魔王、ココ

魔王、ココ

スレ主◆MwEI06QrZW2k


ある日、長男のガルス兄から兄弟姉妹全員に招集命令が出された。

集まる日が二週間後とか妙にゆったりしているが、(私達兄弟なら空飛んだり転移したりで1日あれば余裕で王都に集まれる)まぁ各々の予定やら仕事をそれまでに終わらせておけということだろう。

私自身としては町のアレコレやお隣の世界とのアレコレで必要な書類をポンポン判子を押していくだけで良いので、部下にいつ出かけるかだけ伝えるだけなラクチン準備だ。


いやはや、別の世界……ウィルヴィ・サーナの人間とこちらの人間で体内の魔力貯蔵量に差がありすぎて魔力回復薬(私やルコンのミルクを擬似再現した液体で作った錠剤)をそのまま売ろうとしたら、1錠どころか半錠でも魔法使いの魔力がオーバーフローして暴走する事が分かって大騒ぎになったのが懐かしい……なんて思いながらあちらの世界への回復薬輸送許可書に判子を押していた。


当日、ルコンに行ってきますと抱きしめながら伝えてそのまま空を飛んで王都へ向かう。

本当は妻も一緒に行きたかったのだが、家族だけでまず話すと通知に書かれていたのでお留守番をしてもらう事になった。かなしい。

全速力で行くモノでもないし観光がてら低速で道を眺めながら移動していたが平和そのもので特にトラブルや困った人がいたわけでも無かった。

山脈の分かれ目を通り、牧場や森を眺め、他の兄弟が居る町を横切り、私の町の広さより大きな湖を超えると見えてくるのがこの国ルツリアの王都だ。うーむいつ見てもデカいし広いし城は白いし、城下町はトンデモなく賑わっているのが空を飛んでいてもわかる。


「おっ、あそこに降りればいいんだな」


城に近づくとぐにょんと薄い柔らかい膜、おそらく結界を通り抜けたような感覚を感じて城門付近にある飛行している者が降り立つ場所を囲うように光が灯って誘導役の人が光の魔法で誘導してくれる。


「誘導ごくろうさまー」


そう伝えるとものすごく綺麗に敬礼をしてくれた誘導の人。うーむ、やはり父上やガルス兄の担当している所は違うなぁ……私は堅っ苦しくて苦手だが。

そのまま案内の人が来て皆の居る所へ向かう。とりあえず私が一番最後ということではなさそうで安心した。もしも最後の最後だったら……兄や姉になんてイジられるか考えたくもない。


「さーて、なんの理由で集められたのやら」


装飾が細かく刻まれている赤い大きな扉を使用人さんが開き、大事なときにしか使われないという会議室に入ると中央の大きな円卓があり半数は埋まっている状態だった。


「ココ、よく来てくれた」

「ガルス兄がわざわざ呼んだんだ、集まらない子は居ないよ」


窓際で外を眺めていた人……ガルス兄がわざわざ私のところまで来て挨拶してくれた。別にそんな改まる必要ないのに……。

兄様は私達弟妹と違い唯一の純粋なドラゴンだ。私と髪色は殆ど同じ赤色で、私より背が高くて角も立派だ。

翼も私みたいな竜とサキュバスの翼が混ざったような感じじゃなく力強い大きな翼だ。


「まだ時間にも余裕はあるし来ていないものも居る、ゆっくりしていてくれ」


他の兄弟を見てその通りまったりしているので私も椅子に座ってのんびり茶でも飲んで待つことにする。

久々に顔を合わせたのもいれば私が最後に来ると賭けをしていた姉も居た。こんにゃろう。


「ねぇね、町とゲート周りの結界は大丈夫?」

「全く問題ないよ、ネネの結界がそう簡単におかしくなるものか」


ネネが自分の仕事の関係で皆に結界の調子を聞いて回っている。私が城に降りた時の感覚もネネの仕事だろうし、そこそこの速度で降りた状態でも結界がおかしくなる様子も無かったことから腕が上がっているんだろうなぁと嬉しくなる。

普通の結界だったらある程度の衝撃で一部欠けたり機能不全起こしてしまうなんて考えながら他の兄弟になでなでしてもらっているネネを眺めていた。うわ、このお茶とお菓子美味い……帰る前にルコンに買っていってあげよう。


そんなこんなで数時間後、最後の1人が予定時間ぴったりにやってきて着席。

豪華な食事を楽しみながら近況報告でワイワイと話し合い、全て食べ終わり食後の飲み物を飲んでいた所でガルス兄がそれぞれに1枚の封筒を渡した。

それが本題だとわかっている私たちは一体何が書かれているのかと冷静に開けたりワクワクしているものや何も考えていなさそうだったりバラバラな表情で中の紙に目を走らせる。


「なによ、これ……」

「うっわぁ……」


顔が引きつる者、ため息をつく者、ゲラゲラと笑う者、これまた反応がバラバラ。

私?多分口角がひくついている。


【息子ガルスへ 妻達全員がかまってくれる時間が少なすぎると実力行使に出た。しばらく連れ去られるので民と国と弟妹たちの事を頼んだ。 父ソルマより】


とにかく急いで……それこそ一文でも多く書き残そうと必死に書いたのだろう。

父上の丁寧で読みやすく、それでいて特徴があるはずの字は私が書く時より汚い時点でどんな状況でこの書き置きを残したのか想像に難くない。

これが複製されたものだと分かっていても、端の焦げ具合や裏面の……私の母のキスマークとか色々残ってるのを見ると今この場に居ない父上に何かしら……何かしらしてやれることはないかと心のなかで涙が流れる。


「って、待ちなさいよ。コレって数年単位で済まない程度に戻ってこないということだから……兄さんが代理の王ってこと?」


そう姉の1人がガルス兄に尋ねると苦々しい表情のまま1枚の紙を私達に見せる。

王位継承の特別な……ソレだった。書いたことは消えず、破れても魔力で復元される後世に残す記録のための紙。

父上の字で書かれ、ガルス兄の名前も父上の字で書かれていてあとは魔力を込めながら手のひらをかざせば承認したと見なされ効力が発揮する段階。


「その手紙とコレが私の机に置かれていたのだ」


全員の口から漏れる異口同音のあぁ~~~。

ドコに居るかは分からないがきっと誰もいない無人島とか異世界とかそういう所でハーレム状態になっているんだろうなぁと父上に今日何度目かわからない心の中での敬礼を行う。

どうせ考えたのは私の母様だろう。それぞれの母様に小さな不満とか溜まってきた所を調整して一気に爆発というかガス抜きさせたとか……そういう心のコントロール得意そうだもの。


「先に言っておくがこの中で兄さんが王になることを否定するやつは居ないぜ」

「そうだね、まだそれの効力を発揮させていないのは僕たちに確認を取るためだよね?」

「あたしも全く問題なし」


口々に賛成と聞こえてきて、ガルス兄は了承したと軽く頭を下げた。

これで話は終わりかなぁと雰囲気になってきた所で、ガルス兄から爆弾発言が聞こえてきた。


「それでは本題に入るが」


ほぼ全員がイスから転げ落ち……かけた。


「いやいやいやいや、今のが本題だろう!?王位継承以上の話の本題ってなによ!?」

「兄さん、一体何が?」


書き置きを渡す時より眉間にシワが寄った状態で言いたくなさそうな、しかし言わないと……って感じの表情を見せていたガルス兄がシュア姉を手招きしてトコトコと歩いていく。


「まぁこっからはアタシことシュアが説明する。ざっくり言えばこの国の危機だな」

「はい?」

「全員知ってるココんところのウィルヴィ・サーナ……異世界だが、アレとおんなじ感じで異世界に繋がるゲートがこの国で5つ見つかった。行き先はそれぞれ別の世界」

「はあぁあ!?」

「うっわ面倒……」

「強固な結界、たくさん必要……」


ウィルヴィ・サーナの時に手が空いていた兄弟達が協力してどうにかした問題。それがトンデモない量で襲いかかってきたと聞けば苦労したメンバーが机に突っ伏すのもわかる。


「はいはい、現実逃避しないで前を見ろオメーラ。現在緊急性があるのが2つ。残りの3つは野原や荒野に森で緊急性はとりあえず今の所ない。」


つまり2つは面倒事がみっちりということで安堵するか、2つあることに辟易するかはそれぞれの性格の違いだ。


「おぅ、茶々入れないで聞いてくれるのはホント優秀だよ皆。で、1つはとある世界のとある国のど真ん中。もう1つは……海か湖の中。現在ゲートを緊急で封鎖して向こうの水が流れてこないように対処済み」


国のど真ん中と聞いて手で顔を塞ぎ、海の中と聞いて顔を背ける我らが兄弟姉妹。

めんどくせぇ、めんどくせぇよぉ。力技で解決出来ない時点で私には流石にどうすることも出来ない。向こうの海を全部蒸発させろって言うなら……でき、そうか?

あぁいやそれも駄目だ向こうの世界で以上が起こったらこっちにゲートを通じて異常が来るかもしれない。


「言っておくが残りの3つもゲートが出来た場所は緊急性が無いってだけで、そこがどっかの国の大事な場所……宗教とかそういう関係だったらアホみてぇに面倒だぞ」


やめろぉ、これ以上面倒な事言わないでシュア姉!後方支援とか交渉得意な人たちの口から魂出かかってる!ネネなんてどろんと溶けかかっている。

その場にいる全員が王族として人々に見せてはいけない状態になっていたのを見てガルス兄がパンッと手を鳴らして切り替えるように促すと、数秒の差はあれど全員の背筋が伸びた。


「まぁ皆の気持ちもわかる。だが、以前のような経験をしているからこそ今回に活かせるというのも事実。海につながっているゲートは封じ込めておけばすぐに被害が出るというものでもないだろう。実質対処しなければならないのは1つと言うことだ」


理解はしているが改めて整理して言ってもらうとなんとか出来そうな気がしてくる。まぁ私がヤることと言えばなんかあったときの暴力装置ですし、深く考えなくても良いんだけどね。

最低限、その場の状況と壊しちゃいけないものだけ覚えておく感じ。

こう考えるとウィルヴィ・サーナは人里離れた誰も所有していない荒れ地にゲートが繋がったし、面倒だったのはゲート周辺の国家との折り合いだったからマシなのか?


「しかし、他のゲートを放置するということではない。もしかすると異常な場所へ繋がってしまった可能性もあるのでな……そこで一時的にではあるが、王という立場を分けようと思う」


…………はい?


__________


ガルス兄とシュア姉の話を纏めると。

領土を分けるわけではなく今まで通りのまま、王という立ち位置を増やす。

異世界に対応する者を王として現地に配置して偽装、それぞれのゲートを囲うように城を構えてこっちの世界に被害が出さないための防壁として使う。

丁度ゲートが有るのは王都や町から離れた海との境目と言える場所ばかりだ。

ゲートの向こうで壁を作ってしまえばこっちの世界に何かが起きてしまうのを未然に防ぐことが出来る筈。

ちなみにウィルヴィ・サーナとのゲートはゲートから一定の範囲を緩衝地域として設定、ゲートを超えた向こう側は新しい町になっている。


「正直に聞くが、仮に王を倒そうとする奴がいてまだ後ろに王が居るのか!?と恐れ慄くのを見たくないか?ついでに王って名乗ってみたくない?」


大半の女性陣はガルス兄の言葉に何いってんだあんたという表情をしたが……うん、私と一部女性陣含めた男たちが小さく頷いた。

ロマン有るよね、対応する人は死なれちゃ困るから絶対に生きて戻ってもらうけど。私が死なせないけど。


「ま、枠が5つだからソレ以外のは王の補佐とかそんな感じになるだろうけどな」


シュア姉の言葉にやる気がある(問題解決の責任者というデカい壁は除けておいて)奴らの目が光った。


__________


「では、この5人をそれぞれ臨時の王とする!いや6人か、ココ……お前もだ」

「へっ?」

「何を呆けている?すでに解決しているとは言えゲートの責任者の1人なのだ、お前も王にしなくてはな」


いやそれは予想外だぞ兄様。


「ガルス兄、どうせなら王だけだと味気ない!王の前に字を入れようではないか!」

「おれは……狼王、いや牙王がいいな」

「なるほど!確かにその方が民たちも呼びやすいか……ならばこのガルスは竜王だな!」


わんやわんやと何が良いかかっこいいか威厳がありそうかと子供のように話し合うのを見ているとこっちも楽しくなってくる。

そうなると私は何になるだろうか、竜はガルス兄だしドラゴンとサキュバスのハーフ……夢魔で夢王?いや私のイメージと違うだろう?


「ココは魔王だよな?」

「なんだって?」

「ココねぇねが魔王……いい」


魔王なんてそれこそ正式な後継者とかそういう奴が名乗るべきものじゃないのか!?

いやいやいや、魔をつけるなら魔女のシュア姉だろう?とそっちを見るとなんかアホを見る目で見てくる姉さん。


「私は全体のバックアップで責任者にならん、そもそもお前のは魔の前に淫が隠れてるんだよ」


淫……ひでぇ、だれが淫魔王だ!なにか言ってやってくれガルス兄!と視線を向けるとジト目で返された。


「戦闘力で言えば総合的にお前の方が私より上なのは間違いない。その点で言えば魔王と名乗るのは皆が納得する訳だし、そもそもお前が自分の母に近い度合いでその手のエピソードが聞こえてくる時点で立派な淫魔だぞ」

「メイドの子たちに男の人のを生やさせて夫婦で遊ばれてるとか、夜の酒場でミルクを絞られてるとか……屋敷の外まで愛し合う声が毎晩聞こえるとか」

「……さ、さすがにちょっと抑えないかって俺も思うよココ姉さん」

「流石に色事が好きな我でも自分の尻のシワの数まで民に広まるのは……無いな」


……あっれぇ?なんか皆の見る目が生暖かいぞ?


「……うん、わかった。魔王でいい」


そんなこんなで領主ココから魔王ココになりました。

ちなみにルコンに伝えたらなんか凄く嬉しそうな感じでした。



おわり

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