魔女に堕とされる神の話

魔女に堕とされる神の話


・キング×ホーキンス🥗未満

・キングが普通に素顔を見せてるしキャラがブレブレかもしれない

・何故かちょっとだけキンドレとドレホ🥗っぽい要素がある

・ホーキンスがアホの子

上記が許せる方のみどうぞ!

「とんだ怪物を連れて来やがったなァ、アプーの奴は」

プライベートな酒の席で、百獣海賊団幹部、大看板のクイーンがそう零した。葉巻の煙をくゆらせながら、どこを見るでもなくぼんやりと視線をさ迷わせている。

同じく大看板のキングがチラリと視線を寄越した。ひとの来ないクイーンのラボでふたり呑みなのをいい事に、仮面を外して素顔を見せている。褐色肌が、アルコールの効果でさらに色付いていた。

「怪物? アプーが釣ったやつの中にそんなん居たか?」

「おう。ひとり居るんだよ、とんでもねェのがよ」

クイーンは言葉を切り、大きな盃でぐいっと酒を煽った。

「ホーキンスだ。〝北海の魔女〟バジル・ホーキンス……あの女は恐ろしい怪物だぜ」

キングは眉をひそめた。

「目ン玉の中にまで脂肪が詰まってんのか、デブ。あれはただの可愛らしい女の子だろうが」

「ほォ、てめェはあんなのが好みか」

「違ェよハゲ、勘違いするな。あくまでも客観的な意見だ。ンで、なんであの子が怪物なんだ?」

「魔女だからだ」

クイーンは即答した。ウィスキーの氷にヒビが入り、パキンと鳴った。キングはいよいよ顔をしかめた。

「いや……魔女ってのはアレだろ? 通り名とか、あだ名とか、そういう奴だろ。どうしたお前、おしるこ食いすぎて頭の中がおしるこになっちまったのか?」

「なわけねーだろ焼き鳥! 北の海にはな、こういう言い伝えがある」

曰く、魔女と目を合わせてはいけません。魂を奪われてしまいますからね……。

「いや、だから魔女ってのはよ」

キングが言い返そうとすると、クイーンは落ち着け落ち着けと彼の肩を叩いた。

「まーまー、人の話は最後まで聞くもんだ。その魔女にはふたつの意味がある。ひとつは、そのままの意味だ。子供を攫って食っちまうような、おとぎ話の魔女」

続けて彼は、ニィッと笑って言った。

「ふたつめは、男を誑かす美女のことだ」

「……」

「考えてもみろよ。あの魔女の、ホーキンスの周りには誰がいる?」

キングは顎に手を当て、彼女のことを思い出してみた。

確か、彼女の傍にはいつも飛び六胞のX・ドレークがいる。おれのお気に入りの部下だ。取られたみたいで腹立たしい……それから、アプーがウザ絡みしていって蹴り飛ばされているところも度々目撃した。ジャックのやつも最近彼女に気があるようだ。他の真打の男連中や、ページワンもあの子になついてる……。

「……あ」

「気付いたか」

「……ああ、マジかよ」

気付きたくも無かったが。どうやら、あの魔女の周りには男が集まるらしい。そして、全員が全員、彼女を守るように動いている……なんという魔性! もしも自分もその中に入っていたらと思うと、ゾッとしない気持ちだ。

「最近収容されたキッドとキラー。アプーの話じゃああのふたりもホーキンスに惚れてんだとよ。可哀想に。あいつら全員魔女と目を合わせちまったんだぜ……キング、てめェもせいぜい気をつけろよ。魔女と目を合わせねェようにな。……おれは小紫たん一筋だから目が合ったところでどうってことはねェがな! ムハハハハ!」

「声がデケェうるせェデブ。急にテンション上げんじゃねェよ能無し」

「なんだとカラス野郎!」

「やんのか変態メカ野郎! そもそもおれはカイドウさん一筋だ!」

掴み合いの喧嘩になりかけたところで、ラボのドアのブザーがなった。来客だ。

なんだ、今からこのクソデブと殺り合う所だったのに! キングはキッとドアを睨んだ。立ち上がり、喧嘩を阻む闖入者を見定めてやろう、場合によっては殺してやろうと、クイーンの制止も無視して勢いよくドアを開けた。足元から「きゃっ」と可愛らしい小さい悲鳴が聞こえ、おそるおそるといった調子の声がした。

「……あのぅ……夜分遅くに失礼致します。アプーに言われた資料を持ってまいりましたわ、クイーン……さま? あら?」

「……」

「……」

「……」

時が、止まった。酔っ払っていたキングはすっかり忘れていた。自分が仮面を外していることを。つい先程まで話題に上がっていたバジル・ホーキンスが、自分を見上げてぼんやりとしている。

――仕方ねェ、面のいい女ではあるが、殺すか。

右足を持ち上げ、ホーキンスを踏み潰そうとした時だった。

「……驚いた。クイーン様って、痩せたら本当にかっこよくなるんですね……」

静かな声でそう聞こえた。再度、時が止まった。キングはゆっくりと右足を下げ、ホーキンスを信じられないものを見る目で凝視している。ホーキンスは、初めて見るキングの素顔を凝視している。この奇妙な間に、ふたりでぱちくりとまばたきをし、首をかしげる。キングは深いため息をついた。

「……よし、一旦部屋に入れ」

彼女は言われた通りに部屋に入った。すると、自動で扉が閉まった。なるほど、自動ドア。メカ好きなクイーンのラボらしい。部屋の主はしばらくぷるぷると震えていたが、やがてぷっと吹き出し、堪えきれなくなったように大笑いをし始めた。

「ムハハハハ! おいおい、本気かホーキンス! それがおれにっ、ムハハハハ! おれに見えるか!?」

「え!? え、あれっ? ク、クイーン様、えっ!?」

「だーっはっはっはっ!!」

クイーンは椅子から転げ落ちても大笑いを続ける。ホーキンスは訳が分からず混乱し、キングは素顔を見られたショックとかっこいいと言われた少しの嬉しさと大爆笑のクイーンへの苛立ちとなぜこいつはおれをクイーンと間違えるんだと言うホーキンスへの感情でいっぱいになり、硬直していた。

「……あぅ、あ、あ、ああ! あなた、キング様ね……!?」

三十秒ほどの混沌が続き、最初に正気に戻ったのはホーキンスだった。パニックから立ち直り、服装を見て気付いたらしい。

「あの、えっと、わ、わざとでしてよ!? キング様とクイーン様を間違えるだなんてそんなことありませんわ! ほ、本当に! わざとなのよ! やだ、笑わないで! もう! クイーン様はいじわるなのだわ!」

耳まで真っ赤に染め上げながら苦し紛れの言い訳を続けるホーキンス。その様子を見て、クイーンはさらに笑いが止まらなくなった。完全に酔っ払いである。箸がころがっても可笑しい酔っ払いである。

違うの、違うのよ、と恥ずかしそうに続けるホーキンスに、妙な庇護欲を覚えながら、キングは口を開いた。

「……てめェ、おれの顔を見てどう思った」

「え……えっと、その……素敵な方だなと……それ以外になにかありまして?」

「……」

「……」

またも、奇妙な間が生まれる。クイーンは笑いすぎて痙攣して死にかけている。

「とっ、とにかく! クイーン様への資料はこちらに置いておきますので。失礼致します!」

恥ずかしそうに両手で頬を押さえ、足早に去ろうとするホーキンスに、キングが待ったをかける。

「待て、ホーキンス。このまま行かせると思うか?」

彼女を鷲掴みにし、目線の高さまで持ち上げた。

目が合った。

紅く美しい瞳は恐怖と不安に彩られ、涙の膜が張っている。先程まで真っ赤だった顔はさっと青ざめ、小さく震えている。

――あ、だめだ。かわいい。食いたい。こいつの存在を蹂躙して、おれだけのメスに仕立てあげたい。おれからドレークを取ったのも許してやるから、おれのものにしたい……。

思わずといった様子でキングは舌なめずりをし、ごくりと喉が上下した。それを見て、ホーキンスの青白い顔がさらに青くなる。

「あ、あの……食べないでください……」

きっと私を食べたっておいしくないのだわ……とホーキンスは震える声で続けた。たしかに彼女の白い肌はもちもちとして美味そうではあるが、食べるわけないだろ。クイーンはその言葉をぐっと飲み込み、息を整えている。庇護欲と征服欲、相反するふたつの感情に苛まれつつ、キングはホーキンスを見つめる。カタカタと震える両手で、縋り付くようにキングの指を掴んでいる。涙の溜まった瞳は、恐怖と絶望、なにかへの失望に染まっている。しかし強気な色も失ってはいない。

――ああ……この強気な瞳を屈服させたい。彼女を泣くまでいたぶって、泣いてもいたぶって、完璧にこころを折ってしまいたい。彼女はどんな顔で泣くだろう、どんな声で喚くだろう。どんな反応を、どんな抵抗を、彼女の絶望の色はどんなものだろう……。

そんなことを考えているうち、思わず手に力が入りすぎてしまったようだ。手の中で、ボキン、といやな音がした。「うあっ」とホーキンスの喉から声が絞り出された。パキパキと軽い音がして、ホーキンスの身体の中から可愛らしい意匠の藁人形が這い出て来る。ライフをひとつ、消費してしまったらしい。

「……キング様、お手をお離しくださいませ」

「ああ……悪い」

ホーキンスは、やけに冷えきった声を出した。殺してしまうほどのダメージを与えたとあっては、流石のキングもバツが悪い。彼女はライフを消費したあとはいつもこうなのだが、彼はそれを知らない。二の句を紡ごうとした彼を、ホーキンスのため息が遮った。

「ハァ……勿体ない……まぁいいわ。もう行っても構いませんか? ドレークに食事に誘われてるの。キング様の素顔については、他言無用ということで、宜しいですわね?」

「……分かってんじゃねェか。いいか、おれはいつでもてめェを見てる……それを忘れるなよ」

「……承知致しました。では、失礼致しますわ」

ふんだんにフリルのあしらわれた、フィッシュテールのタイトスカートの裾を少し持ち上げ、美しいカーテシーと共に彼女は去っていった。キングは閉じられた扉を少しの間見つめ、持ち直したクイーンの正面に座り直した。

「なァ、クイーン」

「あ? なんだよ」

「感度三千倍にする薬とかねェか?」

「ねェよ」

「は? 作れよ」

「嫌だよ! つかてめェカイドウさん一筋じゃ無かったのかよ!」

「それはそれ、これはこれだ!」

「浮気者がよォ!」

ギャンと噛み付いたクイーンは、しかし可笑しそうに口元を歪めながら言った。

「だから言ったろ、魔女と目を合わせねェようになって」

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