首絞め潔カイ
「俺さ、あんまり痛いの好きじゃないからこういうのよくわかんないんだけど」
潔の声にカイザーは嘘だ、と思った。人の上に跨って、首に手を掛けておいて言うようなことではない。いや、この状況自体はカイザーが望んだものであるけれど。無理矢理のしかかられたら吹っ飛ばしている。
カイザーの首に触れる潔の手は温かく、潔が緊張したりしていないことを示していた。初めて首を絞めた時は緊張からか指先まで冷え切っていたものだが、適応能力の天才はこんなことにまで適応してしまうらしい。カイザーは自分の首に触れる潔の手がいつ力を込めるのか、期待しつつ大きく息を吐いた。
「でもカイザーは好きなんだもんな。これ」
ゆっくりと潔の手に力が込められる。無意識に潔の腕を掴もうとした自身の手を理性が引き留め、シーツの上へと戻した。潔の手は頸動脈を押さえていて、血の巡りを阻害している。ばたつこうとした足は潔の体によって止められた。青い目がじっとカイザーの様子を窺っている。頭がぼんやりとし始めたところで力は緩められ、カイザーは反射的に咳き込んだ。
「ごほッ、ごほ、げほ」
「大丈夫だったか?」
「は、誰にものを言っているんだ世一」
いや、お前が大丈夫かじゃなくて、俺が上手くできてたかって話。潔はそう言い、カイザーの薔薇に触れる。
「お前のその顔見たらお前が大丈夫なのはわかるよ」
カイザーが咳き込んだ時に溢れた涎を指で拭って、潔は瞬きをした。その表情は幼い子供のようだ。
穏やかそうな顔をしやがって。つい一瞬前まで人の首を絞めてたくせに。絞めさせた側であるのを棚に上げてカイザーは鼻を鳴らした。
「……ふん。サッカーよりは才能があるんじゃないか」
「クソ皇帝……」
本当は力の具合も放すタイミングも完璧だった。何より目が良い。深く青い目が自分一人だけをじっと見据えているのは気分が良かった。絞められる自分の姿をただ見られていると、気持ちが良い。ただ、それを素直に認めるにはまだ早いと、思う。
「なあ世一。もう一度だ。……できるだろう?」
「俺は出来るけど」
「ほら、上手くやれよ。俺の薔薇に触れさせてやっているんだからな」
お前な……。苛立ちを抑えるために長く息を吐いた潔が再びカイザーの首に手を掛けた。
「じゃあもう一回な。本当に良いんだな?」
「くどいぞ世一」
「はいはい。後で文句言うなよ」
それはお前次第だな。声に出さなかった意思は伝わったのか、潔の指先がピクリと動いた。一瞬潔の目に苛立ちが過ぎる。しかしそれもすぐに凪いで。潔の手に力が込められた。