顔も名も捨てた誰か

顔も名も捨てた誰か


男が一人、目の前に倒れている

何故倒れているのかと思ったが、手の獲物を見てそういえば俺が殺したのだったなと思い、離れる

かれこれ数年は似たようなことをやってきたのだ、こういった事の処理や逃走にも慣れるし慣れさせられる

………また、頭痛がする。殺しをする度に、身に覚えの無い記憶がフラッシュバックする。覚えてすらないけども、たしかに大切な人の記憶が

そうして、その声を、その顔を、その体温を思い出して………



いつものように、どうでもいいことだと切り捨てる。覚えてないなら必要の無かった記憶なんだろう、それに長々と付き合う理由もない


そう自分に言い聞かせ、路地を歩いているとふと、放置された鏡が目に入る

そこには黒い仮面で覆われた俺の顔と

虚無としか形容できない、何かが見え

いつかの大切な人の声が、頭に響いた

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