"魔王 トットムジカ"

"魔王 トットムジカ"


───────あの日、エレジアが崩壊したのは悪い海賊ではなく自分が召喚した魔王だった。耐え難い真実を前に気を失ったウタは丸一日寝込むこととなる………



​──お前だ。お前のせいだ。

うるさい……やめてよ………!

──お前がやった!

やめて……やめてったら………!!

──お前の罪だ!!


「やめて!!!」ガバッ!

「気がついたかい!?よかった……ひどくうなされていたようだが……」

「あ……ゴードン……」


今、目の前にいるのは恩師なんかじゃない……"私"に国を滅ぼされた国王なんだ……"私"がやった。"私"の罪だ。"私"の…


「ウタ!何も言わなくていい!!……私も聞いたよ、この"音貝"の音声を……まさかこんなものが残されていたとは……」


その優しさが、気遣いが心苦しい


「なにもだなんて……だって私!この国を滅ぼして!!なのにシャンクス達がその罪を被って!!!ゴードンだって……!!!」

「違うんだウタ!!私が悪かったんだ…!!覚えているだろうか?あの日のことを…」


​─────シャンクス達と共にエレジアを訪れ当時王であったゴードンに謁見した後、エレジアで一番の音楽堂で名だたる音楽家や国民達の前でシャンクス達に見守られながら歌声を披露した。エレジアの王であるゴードンや音楽家達から絶賛され、ウタは誇らしかった。だがその日の夜、城のテラスで涼んでいた時にシャンクスからここに残るかと聞かれた。そんなことはありえない!自分は赤髪海賊団の"音楽家"!どれだけエレジアという国の居心地が良くてもウタの居場所は赤髪海賊団だ。

その後、城ではパーティーが開かれた。音楽院の人達はウタがシャンクスと共にまもなくエレジアを出ていくことを知り、最後の機会だから歌声を聞かせてほしいと、色々な歌を歌わせた。せっかくの機会だ、国民にも聞かせようとゴードンはその奇跡の歌声を国中に聞こえるようにした。それがいけなかった。ウタの歌声は、城の地下に封じ込めていた楽譜を招き寄せてしまった。その楽譜〝トットムジカ〟は、いつの間にかウタのそばに近づき、誘った。"ウタウタの実"の能力で自由になるために​────



「そんなことがあったの……でも」


でも、自分がその歌を歌い魔王を呼び起こし国を滅ぼした事実は変えられない。それにもう…


「だが、もう大丈夫だ!あの"楽譜"は以前より厳重に封印を施した!この島だって、今すぐにとは行かなくともいつか必ず音楽の国"エレジア"として復興させてみせる!!だから…」パサッ…


何かが落ちる音がした。音と形状からして新聞だろうか?ナミやロビンが特によく読んでいたが自分は興味が無かったからほとんど読んだことは無い。だがその新聞の一面の中に


懐かしい顔がいた


「!!ちょっと見せて!」パシッ!

「ああ!!ウタ!ダメだ!今それを見るのは…!!……今の君にだけは見せたくなかった……!」


ゴードンの制止も虚しく、ウタは今朝の新聞の一面に釘付けとなった。その内容もまた、ウタにとって受け入れ難い事実だった。


《頂上戦争にて白ひげ海賊団船長白ひげ並びに2番隊隊長火拳のエース死す。新進気鋭の超新星麦わらのルフィ、インペルダウンより数多の囚人を引き連れ頂上戦争へ乱入。現在消息不明。他には七武海ゲッコーモリアが……》


エースが……死んだ…?あのエースが?あの誰よりも強かったエースが?そりゃあ、エースの命の紙は縮んでたけど、あのエースだよ?ただでさえ強かったのに"メラメラの実"まで食べて能力者になって……なんで…………ていうか、なんでルフィも…!?なんでルフィが海軍本部に……?


「ねェ……ゴードン………エースが死んだってどういうこと……?なんでエースが……それにルフィがなんで………」

「どうやってルフィ君がそこへ行ったかは分からない…だがその記事から読み取れるものとしては……ルフィ君は必死の思いで助けようとした兄を失ってしまったことだけだ……」


ルフィのエースへの想いは誰よりも知っている。サボを失ってエースまで……世界でたった一人になった兄を救えなかったルフィが今どれだけ深く傷ついていることか。私がそばに行って支えてあげないと…!


「…こうしちゃいられない!!すぐにルフィのもとへ…!!………いや…むり……だよ」


行けるわけがない。行ってどうするの?私には…もう……


「?…確かにシャボンディ諸島行きの交易船が来るまではまだ三週間近くあるが……」


そういう意味じゃない


「……ルフィ達とはもう…会えない」

「??…確かにルフィ君や他の仲間たちが無事かどうかは分からないが…君が話してくれたじゃないか……!彼らならきっと生きてまた会えると……」

「そういう意味じゃない!!……さっき言ったよねゴードン……あの"楽譜"は封印したからもう大丈夫だって……でも大丈夫じゃないんだよ……」


そうだ。"楽譜"を封印したところで意味なんかないんだ。だって魔王の出現に必要なのは"楽譜"そのものじゃなくて歌詞、"歌"なんだから……

正確には思い出した形ではあるが、ウタはそれを、トットムジカの楽譜の内容を今ここで同じものを書き上げられるほどに覚えている。皮肉にも音楽の全てを叩き込んだゴードンの教えが良かったのだろう。

それでも歌わなければ問題ないとゴードンは食ってかかるが、ウタはそれをあっさりと否定する。過去に一度、"トットムジカ"を歌ってしまったのだから。それも己の意思とは無関係に。


「自分の意思とは関係なしに覚えてないはずの"トットムジカ"を歌うなんて……きっと誘われたんだろうね……魔王に…」


いや、もしかしたら己の意思でも歌おうとしたことがあったかもしれない。エニエスロビーでチョッパーが暴走していた時や…シャボンディ諸島で一味崩壊の瀬戸際に……


「……フフフ………だからきっと取り込まれちゃったんだろうね…!魔王に…!!」

「………そんな……バカな………!!なぜこんなことに…!!!」

「だからさ、ゴードン……もう私の世話を焼くのやめなよ」


思ってもないことが口を衝いて出る。これも全部魔王のせいだ。


「!?な、なぜそうなる!?」

「なぜって…当たり前じゃん……私の意思とか関係なく私の歌で"トットムジカ"が出てきちゃうかもしれないんだよ?そんな危ないやつをいつまでも面倒見てたらゴードンが…せっかく復興し始めてるエレジアがまた滅んじゃうんだよ?」

「そんなことにはならない!!気を強く持つんだウタ!!気をしっかり持てば魔王になんか取り込まれやしない!!あと三週間だ!あと三週間もすればシャボンディ諸島行きの交易船がやってくる!!その船に乗って、ルフィ君達を待つんだ!!!そうすれば…」

「ふーん…あと三週間もすればこんな危ない女がいなくなるんだからそれまで我慢しようって話かしら?…案外卑怯なんだねゴードン…?」


こんなこと思ってなんかないはずなのに。全部、全部、魔王のせいだ。魔王の…


​「違う!違うんだ!!そんなつもりはない!!!私は…!」

「…ッ!!!出てって!!今すぐここから!!でないと歌ってやる!!"トットムジカ"!!!」

「!!?…分かった!分かった!!出ていく!!だからそれだけは歌ってはいけない!!………ウタ、あまり自分を責めてはいけない……だが、君にはしばらく一人で考える時間が必要なようだ………粥を作ってある……気が向いたら食べなさい……」ガチャ

バタン…



​──お前だ。お前のせいだ!

……そうだよ

──お前がやった!!

………"私"がやった…!

──お前の罪だ!!!

"私"の罪だ!!!!エレジアを滅ぼしたのは他の誰でもない"私"なんだ………



「………………ッ……ウゥ…………ッ………なんで………なんでこんなことに…………ルフィ…………シャンクス……………」


Report Page