預言者達のスーツ姿が見たかっただけの話し

預言者達のスーツ姿が見たかっただけの話し



──ブラックマーケット・イベント会場──


「警備服って青色でもっとこう…明るい色が普通じゃないのか?」


 普段持たない銃を手慰みに触るながら、ビーナは共に仕事場に来たアインへ声をかける。

 本来アビドスの制服に包まれている二人の体は現在、しっかりとした仕立ての良い黒いジャケットを羽織、新品のおろしたてのワイシャツに袖を通し、いつも使っている物よりも質の良いネクタイを絞めていた。その姿はさながら映画やドラマに出てくるSPを彷彿とさせる。

 

「ブラックマーケットのイベント中でも大型、それも見るからに金持ちばっかりだからね。たかがバイトの警備員もそれなりの恰好しなきゃなんじゃないかな?」


「そういうもんなのか?」


「さあ?……ま、お給料も良くてついでにこんな良い服貸し出してくれるなんて太っ腹だよねー」


 ビーナとアインはブラックマーケットのイベントの警備員として雇われている。

 つい最近、長年アビドスが悩んでいた多額の借金が帳消しになった。これによりアビドス生達が無理に資金集めに奔走する必要がなくなった…とはならなかった。

借金はなくなった。が、それはあくまで大きなマイナスがなくなっただけであった。学園の設備を維持する資金、銃弾やヘリの燃料等の費用、復興計画のための予算等々……アビドスが資金難であることには依然変わりなく、生徒達は金策に日夜走っていた。


「ブラックマーケットの大人が真面に報酬払ってくれるか疑問なんだけど?」


「まあ、もし何か揉めるようなことがあったら雇い主取っちめましょ」

 

「それもそうだな」

 

 

──シャーレオフィス──

 

"オークションに付いてきてほしい?"


シャーレの先生啓子は突然訪問してきた二人の少女、セラとメレクと話していた。


「ええ」


「より具体的に言えばシャーレの先生の名義を借りたい、といったところかの?」


"名義を?"


「そうじゃの」


 二人は先生の元に来た理由を語る。


「近々、ブラックマーケットで大きなオークションが開かれるらしいのよ。そこに私達の欲しい商品が競りにかけられるそうなのよ。落札のための資金は問題ないんだけど……」


「地位と権力のある者でないと参加できんようでの……金はあってもわっちらは所詮はならず者じゃからな」


「そこで!先生の力を借りたいってわけ!シャーレの先生の肩書でオークションに参加したいのよ」


「無論タダでとは言わん礼は弾む」

 

 二人の話を聞き終え先生は少し考える。

 ブラックマーケット。デフォルトで治安の悪いキヴォトスの中でも特に治安の悪い犯罪の温床。そんな場所で行われる権力者達を対象とした大きなオークション。止めた方がいいのではという気持ちが沸く。しかし、正式な意味では違うが二人は生徒である。ならば無下にする訳にはいかないだろう。


"いいよ。それでいつ行くのかな?"


「即快諾とは、話が早くて助かるのお」


 目を細め、ほほと妖艶な笑みを漏らした。

 

 

 

 

 

"ところで何を買いたいの?

 

「うむ、遥か昔完璧な報償と刑罰によりキヴォトスの地を支配していた偉大なる女王、丸木土サドが臣下に罰を与える際振るっていたという鞭と、親愛の証として下賜された首輪が出品されると聞いてな」


「伝説と鞭と首輪……ぜひとも味わいたいわね!」


"(聞かなきゃよかったな……)"

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