面影に縋る

面影に縋る


触れた脚は奇妙な方向に曲がってしまっていた。ふ、ふ、と荒い息を吐き出しながら、つい最近まで副官と遇し傍らに置いていた男はどうにか東仙と距離を取ろうとしているらしい。ベッドの上で衣擦れの音がしていた。

「檜佐木」

名を呼びながら慎重に脚を押さえると息を飲む気配がする。東仙に回道の技術はないから、今回使うのは虚圏でもよく使われているという治療薬の類だ。

「あまり動くな。治療に差し障る」

瓶の中身を幹部に塗布すると、砕けた骨や腫れた肉が治っていく感覚に耐え難いのか檜佐木は息を詰めて身を固くする。

――彼女も何か悩み事がある時はこうして言葉も忘れて息をひそめることがあった、と東仙は胸の内に染み出した記憶を首を振ることで遠ざけた。

「……またノイトラに見つかったんだろう。斬魄刀を奪われ、何日もまともに動いていないその身体ではあれには勝てない。無用に血を流そうとするものじゃないよ」

「……ッ。東仙、隊長、」

シーツを握り締めたのか、手をついていた部分が波打つ。檜佐木が吐き出した長い息は震えていた。

「どうして――どうして俺をこんな風に閉じ込めておくんですか。どうしてここに連れてきたんですか。俺は……ッ、俺には貴方がわかりません、東仙隊長!」

動揺に迸った霊圧は、やはり"彼女"によく似ている。東仙は溜息と共に手を伸ばして檜佐木の胸元に触れた。そのまま白伏を叩き込めば、檜佐木の声がぶつん、と途切れる。倒れ込んできた身体は戦いを生業としているにしては華奢に感じられた。

「……いつまでそこで見ている。ザエルアポロ」

「……お気付きでしたか。東仙統括官」

元通りに布団へ檜佐木と横たえた東仙の背後にある扉。その向こうにある薄闇から音もなく現れた破面は流石です、と芝居がかった口調で笑った。

「何か用か」

「いいえ。ただ貴方にしては随分非合理的なことをなさっていると思いまして」

ザエルアポロはそう言って一歩、部屋の中へと踏み入る。

「僕に一言命じて下されば逃げ出す意志など二度と持たぬように出来ますよ。……ああ、そう言えばゾマリも彼について――……」

「ザエルアポロ」

――刹那、東仙の霊圧が膨れ上がった。

びしびしと突き刺すようなその気配に、岩漿のような怒りに、ザエルアポロは微かに顔を引き攣らせる。光すら映らぬ目でこちらを射抜く東仙の感情が、彼の身体を鉛のように重くした。

「檜佐木について、お前から私に対する意見を許した覚えは無い。檜佐木に関する事のあらゆる決定権は私にある。余計な口は出すな」

「……これは失礼致しました」

頬を一筋汗が伝う。ザエルアポロはそれを悟られぬよう恭しく一礼し、その場を去っていった。


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