静かにお眠りよ

静かにお眠りよ

トラウマ再発グエルのラウダ視点です

「グエルが授業に来ていない?」

カミルからの連絡にラウダは眉を顰めた。真面目な彼女がそんなことするわけないだろうと言えば「ホントなんです!」と電話越しに後輩の声が聞こえ、ラウダはより眉間のシワを深くする。

「どういう事だ?」

『午後の授業から顔を出してないんッスよ!』

『さっきから連絡もしてるんだが、出てくれなくてな。何か知らないかラウダ』

「いや…」

知らない。昼間までは確かに一緒にいたが、ラウダは次の授業が実習だった為グエルより先にランチを上がったのだ。だからそれ以降のことは分からない。そう告げればカミルはそうか、わかったとだけ言ってはため息を吐いた。

『体調でも悪いのかもな、急に連絡してすまなかった。俺たちの方でもう1回探してみる』

「…大丈夫だよ。むしろ連絡をくれてありがとう。僕の方でも探してみるから」

『あぁ、頼む』

ぷちりと切れた端末を眺めながら、ラウダは深く息を吐いた。嫌な胸騒ぎがして、手の震えが止まらない。何度か深呼吸を繰り返しては、次の授業の担当である教員に声を掛けた。


───


庭園、中庭、食堂、寮、心当たりのある場所を走り回ってもグエルがいる気配がない。生徒に声をかけながら「グエルを見ていないか」と問えば殆どの生徒はふるふると首を横に振るだけだった。使えないヤツらめと吐き捨てそうになるセリフを飲み込みながら、もう用はないと移動しようとすれば1人の生徒に声を掛けられる。なんだ、とそちらを見ればおどおどとした生徒があの…と言葉を発した。

「グエルさん、お昼頃に降下訓練所がある森の方に行きましたよ…」

「何故?」

「そ、それは、知らないです、けどッ…多分、お散歩でも、してたんじゃないですか…?」

怯えた生徒に八つ当たりしそうになる自分が恥ずかしい。1呼吸置き、ラウダは「森だな」と呟く。はい、と頷いた生徒になるべく優しい笑みを浮かべながら礼を言えば、目を見開き、顔を赤く染めた生徒は甲高い悲鳴をあげながら「どういたしまして」と走りながら逃げてしまった。怖い顔でもしてしまっただろうか、と自分の頬を触りながらラウダはグエルが居るかもしれないと聞いた森の方へと足を向けた。


──


見つけた。ぐったりとしゃがみこむ彼女。体調が悪そうに震えるのが遠くからでもわかる。息切れしながらも彼女の元へ駆け寄った

「グエル!!!」

腹の底から、大きな声が出た。久々に出した声のせいで喉が痛い。同じようにしゃがみこみ、あまりにも冷たい手を温めるように握り締める。大丈夫だよ、落ち着いて、ここには僕がいるから。そう込めるように強く握れば、かひゅかひゅと細かい呼吸を繰り返すグエルの背を優しく撫でた。

「グエル、目を閉じて、ゆっくり息を吸って」

吸って、吐いて、繰り返させながらゆっくりと彼女の呼吸を落ち着かせていく。何度か詰まった息はすぐに吐き出され、だいぶん落ち着いてきたのかグエルはゆっくりと顔を上げた。その顔はびっしょりと汗で濡れており、一体何があったんだと問い詰めることも出来ず僕は手を握ったまま彼女を見つめていた。どうして、そんなに脅えた顔を。

「グエル」

「……ら、うだ」

あ、とグエルが言葉を発する。同時に勢いよく抱きつかれラウダはぐっと声を漏らした。突然のことに困惑しながらもどうしたの?と声をかけるも、どうやらパニックになったグエルには届いていないようだった。

「やだ、ごめんなさい、ごめんなさい」

「グエル?」

「ごめんなさい、わるいこにならないから、いいこにするから」

「グエル」

「すてないで、ひとりにしないで、きらいにならないで!」

「グエル!」

何度も名前を呼ぶが、返事が返ってこない。誰かに謝罪を繰り返す彼女を抱きしめ、大丈夫だよと言葉を繰り返す。あー、あー、と泣きじゃくりながら頭を撫で、自分の中に閉じこめる。落ち着いて欲しくて抱きしめるも、背に回された腕により力が込められる。一瞬こちらもパニックになるもラウダは呼吸を整えながらパニックになりそうになる脳を落ち着かせる。大丈夫、大丈夫。大丈夫なんだよ、グエル。

「大丈夫、グエルは悪い子じゃない」

「ぁ」

「ずっといい子だし、1人にもしないずっとそばにいる」

「う、ぅ…?」

「約束する。嫌いになんて、絶対にならない」

「ほ、んと?」

子供みたいにぽろぽろ泣きじゃくるグエルをゆっくりと撫でる。ふわふわの髪の毛に指を通し、出来る限り、優しく、出来る限り、グエルを全部から守るように。濁りに濁った目と、自分の目を合わせながら、出来る限りの笑みを浮かべる。


「ホント。ラウダ・ジェタークは嘘をつかない。ジェタークのエンブレムに誓ってね?」


ばくばくと激しく、荒かった呼吸が落ち着き出す。背中に回されていた手がすとんと落ちてはぐったりともたれかかってくる。

「…僕が君を守るから、今はゆっくりお眠り」

グエルが完全に意識を飛ばす前にそういうも、彼女に聞こえてはないようだ。ゆっくり彼女を持ち上げ片手で端末にカミル達に連絡を送る。ぐっしょりと濡れた額に口付けを送りながらラウダはより強く、腕の中で静かな寝息を立てるグエルを抱きしめるのだった。


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