魔法使いの行方

魔法使いの行方


デンジは男達と共に廃工場を出ていく。リーダー格らしい赤髪は、デンジが半裸であることに気付くと、自身のジャケットをデンジに着せた。

「半裸じゃ目立つから、これ着てて」

「あ…の…」

「若い女の子だしね…乗って」

赤髪は車のドアを開け、デンジに乗るように促す。ドライブが始まってすぐ、デンジの腹が空腹を訴える。いたたまれなくなるデンジだったが、男に気を悪くした様子はない。

「僕達も朝まだだったね。パーキングエリアで適当に食べよう」

「すいません…俺、カネないんすけど…」

「好きなのいいなよ。お金は僕が出すから」

デンジは赤髪の振る舞いに衝撃を受けていた。今までデンジが出会ってきた男達は、デンジから奪っていくことしか頭にない連中ばかりだったから。彼のように、デンジに何かを与えてくれる男性を初めて彼女は見た。しかもツラがいい…。

ーー好き。

デンジが遠慮がちにうどんを注文していると、負傷した男がパーキングエリアに駆け込んできた。赤髪が身元を明かして事情を尋ねると、男の娘をさらった悪魔が、森の方に逃げたらしい。

赤髪は少し考え込んだ後、デンジに単独で悪魔を殺しにいくよう命じた。デンジは渋るが、公安の男達は聞く耳を持とうとしない。

「忘れたの?キミは僕のものになったんだよ。返事は"はい"か"イエス"だけ。いいえなんて言う子はいらないな」

「い…いらないって……」

有無を言わせぬ赤髪に抗えず、デンジは渋々森に入った。初めて男性に優しくしてもらって舞い上がっていたのだろうか?自分を大事にしてくれる男性などいないのかもしれない。デンジの心に赤髪の態度への怒りと同時に、諦めが広がっていく。

ーーワン!

ポチタが死んだことを思い出し、デンジは膝を抱えて蹲った。その時、少女の笑い声が聞こえてきた。声の方に近づくと、少女と悪魔が楽しそうに戯れている。少女は近づいてきたデンジに気づくと、悪魔を庇うように前に立った。

事情を尋ねると、父親に殴られていた少女を悪魔が助けたそうだ。悪魔を見逃してくれるよう必死に訴えてくる少女と、赤髪の態度を比べたデンジは、全員で逃げる事を提案した。

彼女自身、ポチタと暮らしていた経験がある。だから人間と仲良くなる悪魔の存在について、疑問を抱くことはなかった。少女とデンジの間で意見が一致し、2人は握手を交わす。

「あははははははははは!」

「はは…はあ?」

潜んでいた悪魔がデンジの両腕を捕らえて拘束する。勝ち誇った悪魔は己が筋肉の悪魔である事、触れている筋肉を操る力で少女を操っていた事を意気揚々と明かした。

「よかった。テメェみてーなクズなら、殺しても心は痛まねえ」

デンジはスターターロープを咥えて、チェーンソーの怪物へと変身を遂げる。悪魔を倒したデンジは、少女を背負って森から出た。赤髪はフランクフルトを食べながら、彼女を出迎えた。

赤髪は貧血で倒れそうになったデンジを抱き止めると、うどんの前まで連れてきた。

「フラフラだね。一人で食べれる?」

「食べれ、食べれません」

フラフラのデンジを気遣う赤髪に甘え、デンジはうどんを食べさせてもらった。彼が差し出すうどんを口で受け止めるのだが、麺にはまだコシがある。

「前に食ったやつより旨い…?」

以前食べた、食いかけのうどんでは比較にもならない。

デンジの料理は基本、調理法の単純なものしかない。食い物は送られてくるが、自由になる金は少ないので、調理器具を揃えるのも大変時間がかかった。

「そりゃそうだよ。まだ、来たばかりだもん」

赤髪は小さく笑った。伸びているうどんを食べさせるのも悪いので、デンジが注文した分は彼が片付け、新しく注文したと語った。

「ご…ごめんなさい…!」

「なんで謝るのさ。ちゃんと働いてくれたんだから、ご褒美もちゃんとしたものじゃないと…おいしい?」

「はい!」

「君は甘えん坊だねえ…子犬みたい」

嬉しそうにデンジを眺める赤髪は、デンジの体について尋ねる。飼っていた悪魔が心臓になった事、その為にポチタが死んでしまった事を話すと、赤髪はポチタの死については否定した。

赤髪曰く、体から人と悪魔の匂いがする。浪漫的な意味ではなく、ポチタはデンジの体内で生きていると彼女に告げた。

「あのっ、貴方のお名前は…?」

「マキマ」

「マキマさん…すっ、好きな女性のタイプとかあります?」

デンジに異性の好みを尋ねられたマキマは少し考えて、「デンジちゃんみたいな人」と彼女に微笑んだ。

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