魔獣、ミーちゃん
スレ主◆MwEI06QrZW2k私はこのお屋敷で働いているメイドです。天気が良いので皆で洗濯物を干しています。
私が小さな頃……どころか祖父祖母が小さな頃より前からこの町の長をしているココ様。
最近は肩書が魔王になったとの事ですが肩書が変わっただけでコレまで通り接して欲しいとご本人から町の人達へお達しがあり、みんな領主様と言いかけてから魔王様と言い直す光景がよく見られます。
新聞で読みましたが異世界へ行ってしまうゲートが幾つも新しく見つかったとの事で、ココ様のご兄弟が色々対処する為になんとか王って名乗る必要がある……とか。
「先輩、かっこいいですけどコレって必要なんでしょうかね」
「さぁねぇ?でも家族で喧嘩して国が別れた~なんて事じゃないって最初に説明有ったし、この国を大切に守ってくれる為に必要ってことなんじゃない?」
「それもそうですねぇ、最初王族の方々が別に王を名乗るって話が広がった時すっごい慌ててましたものね」
まぁその皆が慌てたというのも1時間ぐらいで全域映像放送で新しい王様……竜王様が説明したからすぐに落ち着いたんだけどね。
前王様が王位を譲った理由も皆が「その時が来たか……」位にしか思ってなかったし。女性主体のハーレムは大変だわ。
ちなみにこの町でもそうだけど、他の場所でも男たちはそれぞれに異名が付くなんてすげぇかっこいい!と尊敬する始末。
なんて話をしながら大量のシーツを物干しのロープに掛けていたら視界の端にもそもそと動くもふもふが。
んなぁお、なんて鳴きながら魔王様の愛猫のミーがやってきました。
「どーしたー?天気がいいから日向ぼっこかー?」
湿った手をハンカチで拭ってからわしゃわしゃと気持ちよくなってくれるポイントを重点的に撫で回します。
本当にこの猫さまは賢くて優しくて好きだ。メイドの子たちには叱られてしょぼくれたときに側にいてくれたとか肉球で撫でてもらったとかそんなエピソードが多数だ。
家族が出来て子どもが生まれて、子どもが大きくなっても自由気ままに屋敷を歩いたり魔王様がお休みの日は町の外を走り回ったりする姿がよく見られる。
……正直全然老いないなぁってのは皆言っている。この子が死んじゃったら魔王様が深く深く悲しむだろうからありがたい話だけど。
わしゃわしゃと撫でていたらミーが1歩下がって自分の頭を前足をつかってかしかしと掻きはじめた。
「おでこが痒いのか?どれどれ……ん?」
なにか虫でも付いてしまったのかと心配になって掻いていた所を毛をかきわけて覗き込むと……おかしな物が合った。
「…………先輩、お医者様呼んでもらいます?」
「どうしたの?怪我しちゃってる?」
「……つ、角」
「角?」
「ミーに……ちっこい角生えてるっす」
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「魔獣化?」
あいにく魔王様はご兄弟への救援ということで留守にしていて、奥様は魔王様の代わりに他の町へ出かけていらっしゃる状態。
とりあえず元気そうではあると確認してから医者にミーを視てもらいました。
何かあったらどうしようと軽く震えていたこっちをヨソに診察台の上で言われるがままに寝転がって仰向けになってうつ伏せになって、体を触られて、採血で針を刺す時も大人しくて。
逆にこっちを心配する様な感じで手に肉球を乗せてくるこの猫様。
数十分後に先生に呼ばれて話を聞くと魔獣化という答えが返ってきた。
「うん、魔力溜まりとかで過ごしたりそういう場所の水や木の実を大量に接種した動物がモンスター化してしまうアレ」
「えぇ……この子普段屋敷で過ごして、散歩とか魔王様と一緒のときに町の外へ出る程度なんですけど」
「それこそ身近にあるでしょう?ココ様のミルク」
私と先輩の口から同時に、あ……と声が漏れた。
でも何かあったらマズイからとメイドの子たちは動物達にあのミルクをあげたりはしていない。
「先輩、だれかミルクあげてる所見ました?」
「いやぁ見てないけど……」
とりあえず身体が頑丈になって多分寿命とかも伸びている、その上で凶暴化など起こっていないので様子を見ましょうと先生に言われて屋敷に帰りました。
もちろん帰ってすぐ皆に聞き込みをしたけれど誰も与えていない。
なぜかなー?と悩んでいた所で思い当たる節を思い出した子が1人。
「ここ最近なんですけど、奥様が庭でお昼寝するときにネコ様たちがじゃれついてるの何度か見かけてまして……今思うとアレって」
「胸から舐めていた?」
「そうかなぁって……」
とりあえず原因が分かった……のか?と首をかしげた私達だけれど、引っかかった。ネコ様たち?
「「あ」」
すぐに先輩とミーの家族たちを調べたら生えてました、角。
1匹ずつ確認していたら遊んでいると思ったのか猫様たちにもみくちゃのもっふもふと遊ばれたのは置いておきます。
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「あはは、そうか!そんな事になっていたのかお前」
帰宅された魔王様にその事をお伝えすると嬉しそうにミーを持ち上げました。
ゴロゴロと喉を鳴らしながら魔王様にじゃれつくのが可愛いです。
「しかし普通の魔獣化と違ってそれこそ種族の書き換えとも言うべき状態だそうでして、別の種族になってしまいこれから先は子が生まれるかどうかと先生は仰っていました」
それを聞くと魔王様は少し困った顔をしてからミーに何か話しかけましたがひと鳴きを聞いてすぐに笑顔に戻られました。
「大丈夫だそうだ!ふふ……長く元気に過ごせよミーちゃん」
魔王様とミーの尻尾が大きくゆったりと同じリズムで揺れているのを見て、私達メイドがくすくすと笑ってしまったのは魔王様に内緒です。
ちなみにしばらく後になりますが大きくなったミーの子どもたちは魔王様のご兄弟の所へ(会ったときに懐いて)お引越しして『王には守り猫がいる』とこの国の新しいお話になったとか。
おわり