魔女と鱗
#古関ウイ#トゥルーエンドおや、こんにちは。時間よりだいぶ早いですね?まあ構いませんが、ちょっと待っていてください。修繕作業が立て込んでいて、まだ準備が終わっていなくて……。
はい?生け贄?なんの話ですか?
……はぁ??シフターフッドから魔女の飼い蛇に食べられるように言われたぁ?絶対何か勘違いしてますよそれ……。とりあえず落ち着いてください。というか泣き止んでください。……あの、本当に命を賭ける必要はありませんし、安全に帰れますから。はい、嘘じゃありません。ええと、何から話したものでしょうか。
……そうですね、まず、噂は本当です。私の身に蛇を封じ込め、人柱としてここに在ります。
あまり人に見せるようなものでもありませんが……この腕を覆う鱗が、その証拠です。……いえ、これでもだいぶ減ったんですよ?初めの頃なんて本当の魔女みたいに顔まで隠れるローブ着てましたから。
……さて、話が逸れてしまいました。ここへ向かわされたあなたは何をするべきなのか、でしたね。
私が、私たちが望むのは一つきり。あなたの生活の中で誰かに話しておきたいな、と思った出来事を、私に語り聞かせる事です。
ええ、なんでもいいですよ。部活動が楽しかったとか、銃の腕前が上がっただとか、友達と喧嘩したとか、そういうのでいいんです。難しく考える必要はありません。
なんのために?こんなことを、と。
……私の中に封じられた蛇。それが奪うはずだった子供達の物語。醜穢な甘味で塗り替えるはずだった、明るく紡がれるそれは、失敗の証であり、私たちにとって砂糖がそうであったように、蛇にとっての猛毒です。
ですから、聞き、綴り、書き留め、綴じるんです。一編記すたびに蛇は苦しみ、書き終えれば鱗が剥がれ、それと共に存在を僅かに霧散させます。
吹けば飛んでしまうような、薄っぺらい話でも構いません。一つずつ集めて綴じたなら、いつかは本になりますから。
さあ、聞かせてください。
あなたの、青春の物語を。