風紀の乱れに甘い銃弾を

風紀の乱れに甘い銃弾を



「不法にサンド・シュガーを扱う業者をあえて泳がせ私たちを釣り出し、更に中毒者や不良も構わず雇い上げて執行部隊の分断…そして孤立した私を風紀委員会全軍で叩く…なかなかいい作戦だったわ、アコ」

かつてのゲヘナ風紀委員長としてヒナが率直な感想と称賛を口に出す

それを受けるのは、手足を縛られて椅子に座らされたゲヘナ風紀委員会の面々…


作戦は失敗だった

策自体に不備はなかった…すぐには援護を望めない状況を作り出し、練り上げられた連携で追い詰める

全軍をもって遂行すれば、あるいはヒナをも追い詰め得る筈だった

───彼女達が知る"ゲヘナにいた頃の"空崎ヒナが相手であれば

「訓練の成果かしら、私がいなくても…いえ、私が相手でもあそこまでやれるなんて本当に嬉しいわ…やっぱりご褒美をあげたいわね」

明らかに一人の手には余る激務から解放され、過労というバッドステータスが無くなったヒナは少なく見積もっても2倍は強くなっていた


「ヒナ委員長…!すみません…私は、私が…!あの、砂糖を…‼︎」

「謝ることはないわ、アコ…あなたのお陰で私は今とても満足してるんだから」

慚愧に堪えないといった様子で項垂れるアコに顔を上げさせ、ヒナが微笑みと共に感謝の言葉を突き刺す…

「違うんです、こんなの間違ってるんです委員長…ヒナ委員長…!」

「アコちゃん…やめてください委員長!そんなこと言われたってアコちゃんは苦しむだけだ!」


「ふうん…アコ」

イオリに制止されたヒナの雰囲気が変わる

凍えるような声音の呼びかけに風紀委員達が俄かに身をすくめた

威圧的な表情になったヒナが、かつての副官を刺す

「あなたのせいでこんなことになったのよ、満足?」

「」

「アコちゃんが死んだ!」

「委員長のひとでなし…!」


その時、再教育室の扉が開いた

「ヒナさん?もう少しこう何というか、手心というか…」

何人かの生徒が入ってくる、その先頭に立っていた刺激的で開放的な服装の痴女…浦和ハナコからツッコミが入った

「ハナコがこういうのは緩急が大事だって言ったのに?」

「緩急の"急"の部分が鋭すぎるんですよ…準備が済みましたよ♡」


ハナコに続いて部屋に入ってきた"アビドス風紀委員会"の者達がさまざまな「道具」、そしてサンド・シュガー/ソルトをを配置する

その中にはかつて美食研究会の会長だった黒館ハルナや正義実現委員会の副委員長であった羽川ハスミなど、以前であれば考えられないようなメンバーもいる

それはどんな言葉よりも饒舌にヒナが"ゲヘナ風紀委員長"ではなくなったことを物語っていた


「さて!さっきご褒美をあげるって言ったわよね、やっぱり贈り物はコーヒーがいいと思ったのよ…」

話しながらヒナは随分と慣れた手つきでコーヒーを淹れていく…当然のように多量のサンド・シュガーも投入して

「もうこの状況だもの、飲んでくれるわよね?」

そう、笑顔で放たれた問いに


「…飲めません…っ!」

アコが首を振った

イオリも、チナツも、風紀委員会の全員が、誰も決して砂糖を使うことを良しとはしなかった

「…どうして?貴女達は囚われの身よ、ここで私の言う通りにしなかったとしても、どうとでも貴女達に強制的に砂糖を摂らせることはできるわ

…どうして私の感謝と歓迎の気持ちを受け入れてくれないの?貴女達の不安も後悔も無くしてあげたいと思ってるのよ」

僅かに悲しそうな表情を浮かべたヒナの目を、アコが真っ直ぐに見つめる

「確かに私は不安に押しつぶされそうで、後悔もずっと抱えています…ですが…!

ここで委員長に甘えてしまったら、前までと同じです…!私たちは貴女を救えなくなってしまう…‼︎」

毅然と「空崎ヒナを救う」と表明したアコに、ヒナは僅かに微笑みかけた


「そう…ならお仕置きの時間ね!」

ヒナが手に持っていたコーヒーカップに口をつけ、一気に呷る

そして一歩下がり、満面の笑みでハルナから彼女の体格には見合わない巨大な機関銃を受け取った

「い、委員長?それは…?」

「"ピースメーカー"、新しく作ってもらった銃よ。塩や砂糖を直接相手の体に投与する弾丸を使用しているの…今日はと・く・べ・つ・に♡砂糖と塩の弾を交互に装填してもらったわ、つまり…貴女たちは一気に砂糖と塩を摂取するのよ」

ガシャンと豪快にボルトをコッキングし、初弾を薬室に送り込む

まずアコに銃口が向けられた


「アコ」

「はい」

青ざめているアコは、名前を呼ばれた途端背筋を正してヒナの言葉に聞き入ってしまう

飼い犬根性が染みついているのだろうか

「首輪つけて先生にリードを持たせて散歩したって本当なの?」

ヒナとアコ以外、全員が吹き出した

「違うんです委員長、そういうこともありましたがあれは先生に挑発されて罠に引っかかったのであって…」

「しかもなんだかスッキリしてその時の首輪を先生にプレゼントしたらしいわね」

アコの顔は青くなったり赤くなったり土気色になったりととても忙しそうな様子だ

「…ストレスは解消しましたが、それはたぶん先生と話したことの方が理由で…!首輪も元々私への攻撃であって先生が間違って持ち帰ったのをわざわざ返してもらう必要もないというだけでぇ…!」

「…まあいいわ…ところで」

ヒナが僅かに言葉を切り───

アコの横乳にぐいと銃口を押し付けた

「ずっと気になっていたけどこの服は何?風紀委員会の行政官たる者がこんな服着ていていいの?ハナコですらちょっと引いてたわよ」

「…全部今ここで言う必要ありました⁉︎」

「これはお仕置きだからね♡」

けたたましい銃声が鳴り響き、アコの体が跳ねる

ピースメーカーはドラム型の弾倉が空になるまで砂糖と塩の弾丸をアコに向かって吐き出した


同時に砂糖と塩を多量に摂取したことで完全にトび、椅子の上で汁という汁をだらしなく垂れ流しながら痙攣しているアコを尻目にヒナはピースメーカーをリロードする

「さて、次は…イオリ」

「〜ッ!」

イオリに銃口が向き、お仕置き…恥ずべき部分への追求が再開するかと思われた

「ま、待ってください!そういう系なら私は潔白だ!先生から一方的にセクハラを受けてるだけですよ⁉︎撃つならさっさと撃てばいいじゃないですか!」

「そうね、卒アル買われたり恥ずかしい写真を撮られたり…イオリは被害者よね!ところで」

イオリが先手を打って潔白を表明する…が、逃げられない

「最初に先生に足を舐めろと迫ったのはイオリじゃなかった?」

「…委員長、怒ってますか?」

「怒ってないわ♡」

ヒナはコーヒーを飲んでからずっと朗らかな笑顔を浮かべている

「それから…上半身裸になって先生に包帯を巻いてもらい、その後も何度か先生に看護を頼んでいるそうね」

「違っそれは至って真面目なやつであって!誤解だ‼︎」

「ところでここに貴女の負傷回数や負傷状況のレポートを持ってきてあるのだけど」

「…誤解だ……!」

再びピースメーカーが火を吹いた

今度はマガジンの四割ほどの弾丸を吐き出して銃声が止む、イオリはアコよりは軽症で済んだ


「ふふっ…前々から思ってはいましたが…やはりヒナさんには"素質"があるようですね…♡」

「うへ〜、おじさんは風紀委員ちゃん達の脇が甘すぎるだけのような気がするなぁ〜……でも、先生のそんな話は聞きたくなかった…知りたくなかったよ…」

予想外の情報に精神的ダメージを負ったのは何も風紀委員たちだけではなかった…

先生を大人として信頼していたホシノもまたショックを受け、ハナコに慰められている


「ふぅ…次、チナツ」

先程から黙ったまま滝のように汗を流していたチナツがびくりと肩を震わせる

何か心当たりが…非常にまずい心当たりがあるようだ

「チナツはまぁ…救護係だけあって真面目に働いていたようね

書類の処理を先生に手伝ってもらったり…私が温泉の優待券をあげた時も向こうで仕事してたらしいじゃない」

チナツの目が泳いでいる

「老舗旅館を先生とカップルプランで予約して、一泊の上に貸切風呂で混浴までしたのも…先生の慰安、休暇の一環ということね?」

顔を真っ赤にして俯く姿が実に哀れだが、ヒナは容姿しなかった

「…ごめんなさい、ヒナ委員長」

「怒っているわけではないわ…謝る必要も、意味も無いのよ」

マガジンに残った弾丸を全てチナツに叩き込んだ

三人が焦点の定まらない瞳と蕩けた表情で呻いているのを見て、ヒナは満足気に息を吐く


「足を引っ張らないように、支えられるように、引き継げるように…良い心意気よ、本当に褒めてあげたい」

ヒナがアビドスに来たきっかけは確かに砂糖だった…

しかし、それだけではここまでのことにはならないのだ

「正直限界だった…消しても消しても湧いてくる仕事に、先生に上手に甘えて一緒に過ごす貴女達…妬ましく思ったこともあったけど、当然よね…私は守れなかった、あまつさえ守れなかったのに慰められた…」

色褪せた日常の中で彼女はいつしか働く意味、ゲヘナの風紀を守る意義を見失っていった

その先にいるのが、快適な環境と意義を与えてくれるホシノの友人となった"アビドス風紀委員長"空崎ヒナである



数日後、アビドス校舎の一角にて

「アコはすっかり素直になったわね、良い子…良い子……真っ先に堕ちて味わうご褒美は美味しいかしら?」

「美味しいです…ごめんなさい皆…わた、私…あああ、美味しいです…!」

跪き嗚咽するアコを撫でながら、その口に一枚一枚タブレットを運んでやるヒナの姿があった

罪悪感からか最初は反応の悪かったアコもタブレットを舐めながらヒナに撫でられているうちに破顔してくる…それは僅かに堕ちつつある、或いはまだ耐えている仲間から逃避しようとする振る舞いでもあった


「ふふふ…噛んじゃダメよ、言う通りにできたら一番いいのをあげるから」

より多くの砂糖でキマりたいアコがタブレットを噛み砕こうとする

それを指で歯と歯の間をこじ開けて制止しつつ、ヒナが優しく言い聞かせる

「そんなぁ…もう我慢できません!限界ですから早くあれをっ」

「アコ?」

切なそうに身を捩らせるアコを椅子の上から見下ろしながら、ヒナが冷たく二度目の警告を放つ


「もう…しょうがないわね、せめてちゃんとおねだりしなさい…やり方は、そうじゃないでしょ?」

「ッ…!」

アコが歯を食いしばり、頬を染めてゆっくりと体勢を変える

絨毯の上に正座で座り直し、三つ指をついて額を床に擦り付ける

「ごめんなさい…調子に乗りすぎましたぁ…!ヒナ委員長、どうか我慢の効かない私にお慈悲を…」


「ふふっ、よくできました……ほら駄犬、楽しみなさい」

ヒナは土下座を披露したアコに体を起こさせ、その首筋に一本の注射を打ち込む

砂糖と塩の混合溶液、行政官を虜にして飼い犬のように従順にさせた一本

「あ〜…ふあぁ〜、ヒナ委員長ありがとうございます…好き…」

「私も好きよ…アコ、貴女は恥知らずで可愛いわね♡元凶の癖に一抜けして…♡早く素直になってくれて助かったわ♡」

ハナコに教わったやり方

スピードボールで頭がぐちゃぐちゃになった相手に罵倒と褒め言葉を続けてぶつけ、承認欲求と自尊心と被虐心と罪悪感わくすぐりながら快楽を教え込む


アコには的面に効きそうだと言っていたが、その読みは正しかったようだ

だらしない表情のまま差し出された腕に体を擦り付けているアコを見てヒナは微笑む

「貴女達もまた、ここで風紀委員になれたらいいわね」

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