魔性との遭遇
軽い気持ちだった。
周囲をほんの少しだけ、出し抜いて、悦に浸りたかった。
だけど結果として取った方法が不味かった。
おれは不正行為に手を出して、結果として追い詰められている。
○
少し離れた場所からこちらへ向かってくる一人分の足音。それが奇妙なほど耳に残る。街中でふいに美しい音楽に出会った時に似たような感覚。しかし、足音だけでこうなるものだろうか。こちらに来る存在に対し自分の意思の有無に変わらず全細胞が意識を向けているようだった。
ほどなくして、足音の持ち主が姿を表す。
そこには男がいた。茶髪の男。歳は30後半、いや、前半だろうか。やけに艶めいた肌に目が自然にいく。どうも…おかしい。
おれは男に対しそんなシュミは無いはずだ。違和感が頭をもたげる。
「君かね…不正なプレイヤーというのはァ…」
だが違和感は魔声によって塗り潰される。音として認識した瞬間に全身が沸騰したように熱い。理性が警告するより先に本能が舌舐めずりをする。
「…聞いているか、プレイヤー…」
「…はぁい…」
沸騰したような熱がぐずぐずと脳を溶かしていく。身の安全とか、自分が今後どうなるのかという思考が完膚なきまで消され、目の前の相手のことしか認識できない。
「全く馬鹿にされたものだなァ…。このまま絶版にしてやるのも良いが……頭をぐちゃぐちゃにして…見せしめにするのも一興か…」
こえを聞く度に、熱があがる。興奮がどくのように回っていみを認識できなくなる。蕩けるうちにおもう。
目の前の美しいひとは酷く、食い出があって……旨そうだ…。
それがさいごのいしきだった。