鯖シャルロの聖杯戦争(前)

鯖シャルロの聖杯戦争(前)

シャルロを召喚したシャルル(?)の話


・カルデアで経験を積んでだいぶマイルドかつ愉快になったシャルロ、宝具の設定はセイバーとアサシンのマテリアルからお借りしました

・マスターのシャルルは記憶なし

・舞台は現代、型月の設定ふわふわ

・かなり父親LOVE勢なシャルロ

・スレのパート8.5で出た鯖シャルロのネタをかなり拾ってる



──────────



 いつも通り会長として生徒会の仕事をこなして、普段より遅くなった帰り道。耳慣れない金属音がするからと、路地裏に様子を見に行ったのが運の尽きだった。

 そこにいたのは、まるでヒトとは思えない速度で互いに武器を打ち合う者たち。 あっけに取られたのも束の間、未知の存在への困惑と恐怖で後ずさりして、うっかりカツンと小石を蹴った瞬間二人の目がぎょろりとこちらを向いた。


 殺される。判断は早かった。

 普段は大事にしているカッコ良さを忘れるほどに全力で走る。追ってきているか確認する一瞬が命取りになると直感が告げていた。


 死に物狂いで辿り着いた先、誰もいない自宅の一室。指は勝手に動いて、開けてはならないと自ら封じた、封じたことも忘れていた棚の扉に手を掛けた。


 ──もう戻れないぞ?


 望むところだ。


 躊躇わず開けると出てきたのは、謎の紋様が描かれた黄ばんだ紙。これが何かは分からないのに、勝手に口をついて台詞が出てくる。


「……告げる」


 ──これは運命の出会いだ。




────────




「召喚に応じ参上した。サーヴァント・アサシン。アンタが俺の、マ、ス、ター……?」


 幻霊一歩手前の、カルデアでの経験のおかげでぎりぎりサーヴァントを名乗れるような俺を召喚したのはどんな奇特なマスターだろうか。

 地味に憧れていたカッコ良い台詞を言おうとして、途中で思考が停止した。


 目の前にいたのはお父様だったのである。

 お父様!? お父様ナンデ!?


 いや、焦るにはまだ早い。世の中には似た顔がごまんといることを俺はカルデアで学んだ。

 そう、お父様は増えるもの──!


「うおっ人!? マスターって何!? 何が起きてんのかよく分からないけど……とにかく来てくれてありがとな!」


 マスターは呆然とした後ひとりでに立ち直って笑った。

 落ち着け俺、聖杯からの知識によれば今は現代。喚ばれたのはごく普通の聖杯戦争のためで、特異点、異聞帯もしくはそれ以外ってわけじゃなさそうだ。


 お父様にしか見えないマスターだが、俺のことを知らないなら他人の空似だな、ヨシ! 

 たぶん超遠縁の子孫とかだろう。


 話を聞いたところ、マスターは聖杯戦争どころか魔術についてすら何も知らない一般人だ。

 ここは自宅と思われる屋敷の一室で、触媒も何もあったもんじゃない。

 子孫なら俺を縁召喚できるものなんだろうか。むしろ知名度から言ってお父様が来そうなものだが。幻想と現実ミックス状態のお父様か、もしくは十二勇士とか。


 まあ考えたってしょうがないしきっと偶然だろう。俺のことを心から望むようなマスターなんているわけないし。偶然にしろ俺なんかを喚び当ててしまったマスターは運がないとしか言いようがない。


 ともかくマスターに聖杯戦争や魔術について説明して、今後の方針を決めようという流れになった。


「最初に言っておくが、俺は弱い。全サーヴァントの中でも下から数えたほうが早いだろう。だから正面からの戦闘で勝てる見込みはほぼない」

「えっ」

「ただラッキーな点が一つある。それはアサシンが俺だから、マスターが暗殺される確率が極めて低いことだ。どうするマスター、正攻法じゃ勝てないこの戦争、乗るか降りるか? ああ、棄権するとしても、この命を賭して無事に教会まで送り届けると約束する」


 マスターをじっと見つめる。負けじとマスターもじっと俺を見つめる。目を逸らしたほうが負けな気がして、数秒睨み合ったあと、ふはっ、とマスターが吹き出した。


「ああ、腹を括ったよ。──俺は、この戦争に乗る。魔術だのサーヴァントだの、挙げ句の果てに願いが叶うなんて言われてもまだ飲み込み切れてない。だけどこの話を知ってしまった以上、一般人が巻き込まれるかもしれないのに何もしないのはカッコ悪いし。それに……」

「それに?」

「アンタがいてくれるからな! よろしくアサシン!」

「そっ……! そうか。こちらこそよろしく頼む。……じゃあまずは計画を立てないとな。正攻法じゃ勝てないとは言ったが……」


 眩しいほどの善意。一般人にその精神はなかなか持てるものではない。

 お父様にそっくりなことを除けば好感の持てるマスターだ。場合によってはとんでもない悪人に召喚されることもあるだろうし、ツイてる。

 別に必要とされて嬉しくなっちゃったとかそういうのではない。断じて違う。


「他のサーヴァント同士が争ったあと、頭数がギリギリまで減ってから攻撃を仕掛けたい。できれば俺以外が残り一騎になるまで待つ。……つまり、漁夫の利を狙いたい」

「なるほどなぁ。だけどそこまで勝ち残るサーヴァントは相応の実力があると思うんだ。相手も消耗しているだろうとはいえ、そこから勝てる見込みがあるのか?」

「……奥の手がある。相性もあるが不意打ちで叩き込めれば、勝ちの目があるかもしれない。いや、勝つ。勝ってみせるよ」


 俺の宝具。お父様という輝かしい軌跡に泥を塗った俺自身を刃として、英霊の輝きを貶める宝具。ついでに(お父様の)呪詛のおまけ付きだ。

 一度だけの忌むべき切り札だが、このマスターのためなら切れる。


 聖杯は……諦めよう。仕方ない、今回は縁がなかったってことで。それにこのマスターならきっと悪いようにはしないだろう。


「なるほど、奥の手ってことは使い所を見極めなきゃだな。……あ、そうだ。一般人が襲われないように夜間パトロールをしたいんだがダメか?」

「やめたほうがいいというのが本音だが……それはマスターが聖杯戦争に参加する理由だろう? 俺も護衛として連れて行ってくれるなら構わない。ただ何かあったら一般人とマスターを連れて逃げの一手だからな」

「無理言ってごめんな、ありがとう」

「……アンタに礼を言われるほどのことじゃない」


 俺だって民たちを守りたい。守られるだけじゃなくて、誰かを守れる俺になりたいんだ。

 そもそも他のサーヴァントに襲われている一般人なんていないほうがいいんだけどな。


 マスターから流れてくる魔力は一般人とは思えないほどに質が良く潤沢だから、魂喰いに手を出す必要がないのは幸いだった。現界どころか戦闘や宝具を撃つのも全く問題なさそうだ。サーヴァントが俺でさえなければ、順当に真っ向勝負で勝利できるんじゃなかろうか。


「俺はアサシンに危ないところを助けてもらえたからよかったものの、他の人はそうじゃない。だから少しでも被害を少なく──」

「待ってくれマスター、聞き間違えじゃなければ、もしや既に他のサーヴァントに襲われたのか?」

「あれ? 言ってなかったか? 下校中にサーヴァント同士の戦いを目にしちまってさっきまで逃げてたんだよ」

「……そういうことは先に言え──! 下手したら拠点割れてんじゃねえか!?」

「おおっと、悪い悪い。そんなに怒んないでくれよ。……というか、サーヴァントを追い払ったのはアサシンじゃないんだな?」

「ああ。俺じゃない。俺が召喚されたことに気づいて撤退したのかもしれないが」

「うーん、逃げるのに必死で追いかけてきてるかどうか確認できなかったんだよなあ」


 近くにサーヴァントの反応は今はない。

 気配感知スキルなんぞは持ち合わせていないのでほぼ勘だけど。使い魔くらいはいるかもしれないがどれだけ気づけるだろうか。

 ……我儘は封印したので、スキルを『持ってくる』のはナシだ。

 俺が召喚されたことがどれだけ知れ渡ってしまっているかが問題だ。今夜にでもここを襲う判断を下すマスターがいるかもしれない。


「拠点を移動したいところだが……この街の中に別荘とか、あるか?」

「さすがにないぞ」

「じゃあしょうがない。拠点はひとまずここのままにしよう」

「いいのか?」

「ホテルなんかを借りたとしても一般人を巻き込む羽目になる。この時期に野宿も厳しい。だったら窓から見る限り近くに民家のないこの屋敷に攻め込まれたほうがマシだ。……そうだろ?」

「……ああ。ありがとな」

「見たところ結界も貼られているし」

「結界?」

「俺が召喚された時には既にあったが、貼ったのはマスターじゃ……いや、マスターは一般人だったな。親が魔術師なのか?」

「……俺の両親、俺が小学生の時に交通事故で亡くなったから。魔術師かどうかは分からないけど遺してくれたのかもしれないな。今は遺産も屋敷も俺一人で管理してて」

「……悪いことを聞いたな」

「いや、気にすんなって。俺ももう慣れたから」


 マスターの両親は相当裕福だったのだろう。

 この屋敷は現代基準でもなかなかに広く年季が入っている。しかし柱などに刻まれた彫刻はひどく精密で、あちこちに価値のありそうな絵や美術品が飾ってある。


 そして貼られている結界はずいぶん頑丈なようだった。邪気や呪いを弾くようになっていて、かつ内側からしか気付けないようになっている。

 高校生くらいに見えるマスターが小学生の頃から、つまり下手すると十年近く補強がされていないとなると、彼の親は相当手練れの魔術師だったであろうことが伺える。


 だとするとなぜマスターは何も知らないのだろうか。曲がりなりにも英霊である俺を召喚できたということは、魔術師として全く才能がなかったわけでもあるまい。

 後を継がせる気がなかったか、成長してから教えるつもりだったのか──いずれにせよ、真実は闇の中である。


「そうだ、アサシンは英霊ってやつなんだろ? じゃあアサシンはどこの誰なんだ? どんな冒険をしたんだ? 無理にとは言わないが俺に教えちゃくれないか?」

「……悪いが、教えたくない。俺の真名なんて知ったところで落胆するのがオチだろう。いや俺のことなんて知らない可能性も大きいが。……むしろ知らないでいてくれ、俺のことなんて後世に残るべきじゃなかった」


 これでもかと捲し立てた後、我に返った。マスターの視線と沈黙が痛い。

 けれど、英霊というものに抱いているであろうマスターの夢を壊したくない。


 ……さらに本音を言えば、マスターに落胆されたくない。


「分かった、聞かないでおくよ。その気になったら教えてくれ」

「ああ、すまない」

「でも自分で調べて当てる分には構わないよな?」

「それは……まあ……」


 それからしばらく話をして、夜も遅くなりつつあったのでマスターは眠ることにしたらしい。


 広い静かな屋敷でひとりぼっちのマスターの寝顔を、俺は眺めていた。

 マスターはどこにだって行けるし、誰とだって親交を深められる。だがマスターには親がいない。

 俺とは真逆だ。俺の人生にはお父様しかなかった。言い換えれば、お父様はいたのだ。

 ないものねだりをしたってしょうがないが、思うところがないと言ったら嘘になる。




────────




 不寝番を務めて翌日、マスターは学校に行くと言い出した。当然、護衛として俺も霊体化して付いていくことになった。

 実のところ、現代の高校というものに興味がないわけでもない。こっそりテンションが上がっていたのに気づかれたのか、マスターに微笑ましげに見られてしまった。……さすがに少し恥ずかしい。


 学校に着くまでの間に何人もの生徒がマスターに話しかけて来た。


「おはよう会長」

「おう、おはよう!」


 マスターはこの学校で生徒会長をやっているらしい。

 父上に似ているだけあってカリスマ性があるというか、口々に挨拶を交わす相手がみんなマスターのことを心から信頼していることが伝わってきた。


「あれ、会長その手どうしたんだ?」

「これか? うっかり寝ぼけて柱にぶつけちゃってな。こんなことで怪我したなんて広まったらカッコ悪いから内緒で頼む」

「へー、会長でもドジ踏むことあるんだな」


 令呪の宿った右手は包帯でぐるぐるに巻かれている。もし同じ学校内に他のマスターがいたら、令呪があらわになっていると一目でマスターと気づかれてしまうからだ。

 朝のホームルームが始まるまで、マスターの周りから人が絶えることはなかった。


 世界史、英語、数学など、知っていることも知らないこともあって授業を聞くのはなかなか面白い。……来てよかった。


 そして放課後、昼休みの内に生徒会の仕事を終わらせたマスターはさくっと下校した。そこまではよかったのだが。


『マスター。勘違いかもしれないが、家に帰るルートから外れてないか?』

「そりゃ寄り道するからな」

『は?』


 あろうことかマスターは、適当な建物の人気のないトイレの個室に入ると、霊体化を解くように俺に命じた。

 断っても何度も必死に頼み込んでくるので、ついにその勢いに負けて霊体化を解いてしまった。


「……これでいいか」

「あとマントと剣と足の武装も外してくれ。なるべく人ごみに紛れるように」

「何かあったらマスターを守り切れないかもしれないぞ」

「昼間から一般人のいる往来で戦いを仕掛けてくるような奴なら、むしろなんとか早めに倒したほうがいいんじゃないか? ヤバそうだったら全力で逃げるし。咄嗟に対応する時、武器を出すのにそう時間はかからないんだろ?」

「それはそうなんだが……」


 言われるままに武装も解く。

 さして広くもないトイレの個室に男二人、狭い上に人に見つかれば怪訝な目を向けられること間違いなしだ。


「それで、どうするんだ?」

「せっかくだからアサシンに、現代の男子高校生流の寄り道ってやつを体験してほしくてさ」

「マスター。サーヴァントは全盛期の姿で召喚されるから、別に俺は男子高校生くらいの年齢ってわけじゃない」

「細かいことはいいんだよ」


 マスターに連れられてまず向かったのは鯛焼き屋だった。なぜ鯛焼き? カルデアと聖杯のおかげで知識はあるが。


「よーぅおっちゃん! やってるか?」

「おっ坊主じゃないか! 隣は友達かい?」

「お、俺はそんなんじゃ」

「ああ友達! 最近外国からこの辺に越してきたんで俺が案内してるところなんだ」

「そうかいそうかい! んで、どれにするんだ? 友達は餡子食えるのか?」

「いっけね、確認してなかった。アサシン、餡子って分かるか?」

「分かるし食えるけど……」

「じゃあ問題ないな。おっちゃん、鯛焼き二つ、両方餡子……いや、片方抹茶クリームで!」

「抹茶クリーム!?」


 そんなのあるのか。

 店主が鯛焼きを焼いている間、生地が熱されている鉄板を食い入るように見ているマスターのことを横目でちらちら伺う。ふと目が合った。悪戯っ子のようにニッと笑うものだから、つられて俺も苦笑いを浮かべた。

 店主から渡された鯛焼きはまだ熱い。マスターがお代を払って、こっちが餡子と言って手渡されたそれに頭から齧り付く。恥ずかしながら目が輝いた自覚があった。


「美味しい……!」

「だろ? うまいだろ? ここの鯛焼き、俺好きなんだよなー。そうだ、餡子ひとくち分けてくれ」

「……マスターも分けてくれるなら」


 はいと手渡された抹茶クリームの鯛焼きを、ひとくち食べて返す。これはこれでアリだな。全然いける。


 すっかり鯛焼きを食べ終わった後、マスターはゲームセンターへ向かった。様々なゲーム機が騒音を発している。

 一通り見て回って、「なにかやりたいゲームはあったか?」と尋ねられた。


「どれと言われても……俺にはよく分からない」

「あー……それもそうだよな。よしじゃあ制覇するか!」 

「マスター!? お金は大丈夫なのか?」

「平気だから気にすんな!」


 パンチングマシーン、さすがに圧勝。サーヴァントの筋力を舐めてもらっちゃ困る。筋力Cは伊達じゃないのだ。

 マスターもこの店の最高記録は軽々超えていたから、一般人にしてはものすごいと思うけれど。


「というわけでマスター。俺みたいな貧弱サーヴァントでもマスターの頭くらいなら簡単にカチ割れるから、サーヴァントと戦うときは俺の前に出ないように」

「はーい」


 バスケットゴール、辛勝。ボールをゴールに投げ入れるのにサーヴァントとしての力はそんなに生かされなかったが、スペックの違いで僅差の勝利となった。


「これがサッカーゴールなら負けてなかったからな!」

「僅差だろうと勝ちは勝ち。……いやサーヴァントに肉体性能で張り合おうとしないでくれマスター」


 格闘ゲーム、敗北。今日初めてこのゲームをやるのに勝てるわけがなかった。操作でもたついているうちにKOされていた。初勝利に笑顔のマスター、大人げないとは思わないのか。


「おっしゃ勝ったー!」

「……もう一回。もう一回だマスター、次は勝つ」

「いいぜ! でも手加減はしないからな」


 太鼓のゲーム、知らない曲だったけど結構楽しい。

 カッていうやつ上手く反応しないんだが。というかマスターのほうなんかすごい勢いで音符が流れていってるが良く反応できるな。


「曲知らないとどうしようもない部分ってやっぱりあるし……クラシック曲とかならもしかして分かったりするか? 何年くらい昔の曲なら分かるんだ? バッハは? モーツァルトは?」

「いや俺とっくの昔に死んでる……いや待ってくれマスター、今のなし! 今のなしで!」

「なるほどアサシンは1600年以前の人物、と……」

「忘れてくれマスター!」


 レースゲーム、勝利。騎乗Bはズル? 聞こえないね。


「マスターの体がハンドルと一緒に傾くの可愛いな……ははっ」

「可愛いはやめてくれよ。……なんでレースゲームの車もうまく操れるんだ? アサシンの時代に車なんてないだろ」

「乗り物だから? 乗ったことないけど車も飛行機もたぶん運転できるぞ」

「……さすがに怖いから遠慮しておくな」

「そうか」


 クレーンゲーム。ジュワユーズみたいな剣のキーホルダーを眺めていたところをマスターは見逃さなかったらしい。


「それ、欲しいのか?」

「いや、いずれ退去する俺が持っていてもしょうがないから必要ない」

「そんなこと言わずに。……俺もそれ欲しくなってきたからお揃いってことで!」


 マスターは制止する間もなく筐体にお金を入れた。クレーンを動かして、スムーズに赤と黒の小さな剣がマスターの手に収まった。

 俺も同じように白と黒の剣を狙って、マスターのアドバイスを聞きつつ景品を手に入れた。


「その、マスターはそっちの色でいいのか?」

「え、なんでだ?」

「いや、マスターには白のほうが相応しいだろ?」

「そうか? 俺が欲しくてこの色にしたんだし、赤と黒はアサシンの色っぽくてカッコ良いと思うんだけどな」

「……そうか。差し出がましいことを言って悪かった。……俺の色がカッコ良い、か。似ててもマスターはお父様じゃないもんな、俺もちゃんと気を付けなきゃ」

「今なんて?」

「何でもない。……マスターを最期まで守り切ると、この剣に誓う。ありがとう、マスター」

「どういたしまして。そこまでかしこまらなくてもいいんだぞ?」


 白と黒の、ジュワユーズに似た剣が揺れる。

 俺の憧れ、幼い日の夢。誰からも疎まれる俺の色をカッコ良いと言ってくれる稀有なマスターだ。頂いたこの剣に恥じないように振舞おう。


 ……このマスターにすっかり絆されてしまった自覚はある。

 日も暮れてきたし、何も起こらずに帰れるといいんだけど。


「夕方になってきたし、一旦帰るか」

「了解した」


 帰り道、夕日に照らされて影が長くなる。帰宅して、夕飯を食べてもう一度外へ。

 俺たちの夜間パトロール兼、他の陣営の偵察が始まった。情報は力だ。なるべく交戦しないとしても、全体の戦況を知るのは大事だろう。


 静まり返った夜の街、残念ながら往々にして悪い予感は当たるものだった。


「下がれマスター!」


 即座に霊体化を解いて、振り下ろされた剣を受け止める。ギンと耳障りな音が響いた。

 数度切り結んで下がり、マスターを抱えて飛び退る。おそらく相手はセイバーだ。瞳に理性の色がある。一般人を襲うタイプか見極めて、なるべく早くマスターと離脱するのが俺の役割だ。


 推定セイバーの後方、敵のマスターがいるのを確認した。マスター狙いは……いや、やめておこう。とにかく逃げるのが優先だ。


「セイバー! そこのサーヴァント……おそらくシャルルマーニュだ! 油断するな」


 は?


「えっアサシンってシャルルマーニュだったのか!?」


 どうしてそうなった!?

 マスターも俺がアサシンだって言っちゃってるし。

 どうしようこれ、いやでもここで否定するのも……シャルルマーニュだと思わせていた方が都合がいいだろうか、仕掛けて来づらくなるだろうし。

 どうするのが正解なんだ。いっそ本当にお父様だったら問題なく敵を討ち果たせるだろうに、どうして俺なんだ。


「その護符は現存しているシャルルマーニュの護符と見た目が同じだ」


 お父様ー! お父様が俺に持たせてくださった護符のおかげで今とんでもない状況が発生しているのですが!


 ……ええいままよ。もうどうにでもなれ。

 深く息を吸い込んだ。イメージするのは常に最強のお父様だ。


「ああ。気づかれてしまっては仕方がないな。俺こそがシャルルマーニュである」

「やはり……!」


 言葉なくセイバーは斬りかかってくる。技量も力も敵わない。これ以上ボロが出る前に離脱しなくては。

 ここは俺の守護天使に任せよう。頑丈だからしばらく足止めしてくれるはずだ。

 ちょっと違和感を持たれるかもしれないが、お父様にも天使にまつわる逸話はあるしきっと誤魔化せるだろう。


「麗しきは審判の機動守護天使(アンジュ・ガルディヤン・パトリキウス)……! ここは退かせてもらうが……よいな、マスター!」

「……分かった!」


 いっそ殺せ。




────────




「その、アサシンはシャルルマーニュなのか?」

「違う……断じて違う……お父様はあんなじゃない……」


 なんとか撤退して屋敷に戻り、追撃はないことを確認してから一息ついた。霊体化もせずにベッドの隅で体育座りでいじける俺は滑稽もいいところだろう。


「そっか。そんなに落ち込むなって……ん、お父様?」

「あっ」

「シャルルマーニュの……息子?」

「あー……さすがにもう隠しておけないか。俺はシャルロ。偉大なる聖騎士帝シャルルマーニュの……馬鹿息子だ。悪い、こんなのがサーヴァントで」


 もう溜息しか出ない。スマホで俺のことを調べているらしいマスターに落胆されてもしょうがないだろう。


「シャルロ……なるほど。教えてくれてありがとな。それにさっき俺を助けてくれてありがとう」

「それはサーヴァントとして当然の行いをしただけで。それにセイバーに手も足も出なかったし……」

「さっきのシャルロ、すごくカッコ良かったぞ!」

「いやでも似てない物真似で場を混乱させただけで。……うっ、なんで俺、お父様の名誉を汚すような真似を」

「シャルルマーニュは許してくれると思うぞ?」

「その顔でそんなこと言わないでくれ」

「……?」


 お父様は許してくれるだろうけど、俺が俺を許せない。お父様に似ているマスターに見つめられるとなおさら罪悪感が……。


「とにかく、さっきの天使? あれが宝具ってやつなのか?」

「ああ。幸い破壊されはしなかったようだから今呼ぶこともできるが……そうだ」


 例の護符。『いと聖らかなる皇帝の蒼玉(ステラ・マリス・タリスマン)』。

 悪しきものを防ぎ、物理的な攻撃もカットする逸品。


「この護符はマスターが持っていてくれ」


 誰が持っていても力を発揮するはずだ。俺には守護天使がいるし、少しでもマスターが安全であるほうがいい。


「気持ちは嬉しいが大丈夫だ」

「……どうしてだ?」

「シャルロが倒れたらどうせ俺も死ぬしな! だったらシャルロが持ってたほうがいい」

「いや俺に何かあっても大丈夫なように渡したいんだが」

「それシャルルマーニュにもらったんだろ、勝手に俺に渡して大丈夫なのか?」


 ……駄目かも。

 俺は怒られないとしてもマスターがどんな目に遭うか分からないな……お父様だし。


「分かった。できる限りマスターのことは守るから、マスターも軽率な行動は慎んでくれ」

「了解! それで、夜間パトロールはどうする? ここで止めるのはカッコ悪いけど、シャルロの負担がデカいのは分かったしなぁ……」

「……どうしようか」




後編へ

https://telegra.ph/鯖シャルロの聖杯戦争後-12-21


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