領主様と領民の交流③(可愛い動物をもふる)
スレ主◆MwEI06QrZW2kレースと他の町を繋ぐ道は主に2つだ。
1つは南の川に架けられた巨大な橋。もう1つは西の山脈を横断する道。
まぁ山脈を横断と言っても私の祖父の時代にあった戦いで山数個が吹き飛んだ結果、丁度いい通り道になった……ということらしい。
ちなみに流石に私でも山を吹き飛ばす威力は準備しないと無理だし、山に住んでいる動物が可愛そうだし資源が勿体ないので絶対やらない。
「領主様、大丈夫ですか?あわわ、やめなさいお前たち!?」
そして現在、私はそんなむかしは山だった場所の平地に作られた牧場へ来ている。
……ぴょんぴょんと跳ねるうさぎたちに遊ばれているワケだが。
毛糸角うさぎと呼ばれるこのうさぎは鹿のような角が生えている長毛種で、伸びた毛を収穫して糸にしているのだ。
そんな動物がいる囲いの中へ入った途端、うさぎたちに足元を囲まれてしまい踏まないよう気をつけていたらバランスを崩し尻もちを着いてしまった。
ころんだ私の上に乗っかったり体当たりで角を押し付けてきたりとやりたい放題。
うさぎのもふもふで隠れた目が体当たりの時にチラリと見えるが楽しそうな顔をしている。
領主にそんな事をしているうさぎ達をみて青ざめているのがここの担当者。
「気にしないでくれ、もふもふが自分から寄ってきているわけだし」
私に角で攻撃してきている個体を優しく掴むとじたばたと暴れるので、背骨に負担がかからないように両足の間で仰向けにひっくり返すと大人しくなった。
お腹を撫でて眉間も指先でなでてやると気持ちよさそうに目を細める。
そうすると他のうさぎも私にすり寄ってきて大人しくなった。
「ほら、大人しい。だから気にしないでくれ」
「よかった……」
ホッとしたのか担当者が胸をなでおろす。
以前ここで働いていたというカルカルナが酒場でみきゅみきゅ言いながら黒板に自分が毛糸角うさぎにされた事とひっくり返すと大人しくなるという説明を聞いていて良かった。
柵内を掃除している時に何度も体当りされたと愚痴を言っているらしい毛玉に皆苦笑していたわけだが。
「この子たち以外にはどんなのがいるんだ?」
「そうですね、乳牛と丸々鳥に卵鳥でしょうか」
「おっ、丸々鳥がいるのか。見てもいいだろうか?」
もちろん良いですよと担当者に連れられて数個隣の囲いに行くとまんまるな見た目の鳥たちがポロポロと鳴きながら歩き回っていた。
丸々鳥、飛ぶのではなく転がることで移動したり逃げる鳥だ。普通の鳥よりも全身が肉の塊で焼くとコレでもかとうまい肉汁が口の中に広がる。
成長も早く大人になっても直径20センチほどなのでオーブンに入れるのに丁度いいのだ。
許可をもらってから柵に入ると一斉にコロコロ転がって私から逃げる鳥たち。転がれば転がるほど良い肉質になるとの事で数日に1回程の頻度で囲いに犬を入れて追いかけ回すという事をしていると説明してもらった。
……滑り台とか滑車でコロコロ転がす事は出来ないのだろうか?
角に追い込んだ丸々鳥を捕まえると飛べないのに小さな羽をバッサバッサと羽ばたかせる。流石に可愛そうなので下ろすと転がって離れていった。出荷されるまで存分に転がるんだぞ。
その後は乳牛の乳搾りを経験させてもらったり、柵を壊そうとするイノシシが居たので仕留めたりした。
結局、最後はうさぎたちの所へ戻って待ち時間を過ごすことに。
角でどつかれても全然痛くないし。小さい動物が動き回っている姿にほほんとしていると荷台に大袋を乗せた担当者が声をかけてくれた。
「領主様、用意が出来ました」
「急に来てこんな注文をしてごめんなさいね。次はもっと前に連絡するよ」
「いえいえ……正直多くもらい過ぎではと思ってるくらいですので」
袋の中身は大量の丸々鳥の肉だ。
領主がいきなり来て迷惑をかけたと思うが、元々はパーティがあるのに丸々鳥の発注を忘れていた料理人ちゃんが悪い。
諸々の迷惑料として多めにお金を払わせてもらった。
……毛糸角うさぎいいな。ミーちゃんなら襲わないだろうし1匹くらい飼っても、と思ったが秘書君にダメですと言われそうな気がしたので諦めることにした。
だれか近所で飼ってる人いないかな。などと考えながら私は大袋を抱えてバッサバッサと羽を羽ばたかせて帰るのだった。
おわり