食事のお供にカプチーノはいかが?

食事のお供にカプチーノはいかが?


ジョーカプチーノが1歳になって早数か月。姉たちと同じものを食べられるようになってきた。自分たちと同じものを食べられるようになった妹が可愛いのか、サンデーサイレンス、ヒルノダムールの2人は食事中に色々と食べさせてあげるようになっていた。

 

「みんな、お昼ご飯の時間ですよ。お片付けしたら、リビングに来てください」

「はーい。カプ、お姉ちゃんがお片付けしておくから、先にママのところ行っていいよ」

「ごはんー?」先ほどまで仲良く遊んでいたのに、片づけを始めた姉たちの動きの理由を確かめるように首を傾げた。

「そうだよ。お腹空いてるでしょ?」

「んー!おかーさー」そう言ってとことこと駆け出すカプチーノの姿を、サンデーとダムールは微笑ましく見送った。

 

「カプちゃん、おいしいですか?」

「ん、おいしー!」カフェにご飯を食べさせてもらい、カプチーノはお昼を満喫していた。好き嫌いもなく、何でもおいしそうに食べる姿は、周りにほっこりとした気分をもたらすのだった。

「カプは本当によく食べるね」

「アタシと同じくらい食べてる」

「ダムちゃんももう少し食べていいんですよ?」カプチーノの食事量はダムールとほとんど同じだった。カプチーノがよく食べるのか、ダムールが食べていないのか判断が難しいとカフェが夫にこぼすこともあるほどだった。

そのようなやり取りをしながら、昼食は進んでいった。

「ん……まんぞく……んにゅ……」満腹になったことで、カプチーノはうとうとし始めていた。

「カプ、お姉ちゃんといっしょにお昼寝しよ?」

「アタシもねる……ママ、おやつの時間になったら」

「わかっています。ちゃんと起こしに行きますから、ゆっくりお昼寝してください」

サンデーに連れられて、ふらふらしながら寝室に向かうダムールとカプチーノを見送り、おやつの時間に向けて準備を始めるのだった。

 

「ママー!カプに食べられたー!」おやつの準備を終わらせ、リビングで一人寛いでいたカフェの元にダムールが泣きながら駆け寄ってきた。

「どうしたんですかダムちゃん?」

「お昼寝してたら、カプがアタシのほっぺ食べたのー!」見るとダムールの頬には何かが吸い付いたような跡とべっとりと唾液が付着していた。

「ほっぺがおもちみたいって遊んでたから、カプはアタシのこと、ご飯だって思っちゃったんだー!」

「大丈夫ですよダムちゃん。カプちゃんくらいの子にはよくあることですから」

「ほんとう?」

「本当ですよ。ダムちゃんもお昼寝の時サンちゃんや私、パパによくしていましたし、サンちゃんもです。食べ物としてみているのではなく、お口に入れられるものをなんでも入れてしまうだけですから」

「おねえちゃんも?じゃあ、だいじょうぶ?」

「ええ、大丈夫です。……おやつの準備は出来ていますから、落ち着いたらサンちゃんとカプちゃんを起こしてきてくれますか?」

「わかった。でも、もうすこしぎゅってして」

ダムールが落ち着くまで、カフェはダムールを抱きしめて会話を続けるのだった。

 

「カプ、もう少し食べる?お姉ちゃんのクッキー分けてあげる」

「おねーちゃ、ありがと」

おやつの時間にはダムールも普段の状態を取り戻し、カプチーノに対して姉として振舞っていた。

「ゼリーもあるよ。カプ、あーん」

「あーん。……おいしー!」

「サンちゃんたち、おやつは足りていますか?まだまだありますから、欲しかったら言ってくださいね」

「「はーい」」「たー!」

 

カプチーノにいくらかおやつを渡していたことで、サンデーとダムールの分は少なくなっていた。少し前なら母におかわりを求めるところであったが、カプチーノの前で追加を求めるとカプチーノに悪いのではないかと思い踏み出せないでいた。

「おねーちゃ?」姉二人の変わった雰囲気を感じたのか、カプチーノが不思議そうな表情をしていた。

「おねーちゃ、あげるー」そう言ってカプチーノがクッキーを差し出していた。

「カプ、それはカプの分だから」

「おねえちゃんはもうたくさん食べたから……」

「だーめ。おねーちゃ、あーん!」頬を膨らませてにじり寄ってくる妹の圧に負け、サンデーとダムールは大人しくクッキーを口にした。

「おいしー?」

「うん、おいしいよカプ」

「でもいいの?カプの分だよ?」

「いいの!おねーちゃ、うれしー?」

カプチーノにとって姉たちに色々と食べさせてもらうことはとても幸せなことだった。そのため、カプチーノにとって何かを食べさせるという行為は、相手のことを大切に思っていることの証明なのであった。

 

 

「ただいま。三人とも、今日も良い子にしてママと仲良くできたか?」

「当然でしょパパ!今日もみんなで沢山遊んで、楽しかったの」

トレセン学園から景福が帰ってきたのはいつもと同じ時間だった。彼が帰ってくることが夕食の時間を示す合図にもなっていた。

「おかーさ、ごはん、なあに?」母の料理を一番楽しみにしているカプチーノが、景福が帰ってきてからカフェにこの質問をすることが日常にもなっていた。

「今日はグラタンですよ」

「ぐらたんー?」料理名で言われてもどのような料理かまだピンと来ていないカプチーノにどんな料理かを教えようとするサンデーやカプチーノの姿もまた、家族のおなじみの光景であり、これを見ることで景福は家に帰ってきたことを一層強く実感するのであった。

「あともう少しかかりますから、サンちゃんたちはパパと一緒にお片付けと食器の準備をしてくださいね」

「はーい、ママ。カプ、お姉ちゃんたちと一緒に準備しよ?」

 

片付けと準備を終わらせ、カプチーノを一足先に椅子に座らせたのち、景福たちは完成した料理をテーブルに運んでいく。

「ぐーら!」運ばれてきた料理を目にし、カプチーノは目を輝かせた。

「カプ、熱くて危ないからもう少し待って。ママが来るまでパパとお話ししよう?」

「すーる!」

景福とカプチーノが話をしている間に、サンデーとダムールが料理を運び、今日の夕食の準備が整った。

「カプちゃん、お待たせしました」

「たべるー?」

「きちんと頂きます、してから食べるんですよ」

「ん!いただ、きます!」元気よく挨拶するカプチーノを見て、サンデーたちもそれぞれが挨拶してから食べ始めるのだった。

 

「カプちゃん、美味しいですか?」

「ん!おいしー!」きらきらと目を輝かせて返事をするカプチーノの姿を見て、カフェは嬉しい気持ちでいっぱいだった。普段より少し味が濃いことを嫌がったりしないか、熱くてやけどしないかを心配していたカフェだったが、カプチーノは問題なく食べ進めている様子である。

「カプ、真ん中の方はまだまだ熱いから、ちゃんとフーフーしてから食べるんだぞ」

「ふーふー?」

「カプ、お姉ちゃんの真似してみて!」そう言ってサンデーはカプチーノにわかりやすいよう、ゆっくりとした動作でグラタンを掬い、食べやすいように冷ます方法を実践してみせた。

サンデーの動きをじっと見ていたカプチーノはどのようにすればいいのか理解したようで、ゆっくりではあるがグラタンを冷まして食べ進めていった。

「ぐーら、ないない?」

「カプちゃん、美味しかったですか?」

「ん、とっても、おいし」カプチーノは味には非常に満足したようであったが、少し物足りなかったのかサンデーやダムールのグラタンをじっと見つめていた。

「もう少し残っていますから、おかわりしましょうか。少し待っていてくださいね」

カフェがカプチーノのおかわりを持ってくる間も、カプチーノは姉たちの前にある器をじっと見て口を開けていた。

「……カプ、食べたい?」

「たーい!」

「だったら、お姉ちゃんの分を少し分けてあげる。はい、あーん」

「あーん。おいしー!おねーちゃ、ありがとー」

嬉しそうな妹の表情を見て、サンデーはもう一口カプチーノに分けてあげるのだった。

「カプ、アタシも分けてあげる。あーんして?」

「あーん。おねーちゃ、すきー!」

こう言われて気を良くしたダムールはもう一口カプチーノに食べさせてあげた。

「サンちゃん、ダムちゃん、カプちゃんに分けてあげていたんですか?」

「そうだよ。だってお姉ちゃんだもん!」

「カプのために、お世話してあげるの!」

「そうだな、二人ともお姉ちゃんだもんな。でもなサンデー、ダム。分けてあげると言って、自分の苦手なほうれん草とブロッコリーをカプに食べてもらうのはよくないぞ」

景福に言われて、サンデーもダムールも一瞬表情が強張った。

「パパ、何を言ってるの?私はそんなことしてない」

「アタシも!ちゃんと、ブロッコリー食べたもん!」

「そうか?ならいいけどな。…そうだ、カプ。お姉ちゃんたちにお礼として、カプからもあーんをしてあげたらどうだ?」

「んー!するー!」

カプチーノが差し出してきたスプーンにはほうれん草とブロッコリーが乗せられていた。カプチーノにしてみれば、姉二人に食べさせてもらったものを自分もお返ししているだけであったが、サンデーとダムールにとっては厳しい選択を迫られるのであった。

「ちゃんと食べられだろ?お姉ちゃんだもんな?」

「パパのいじわる……」

「意地悪なんかじゃないさ。それに、カプはちゃんと食べるのに、サンデーたちが食べないと、将来カプの方が大きくなっちゃうぞ?」

「そんなことないもん!アタシもお姉ちゃんもカプも、みんな同じくらいになるもん!」

 

 

「…………」

「?どうしたのお姉ちゃん?」

「……なんでもない」

トレセン学園では定期的に健康診断を受ける必要があるが、その結果を見ながらダムールは昔の食卓でのやり取りを思い出していた。

「うう……どうしてカプだけ……。パパが正しかったの……?」

「よくわからないけど……お姉ちゃん、私はお腹が空いた。一緒に食べに行こう」

「はあ……わかったわ。で、何食べたいの?」

「今日は日替わりランチの気分。とりあえず5人前」

姉妹3人の中で明らかに抜けて食べる妹の食欲と、その結果生じたと思われる成長の差をまじまじと見せつけられ、ダムールの気は少し重くなるのであった。

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