持っている鞄を受け取り、少尉が中身を取り出す。使い込まれた楽器が現れた。


「姉さん、鈍ってないよね?」


ピアノの前に座りつつ言う青年。その彼に、少尉は不敵な笑みを返した。


「こちとら大佐と一緒にライブしてるんだから。それよりあんた、大佐の曲を弾けるの? 楽譜は必要?」

「必要ないよ。エレジアでも“歌姫”の歌は評判だから。僕も何度も聞いた」

「えっ」


ステージに上がり、マイクの準備をするウタは青年の声に驚きを返す。青年は笑って。


「エレジアは、あなたが来る日を待っています」


そう、言った。

世界でも有数の音楽の本場であるエレジア。その住民に、ここまで言わせる。その事実に、食堂の海兵たちも歓声を上げる。

ウタは微笑み。


「ええ、いつか必ず」


そして、彼女はマイクを手に取った。

ふと、視線がそちらを向く。

観客の一角に混じり、近くの海兵と肩を組んでいる幼馴染の姿。

ぱちん、と。

その幼馴染に、右目で一つウインクを飛ばして。


「さあ、いくよ!」


急遽、“歌姫”のライブが始まった。



◇◇◇



元帥室。書類仕事にひと段落がついたため、センゴクは息を吐いた。その彼の視界に入るのは、今日の新聞だ。


『海軍のニューヒーロー“麦わらのルフィ”はお騒がせボーイ!?』


そんな見出しと共に載せられている写真は、センゴクが正座するルフィを説教する写真だった。記事の中には、自分の説教の内容についても全て載せられている。

一見するとただルフィが遅刻して騒ぎを起こしただけのように見えるが、二面を読むとその印象がひっくり返る。

そこにはルフィに一輪の花を渡す少女の写真と、姉弟の再会を見守る彼の写真があり、式典に何故遅れたのかが書かれている。

全く、とセンゴクは呟いた。


「貴様の孫はどうなっとるんだ」


窓の外、雲一つない青空を見る。そこに、任務で本部を離れている同期の姿を幻視した。

煎餅を齧りながらサムズアップしている。満面の笑顔だ。死ね。


「だが、貴重な人材だ。……大佐がいるのであれば、まあ、ガープのようなことにはならんだろう」


あの“歌姫”も実はああ見えて中々ヤバい気質をしているが、今の所お互いが上手いことバランスをとっている。願わくば、それが続いて欲しいところだ。

そして、彼は一つの報告書を手に取る。それは、政府加盟国であるアラバスタについての報告書だ。


「反乱軍か……」


雨が降らず、国が荒れているとは聞いていた。だが、あの国の王はセンゴクも知っているが偉大な王である。それが、どうしてここまで。

自然現象が相手だということもあるだろう。だが、こうまで拗れるものか。


「一つ、調べてみるか」


丁度、アラバスタの周辺海域が不安定な状態だ。

派遣するのは誰に、と思ったところで、改めて新聞が目に入る。


「若過ぎる……が、そうだな。任せてみよう。あの二人とその部下なら、なんとかするだろう」


そう決めると、センゴクは命令書の作成に取り掛かる。


この決定が、後のアラバスタ王国の歴史に刻まれる大規模な事件に繋がることを。

誰もまだ、気付いていなかった。





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