"音楽の国 エレジア"

"音楽の国 エレジア"


───────ここはかつて10年以上前に音楽の国として栄えた島"エレジア" 今ではその影も形も見えなくなったこの島にも一人、ルフィの仲間の一人が飛ばされている。これはルフィから仲間たちへメッセージが送られる頃から、ほんの数日遡るお話……



「ここって…エレジア…?」


『ELEGIA』そう書かれた看板には苔が生え蔓が巻き付き、この国から人々の営みが消えたことを如実に表していた。


「…………さてと、悲しんでばかりじゃしょうがない!早くシャボンディに…ルフィ達と合流しないと……ん?港の方に誰かいる…?……!もしかして!!」



「ハァ…ハァ……!!やっぱり!ゴードン!!ゴードン!!!」

「…!!ウタ!?ウタなのか!!?なぜ君がここに!?」

「よかった……知ってる人に会えて…!! ひとりぼっちは痛いのより辛いもん!!」


ウタがゴードンと呼ぶこの人物。かつてエレジアを国王として治めていた者であり、ウタがフーシャ村に預けられていた時に、以前滅びる直前のエレジアで交流していたことをきっかけに映像電伝虫を通じて歌手として大成するよう様々な指導を施し、現在の"海賊歌姫"を形作る一因を担った男である。

そんな、実際の対面としては10年ぶりの再会となり抱擁を交わす二人の周囲には訝しむ人々の視線が、そしてそれら全てを見下ろす一本の海賊旗がはためいてる。


「あれ…ここにいる人たちは誰…?それにあの旗って…!」

「ウタ、こうして直接会えて私も嬉しい…だがここだと少々目立ちすぎる。ひとまず私の部屋へ行こう」



ゴードンの部屋へ向かい、完全に密室となった空間で二人は互いの近況を話し合う。

ウタはルフィと共にフーシャ村を旅立ち、それから仲間を集め、立ち塞がる敵を倒し、色々な航海や冒険の話を恩師であるゴードンへ自慢げに語った。

ゴードンは数年前から始めていたエレジアの復興について話し始める。かつての王主導による復興であったが、政府や海軍の後ろ楯がなく略奪目当ての海賊に日々悩まされていたが、その実情を憂いたシャンクスによりひと月と少し前にエレジアが赤髪海賊団の縄張りとなったこと。港で見た人々やはためく海賊旗は移住を希望する者達であり、赤髪海賊団のシンボルがそれらを見守ることで僅かではあるが着実に音楽の国"エレジア"の復興が進んでいることを。


「へぇ〜!シャンクス達がエレジアを……ついさっきまで嫌なことしかないと思ってたけど、人生悪いことばかりじゃないね」


滅びる以前のエレジアには世界中から最高峰の楽器や楽譜、音楽家達が集まり世の中にあらゆる音楽を届けていた。だがそんな音楽を狙ったとある凶悪な海賊団にこの国は狙われてしまったのだ。それを阻止せんと立ち塞がったのが、赤髪海賊団の"音楽家"であるウタにエレジアの音楽を聞かせてやろうと客人として招かれ訪れていたシャンクスら赤髪海賊団なのである。両者激しい戦闘の末に凶悪な海賊団は壊滅したが、奮戦虚しく凶悪な海賊団の謀略によりエレジアは滅びの一途を辿り、国王であったゴードン一人を残し、国民達は全員殺されてしまう。そして当時の政府及び海軍はこの事件を、燃え盛るエレジアから財宝を積み込み逃げていく姿を目撃した為、赤髪海賊団の犯行と断定したのだ。


「向こうの街があった方から来たんだけど…まだ戦いの跡がくっきりと残っててさ………でも!ここを縄張りにしたってことは、またシャンクス達がこの島を悪い海賊から守ってるってことだよね!やっぱりすごいんだなぁ赤髪海賊団って…!!なのに、政府や海軍はあの事件を、赤髪海賊団がやっただなんて嘘つくし!!まったく!シャンクス達のことなんにも分かってないんだから!!」

「…まあ政府や海軍にとってはシャンクス達も他の略奪をするだけの連中も変わりなく海賊だ…致し方あるまいよ」


それはそうだけど…と考えを巡らせるもすぐにまあいっか!と頭を切り替える。


「まぁでも、久しぶりにゴードンと話せて、今のエレジアの様子も見れて良かった!でも私そろそろ行かないと!!」

「ルフィ君達の元へ向かうのかい?それなら今度ここへやってくる交易船が途中シャボンディ諸島まで寄港するはずだ……ここへ来るのは確か…4週間後だったか」


4週間…3日後に集まる予定だったのになぁとため息をつくが、過去にルフィと共に船出してすぐに大渦に呑まれ遭難した苦い思い出があったため、仕方ないと受け入れる。


「すまない…本当は今すぐにでも送り出してやりたいのだが、私がここを離れるわけには行かんのでな……だが安心したまえ!君がここにいる間は不自由はさせないぞ!国を挙げて!!…とはまだ言えないが……我ら一同、君を歓迎する!!」

「フフ…!そんなに張り切らなくてもいいのに……ま!そこまで言うなら存分にもてなされようかな!!でも、もてなされるだけじゃつまんない!私もなにかやるよ!復興のお手伝いとか、私の冒険談とか…歌ったりとか!!」

「おお…!ありがたい申し出だ!君の歌は素晴らしい!!こちらこそ是非お願いする!君の歌があればよりこの島の復興も進むことだろう!!」


───────それからシャボンディ諸島行きの交易船が来るまでの間、エレジアで復興の手伝いや住民達へ向けて歌を歌ったウタ。そんなこんなで一週間が過ぎた頃………



「早起きして朝の海岸散歩…もうすっかり日課だねェ……なにこれ?」


"音貝"。ダイヤルの中で最も普及している種類ではあるが海岸に流れ着いているのは珍しい。なにか録音されてるかもと興味本位で貝頂を押し込み音声を再生する。


​───────それにより自分の運命が大きく動き出すとも知らずに


「………………ザザァ…ザザァ……ここは音楽の国"エレジア"…!!この音声は今この国で起きている悲劇を伝えるもの……この国は今…突如として出現したバケモノに蹂躙されて…うわぁ!!」

「え…?なに……これ……」ドクン…ドクン…

「……ハァ…ハァ……そのバケモノに対してこの国に居合わせた"赤髪海賊団"が応戦しているが……それでも敵わない…!!彼らも強いが、魔王にはまるで通じていない!!!既に国民の半数近くが犠牲になり、被害者の数は加速度的に増加中…!!もうこの国は終わりだ………あの"ウタ"という少女は危険だ…!!!」

「あ…あァ……やめて……やめて………!!」ドクン!ドクン!!

「…………あの子の歌は世界を滅ぼす!!!!」

「……ハァ………ハァ…………!!!うぅ!!」


突如として突きつけられた信じ難い事実。聞くに耐えないその悲痛な音声。だがそれらを全て肯定するかのように自身の奥深くに眠っていた記憶が呼び起こされる。


​───────​───────


「誰か!私の子を知りませんか!!誰か!!」

「パパー!!ママー!!!」

「だれでもいい……たすけてくれ………」


「目を覚ましてくれウタ!取り込まれるな!」

「あ!赤髪海賊団!!魔王と戦ってくれるんだ!!」

「こいつらはおれ達が引き受ける!ライムジュース!!お前の電撃で魔王の防御を破れ!!!」

「任せろ!!でりゃあァァ!!!よしやったぞ!お頭ァ!!!」

「ああ…!!魔王よ……ウタを、おれ達の娘を返してもらうぞ!!!」

ヒィギャアアアアァァァァァアアア!!!!!


​───────


「うっ…なんか、さっきから頭痛い…」

「あら、大丈夫?あまり無理はしない方が…」

「心配してくれてありがとうロビン。でも大丈夫だよ、多分…」


「"麦わらのルフィ"の首一つおれに差し出せ……そうすればお前達の命は助けてやる」

(……エ……タエ……ウタエ……!!…ウタエ!"破滅の譜"を!!!)

「おい…ウタ……?どうしたお前そんな怖ェ顔して…」

「────ᚷᚨᚺ ᛉᚨᚾ ᛏᚨᚲ ᚷᚨᚺ ᛉᚨᚾ ᛏᚨᛏ ᛏᚨᛏ ᛒᚱᚨᚲ!!!」ドゴオォン!!!

「………生きていたか…"エレジアの悲劇"…………まったなしか…お前達、手を貸せ…コイツを抑える」

「言われなくても…!!!」


​───────​───────


蘇った記憶はエレジアが滅びた日の真実を伝え、そしてスリラーバークにて七武海"暴君"くまと対峙した時に朧げとなっていた記憶の正体であった。


「ああ……あああ………」


(全部……思い出した…………あの時……スリラーバークで記憶が飛んだのは………なにより……………エレジアを滅ぼしたのは悪い海賊でも………シャンクス達がそいつらと戦ったからじゃない…………………)



(その時のイメージ画)


「……ウタ?そこでなにを……ウタ!?どうしたのだ一体…!?ウタ!!目を覚ませ!ウタ!!!」

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