魔性の遊戯
身体が熱い。
この廊下は何度も行き来しているはずだが、こんなにも長かっただろうか。
歩を進めるたび肌に擦れる布が煩わしい。痛みはないが、痛む方がよっぽどマシだ。
むしろ、これは……
「……このっ!」
苛立ちのままに上着を床に叩きつける。シャツも同じ運命を辿ったが、身体に籠った熱を打ち消すには到底足りなかった。
きっと動き続けているせいだ、そうに違いない。少し休もう。
何かに言い訳するような理論を組み立てて廊下の端に座り込む。ざらついた石壁が肌をぞわぞわと擦ったが、それを差し引いても冷たさが心地よかった。
落ち着いた頭で次の手を考えようと思考を巡らせるが、思い出されるのは事の発端、キルケーの持ち掛けてきた遊戯の言葉ばかり。
『城のどこかにいるおれを見つけられたらお前の勝ちだ。この身体を好きにしていいし、何でもしてやる』
『ただし、我慢しきれずに一人で事に及ぶようならお前の負け。好きにされるのはお前だ』
『時間制限はないが……代わりにこれを飲んでもらう。特別製だ』
何の、とは言わなかったが、媚薬だとか催淫剤だとか、おおむねそのようなものだろう。
あの賢しい男が持ち掛けた取引になど乗るべきじゃあなかった。罠であることなどわかりきっていただろうに。
しかし恋人の誘いを蹴ることなどできるはずがない。ましてあれほど魅力的な商品をぶら下げられてはなおさら。
だから一刻も早くクロコダイルを探さなくては。もう限界だ。一階の部屋は全て調べた。次は地下か二階か。どっちだ?
一通り探して見つからなければもう一方を探す必要がある。今の状態で階段を登るのは……
「階段、か」
溜息が漏れた。
年寄りでもあるまいし、普段の状態なら階段など何でもない。だが今はどうだ。一歩ごとに増す熱に身体を苛まれ、歩くことすら難しい。
あの男を見つけるまでにどれだけかかるのか……そう考えると、もう立つことすら億劫になってくる。
どうせ勝とうが負けようが最終的にやることは同じだ。意地を張る必要があるか?
ベルトを外して、下履きも寛げて……どこかで見ているであろうキルケーに降参だと示せば、それで終わるのだ。
……もちろん、勝利の果てに得られる褒美は例えようもないほど甘美だろう。組み敷き、征服し、思うままに貪って……考えただけで、腹の火が熱くなる。
しかし、いや、だとしても……
→立ち上がる
→諦める