骨の髄まで愛されて
「…………」
「………おい」
「…………………………」
「いつまでこの状態のまま止まってるんだクソ」
潔と凛が付き合い始めてから数週間。もうそれはそれは色々なことがあって、どうにか付き合えることになったのだが、そこは一旦割愛させていただくとして。2人はついに、次のステップに進もうとしていた。
そう。キスである。
「だ、だって!!凛は緊張しないのかよ!?ファーストキスだぞ!?」
「何童貞くせぇこと言ってんだよウジウジ野郎」
「お前も童貞だろーが!!……………えっまさか、お前はファーストキスじゃなかったり……」
「んなわけねぇだろ。てめぇが初めてだわ」
「えっ……あっ、そっか、そっかぁ……」
「何ニヤニヤしてんだ気持ちわりぃ」
「いやだってさ、凛って本当に恋とか興味無さそうだし、そんな凛と付き合えて凛の色んな初めてを俺が貰えるのが嬉しくて」
「…………」
思ってた以上に嬉しそうにされ、凛は押し黙る。そもそも自分が突っぱねても絶対に折れずに「好きだ」と毎日伝えてきたのは潔だったというのに。絶対に潔となんてありえないはずだったのに、その真っ直ぐな瞳と、ありのままの自分を受け入れてくれる潔に絆されてしまった自分がいるから今こうなっているわけで。
「………」
「おい、何でまた押し黙る」
「い、いやぁ…更に緊張してきちゃって……あっやっぱり今度にしないか!?凛も嫌がってるなら…」
「は?」
思わずガチの低いトーンが出てしまい、潔が「ひぇっ」と飛び上がる。凛の内心はというと、それはそれは荒れていた。
(……何で今更そんなこと言うんだよ)
分かれよ、クソが。凛は心の中で毒づく。
この自分が付き合って、キスまで許している。その時点で、お前は特別で、ここまで来て嫌だなんて微塵も思ってないこと。
分かって欲しくてムカついて、でもそれを素直に伝える術を持たない凛は、行動に出るしかない。
「……焦れってぇ」
「えっ」
グイ、と潔の胸ぐらを掴む。そのまま自分の口に、潔の口を押し当てた。
「!!?」
目を白黒させてる潔に、内心少しほくそ笑む。
嫌というほど思い知って、責任を取ってほしい。自分をこんなに変えてしまった責任を。もう潔がいないと心に空洞を感じるようになってしまった自分に、責任を取って一生そばにいてくれなきゃ絶対に許さない。
キスはとても短い間だったけど、2人の間には幸せが満ちていた。確かな愛情がそこにあった。
「り、凛……」
「ざまぁみろ」
顔を赤くしてる潔に、少し微笑む。
その顔は、今まで見た事がないくらい綺麗で。潔は思わず見とれてしまう。
あぁ、好きだ。凛の全てが好きだ。サッカーに貪欲なところも、努力家なところも。無愛想で口が悪くもあるけど、そんな凛を潔は丸ごと愛している。
「…凛、もう1回」
「仕方ねぇな」
そうやって2人はもう一度、愛を確かめあった。
──────────それが数ヶ月前の、初めて2人がキスをした日の出来事。
それがどうしてこうなってしまったのか。凛は回らない頭で考えようとするが、目の前の恋人に全て有耶無耶にされる。
「凛」
「……ふ、ぁ……」
2人はキスをしていた。そう、キス。数ヶ月前にしたのと同じこと。しかし今は、あの時とは全く違うものになっていた。
潔が凛を押し倒し、舌を絡める。身を捩って逃げようとする凛を、潔は絶対に逃がさないというように、激しく求める。
ここ数週間の2人は、ずっとこんな感じだった。潔が凛の全てを喰らうように、深く口付けをする。それを前に、凛はただされるがままだ。
気持ちよくて、とろけていく。こんな感覚、知らなかったのに。
「……ぷ、は」
「………凛、もう1回」
「ふ、ざけんなクソが、今日はもう…」
「ダメ」
「んっ……!!」
また口を塞がれる。理性も何もかもが、ドロドロに溶けていく。
フィールド外でも潔は魔王様であった。そして適応能力の天才であった。ものの数ヶ月でここまでテクを磨いてしまったのだ。
そんな潔を前にして、悔しさもありながら凛は逆らうことが出来ない。だって潔は、自分を深く愛してくれているのが分かるから。そして、ドロドロにされるのが、本当に認めたくないけど、気持ちよくてたまらないから。
今日も凛は、魔王様に愛されている。