魔王降臨
「んー……?」ペラペラ
「ウタ、何してんだ?」
「ん」ピラッ
「何だそりゃ、楽譜か?」
「うん。何か分かんないんだけど……
さっき気づいたら私の手元にあったんだ。いつの間にか」
「お前のじゃねーのか?」
「分かんない。覚えてる中にはこれ拾った記憶は無いんだけど……
何というか、懐かしい感じがするんだよね。ずっと私の近くにあったみたいな。そんなはずないのに」
「んー、おれも見たことねェなそれ。何て書いてあんだ?ちょっと歌ってみてくれよ」
「ん、いいよ。ちょっと待ってね……えーっと……
──ᚷᚨᚺ ᛉᚨᚾ……」
ドクン
「!?!?」
パサッ……
「ハァ……ハッ……」
「お、おいウタ、大丈夫か?どうしたんだ!?」
「ご、ごめん……ちょっと眩暈が……」
ビュッ
「あっ、楽譜が海に!こンの……」
「待ってルフィ!!」
「!」
「……いいの……よく分かんないけど……
多分あれ、迂闊に触っちゃダメなやつだから……このまま……」
「あの楽譜が……?」
「な〜〜〜っ!?何だべコリャあ〜〜〜!?」
「?」
「どうした、ロメ男?」
「る、ルフィ先輩にウタ先輩!こ、これちょっと見てくんろ!!」
「これ……お、ウタの手配書だ」
「手配書?私の?
……あっ!この写真!この前雑誌の撮影だって言われたから撮ったやつだ!よく撮れてるじゃん!」
「んだ、ウタ先輩は写真写りもお美しいべ〜……
って違う、そうだけどそうじゃねェ!!お二方、問題は懸賞金の額の方だべ!!」
「額……?
はァ!?何だこりゃ!?」
「……?」
「どれどれ……オイ、おれより高いじゃねェか。どうなってんだ?」
「そうだべ!ウタ先輩は人間に戻られて懸賞金がつぐのは初めてのハズ!
だからルフィ先輩達程名は広まってねェハズだべ!なのにこの金額!?一体どうなってるべ〜!?」
「何か心当たりはねーのか?」
「うーん、シャンクスの娘ってことがバレたのかな……?」
「それにしたって高すぎる。殆どルフィと変わんねェじゃねーか」
「だとすると分かんないなぁ……私そんなに悪いことしてたっけ……」ポクポク
「……ちょっといいかしら」
「ん?」
「もしかすると、ウタの能力が原因かもしれないわ」
「私の能力?」
「ウタはウタウタの実の能力者。それ自体も強力な能力ではあるのだけれど……
以前、とある文献で読んだことがあるの。ウタウタの実の能力者と深い関わりを持つと言われる存在……
『トットムジカ』」
「とっとむじか?」
「類い稀な歌の才能を持つ者がウタウタの実を食べると、どこからともなく現れるとされる楽譜のことよ。
寂しさや悲しさ、人の負の感情の集合体で、一口に『魔王』と称している資料もあったわ。
ウタウタの実の能力者がその楽譜を歌うことで顕在化する。圧倒的な力を持っていて、一晩で大国を滅ぼしたという記録も……」
「一晩で国を……?」
「や、やってないよそんなこと!?国を滅ぼすとかそんな……」
「ええ、分かっているわ。貴方はそんなことはしない子よ。
ただ、ウタほどの歌声があれば、魔王を引き寄せる可能性は十分にある。政府はそのことも危惧しているんじゃないかしら」
「手がはェーなあ政府も。もうそこまで洗い出してんのか?」
「あくまで推察よ。ただ、もし今後手元に見知らぬ楽譜が現れたとしても、気軽に歌ったりしては……ウタ?」
「………………」サァーッ
「う、ウタ先輩?何か顔色悪いべ……?」
「ね、ねえルフィ、さっきの……」
「あ、あァ、多分……」
「2人ともどういうこと?まさか……」
「……ごめん、それちょっと……歌っちゃったかも……」
「!?」
「ち、違うんだよ!おれが歌ってくれって言っちまったんだよ!ウタは悪くねェ!」
「ち、違う!ルフィは悪くないよ!私が勝手に拾ったのが悪くて……」
「誰が悪いとか話じゃねェだろ。それでウタ、何か異常はねーのか?」
「う、うん。歌い始めてすぐに眩暈がしたぐらいで……そこで歌うのやめちゃったから、他には特に何も……」
「ならセーフなんじゃねェのか?魔王とやらもどこにも……」
『ムー』
「ん?何か言ったか?」
「おれじゃねェぞ」
「……!ウタ、貴方の足元……!」
「え? ……あっ」
『ムー』
「「「………………」」」
「ま、まさかこれが……魔王……?」
「何か……思ったより可愛らしい見た目だべ……」
「というか、どことなく昨日までのウタに似てるな……?」
「気ィ抜くな、ロビンの伝承通りならこんな見た目でも……?」
「………………」
「……ウタ?」
「…………貴方、だったんだね」
『……ムー』
※楽譜は翌日には何故かウタの手元に戻っています