青春の終わり
ある日、トリニティの掲示板にある張り紙が張り出されました。
それには新しく流行している『砂糖』と呼ばれる薬物についての注意の呼びかけが記載されていました。
それを読んだ皆は、私が見た限りでは怖がりつつもそれ程真剣に受け止めていませんでした。
私も、軽く流して頭の片隅に追いやっていました。
ある日、トリニティで一人の生徒の暴行事件が起きました。
突然周囲の生徒を殴りつけた彼女は、正義実現委員会に連行されました。
本来ならしかるべき裁きを受けるはずだった彼女は、そのまま救護騎士団に送られました。
『砂糖』の服用が、確認されたからです。
その日から、トリニティの戦いが始まりました。
私は、少しでも皆の力になりたくて、救護騎士団のお手伝いに志願しました。
まだ見習いなので、あまり大したことはできてません。
今日は受付です。幸い、今のところ誰も来ることはありません。
暇である、その尊さをこの上なく噛み締めていると…
「誰か、誰かいますか!?」
残念ながら、今日もまた犠牲者が出てしまったようです。
「はい、こちらにどうぞ!どうなさいましたか!?」
「友達が、昨日私があげたお菓子に、『砂糖』…う、うぅ…」
何とか事情を説明しようとする声は、涙と嗚咽にかき消されてしまいました。
「落ち着いてください…急患1人、お願いします!」
救護騎士団の方を呼んで患者の方を任せます。
私は、友人の方を待合室に連れて行きました。
待合室で彼女は、ずっと、ずっと、待っていました。
待合室で彼女は、ずっと、ずっと、泣いていました。
救護騎士団のお手伝いを初めて少し、最近は新しい仕事を任せてもらえるようになりました。
今日は状態の軽い中毒者の方のトイレへの付き添いです。
何人かトイレに行く等と偽って脱走を図る方が出たため、原則としてどこへ行くにも付き添いをすることにしたそうです。
「…ごめんね、こんなのに付き合わせて」
「いえ、『砂糖』は怖いですから!何事もやりすぎってことはないと思います!万全な体制で克服しましょう!」
「…ごめんね」
「…?」
彼女の言葉に、どこか違和感を覚えました。
しかしそれが何なのか判然とせず、トイレにたどり着きます。
「…じゃあ、ここで待ってますから、終わったら呼んでくださいね」
「…うん」
彼女は一番奥の個室に入りました。
私はその間、外で待ちます。
少しの間、待ちました、
まだトイレから声はしません。
「…あの、大丈夫ですか?」
返事はありません・
「………」
トイレの一番奥の個室に向かいます。
開けようとしても、ドアに鍵がかかって開きません。
「…ごめんなさい」
一言謝って、上から覗き込みます。
もぬけの殻になった個室と、空いた窓が私の目に写りました。
急いで救護騎士団の方へ良き、報告と謝罪をしました。
救護騎士団の方は、状態を見誤った自分たちに責任があると不問にしてくれました。
ご友人の方に、謝りに行きました。
彼女は私を許してくれました。
罵ってはくれませんでした。
ただ、泣いていました。
救護騎士団のお手伝いにも慣れた頃、ナギサ様からのお呼び出しを受けました。
「お久しぶりですね、ヒフミさん。お元気そうで何よりです」
「あ、は、はい!ナギサ様も、えっと…」
ナギサ様の様子は、控え目に言ってもお疲れで、とてもお元気などとは言えませんでした。
「いいんですよ…さあ、かけてください」
ナギサ様は微笑んで着席を促されました。
慌てて向かい側の席に座ります。
今日のナギサ様は、お菓子もお茶も、お勧めになりませんでした。
「近頃は救護騎士団の方でお手伝いをしているそうですね。色々と、良い評判を聞いていますよ」
「え、そ、そんな…まだまだ未熟で、皆さんの手を煩わせてばっかりで…」
「謙遜も過ぎれば毒ですよ…さて、本題に入りましょうか」
「あ、は、はい!」
改めて。佇まいを正します。
「ヒフミさんに頼みたいのは…ある、一人の生徒の世話です」
「お世話…ですか?」
「はい。その生徒の名前は…聖園ミカ」
「ミカさん…ですか?」
「はい…ヒフミさんもご存じかもしれませんが、彼女は今、重篤な『砂糖』依存に悩まされているのです」
「え…!?」
「ヒフミさんは救護騎士団のお手伝いで十分な経験を積みました。そんなあなたに、お願いしたいのです」
「そ、そんな…私なんかが…それなら、救護騎士団の人にお願いした方が…」
「ヒフミさん」
戸惑う私の手を、ナギサ様の手が包み込みました。
「貴女しか、頼れないのです」
理由は、教えてはくださいません。
ただ、懇願するような視線が、私を見つめていました。
「…分かりました」
断る選択肢は、ありませんでした。
「ありがとうございます…無理強いをして、すいません」
「む、無理強いだなんて、そんな…」
「…早速、ミカさんの元へ案内します。」
「あ、は、はい!」
ナギサ様に連れられて、ミカさんの元へ向かいます。
現在、ミカさんは隔離のため彼女がかつて投獄されていた牢獄で療養なさっているそうです。
牢獄前の扉につき、ナギサ様が声をかけます。
「ミカさん?私です、ナギサです」
暫くして、声がかえってきました。
『…ナギ、ちゃん?来ちゃ、駄目…』
「…!?ミカさん、入りますよ!」
帰ってきた声に血相を変えたナギサ様が、扉を開けて中に入ります。
ミカさんは、地面にひたすらこぶしを叩きつけています。
「ミカさんッ!」
「来ないで!」
「…ッ」
「あ…」
駆け寄ったナギサ様の頬を、ミカさんの手が打ち据えました。
それを見たミカさんは、少し冷静になったようです。
「ご、ごめんナギちゃん。私、イライラが収まらなくて…」
「いいんですミカさん…いいんです」
少し時間を置いて、落ち着いた後ナギサ様は私をミカさんに紹介しました。
「ミカさん、彼女のことは覚えていますか?」
「…補習授業部の、ヒフミちゃん、だよね」
「あ、はい!」
どうやら覚えていてもらえたみたいです。
「私がミカさんの世話をするのも限界があるので、これからはこちらのヒフミさんにお願いすることにしました」
ナギサ様の言葉に、ミカさんは不安げな表情をします。
「………本当にいいの、ヒフミちゃん。さっき見たでしょ?今私、あんななんだよ?」
「い、いえ、ナギサ様のお願いですから!それに、私これでも救護騎士団のお手伝いで結構経験も積んでいるんです!どんと任せてください!」
患者を不安にさせてはならない。救護騎士団で教えてもらった心得の一つを思い出した私は、何とか安心させられるように振舞ってみました。
安心…させられたかどうかは分かりませんが、2人共、表情が少し和らいだ気がします。
「…そっか。じゃあ、よろしくね。ヒフミちゃん」
「はい、お任せください!」
ただ、ナギサ様の表情に、どこか寂しげなものを感じたのを、よく覚えています。
「…ミカさんのこと、よろしくお願いしますね。ヒフミさん」
後日、ナギサ様とセイア様のティーパーティー解任と投獄が発表されました。
理由は、アビドスへの内通と学内の薬物汚染に加担したこと、だそうです。
ナギサ様とセイア様のことは、私にとって酷くショックでした。
それでも、私がすぐ立ち上がれたのは、ナギサ様から託された最後のお願いのお陰かもしれません。
ミカさんは、エデン条約の一件の影響でトリニティの中では針の筵でした。
かつてはご友人であるナギサ様とセイア様がその後ろ盾をしていましたが、学内で『砂糖』との戦いが始まり、お二人が投獄されてからは気にかける人はいなくなりました。
ーーー今ミカさんを気にかけているのは、私しかいない。
何か事情があったに違いないという願いと、そんな使命感にも似た思いが、私に立ち上がる力をくれたのです。
日々の救護騎士団でのお手伝いが終わった後、私はミカさんの元へ向かいます。
ミカさんの容体は、日によって変わります。落ち着いているときもあれば、荒れている時もあります。
ナギサ様やセイア様のことを聞いた後は、数日間酷く取り乱した状態が続きました。
それでも一つだけ変わらないのは、彼女が『砂糖』に打ち勝つため、常に懸命に努力をしていることです。
それを支えるため、今日も私は彼女の待つ監獄へと向かいました。
「ミカさん、ヒフミです」
部屋の前で、ミカさんに呼びかけます。
返答の内容を見て、今日の対応を決める。それが日々のルーティンになっていました。
『ヒフミ…ちゃん?いらっしゃい…今日は、少し調子がいいみたい…』
直に返答が返ってきました。声音から無理をしている様子はあまりありません。本当に調子はいいようです。
「こんにちは、ミカさん」
「良く来てくれたねぇ…いつもありがとう…」
「いえ、好きでやってることですから…これ、今日の分の食事です」
ミカさんの食事は三食全て通うことは難しいので、普通のものを一つと、保存が効く二食を一度に運びます。
「これは…」
ミカさんは食事の中の一つ―――ロールケーキに目を止めました。
「以前ナギサ様との思い出の品だと言っていたので…用意してみました」
「…そっか。ありがとうねぇ…」
ミカさんは、何かを懐かしむように、ロールケーキを見つめています。
ミカさんのお世話をするようになってから、調子がいい日、私とミカさんは話すようになりました。
趣味のこと、オシャレのこと、好きな料理のこと、完治した後したいこと…
この日々が始まってからそれ程長くはありませんが、あたかも友達のような関係になりました。
それから彼女の顔色が少し良くなった…というのは、少し自惚れが過ぎるかもしれません。
「…あれ」
ふと辺りを見回すと、何か忘れていることに気づきました。
「…どうしたのぉ?」
「いえ、紅茶のティーポットが…ちょっと忘れちゃったみたいです」
日々ルーティンが続いて気が緩んでいるのかもしれません。気を付けないと…
「すいません。直ぐに持ってきますね。ついでに昨日の分は早めに下げちゃいます」
「ありがとう。気を付けてねぇ…」
食器の片づけとティーポットを用意するため、監獄棟の給食実に向かいます。
しかし問題が起こります。給食室のすぐ傍まで来た時
「…あれ?」
普段は灯りが付いてない給食室に、灯りがついていました。
一瞬昨日消し忘れたかな、と思いましたが、その考えはすぐ消えました。
中から物音が聞こえます…誰か、いる?
「…」
以前ならそのまま声をかけるところでしたが、今回は用心のためまず様子を見てみることにしました。
「あれは…?」
中にいるのは一人の生徒でした。
どうやら彼女も私と同じくティーポットに用があるようで、作り置きしていたもののフタを開けています。
そして彼女は懐から『砂糖』状のものを取り出してティーポットの中にーーー
「何を…何をしているんですか!?」
思わず食器を放り出し、彼女に詰め寄ります。
気づいた彼女はこちらを向いて
「邪魔を………貴女、阿慈谷ヒフミ?」
「…え?」
なんで、私の名前を
嫌な予感が脳裏を駆け巡ります。
聞きたくない、目を背けたい、そんな衝動が沸き起こりますが、時すでに遅く
「あなた、ハナコ樣の友達でしょ!?ハナコ様の邪魔をしないで!!」
「---」
私の中の、大切な何かが折れる音が、ハッキリ聞こえました。
「鎮圧、完了」
暴れる生徒を制圧して、アズサは呟いた。
最近、アズサは狂暴化したり脱走した中毒者を捕獲する手伝いをしていた。
今日もいつものように中毒者を捕らえ、救護騎士団の団員を探す。
首尾よく団員を見つけたアズサは、彼女に声をかけた。
「一人捕まえてきた。対応を頼む」
「………ッ!?あ、はい、少し待っていてください!」
「…ああ」
救護騎士団の団員は少しぼぅっとした後慌ててアズサの頼みに対応を始めた。
連日の激務の疲労で、反応が遅れたのだ。
ただでさえ疲労した団員にこれ以上仕事を増やすことに、少し心が痛む。
しかし、戦場での応急手当ならまだしも、中毒者の対応の仕方など分からない。
これが適材適所なのだ。そう自分に言い聞かせてアズサは中毒者を団員に任せ、その場を離れた。
その場から離れて別の中毒者の事件が起きていないか確認しようとした矢先、アズサはモモトークにメッセージが入っているのに気づいた。
―――差出人は、聖園ミカ。
「………?」
連絡先を交換したことのない相手からの連絡に困惑しつつも、モモトークを開く。
メッセージは、たた一文。
『ヒフミちゃんを、止めて』
「…ヒフミ!?」
事情を聞き返すことも忘れて、窓から辺りを見渡す。
偶然か、或いは運命か、校舎を離れようとするヒフミをアズサは補足した。
「ヒフミッ!」
窓から飛び降りるとあらゆる負荷を忘れて、アズサはヒフミを追いかける。
校舎と外の境界線、校門で、ヒフミはアズサの呼びかけに答えた。
「あはは…アズサちゃん、どうしたんですか?」
アズサの方へ振り返ったヒフミの顔は、悲しげな笑みを浮かべている。
「…どこへ行くつもりなんだ、ヒフミ」
「えっと、ちょっと野暮用というか…」
「聖園ミカから、メッセージが来た。ヒフミを止めてほしいって」
「………」
「もう一度聞く。どこへ行くつもりなんだ、ヒフミ」
「ーーーアズサちゃんは」
「以前、アビドスのスパイが捕まった事件を知っていますか?」
突然、ヒフミは一見何の関係もないような話を始めた。
「…把握はしている。詳細は、何故だか知らされなかったけれど…」
「あのスパイを送ってきたのは、ハナコちゃんなんですよ」
「ハナコ、が…?」
出てくると思わなかった名前に、アズサは当惑した。
「…どういうことなんだ、ヒフミ」
「ハナコちゃんは、今『砂糖』の出どころ…アビドスで、補習授業室の室長、幹部みたいなものをやってるらしいんです。トリニティへの『砂糖』の流通も、ハナコちゃんが取り仕切ってるんだとか」
かつての友の裏切りを、ヒフミは淡々と告げる。
「あのスパイは、ミカさんを『砂糖』漬けにするために来たらしいです。最初はナギサ様やセイア様との契約でミカさんにはもう手を出さないって約束だったらしいんですけど、もう失脚して契約を履行できないからこちらの制限も無効なんだって」
「そん…な…」
淡々と告げられる友の所業に、アズサは愕然とする。
「ハナコちゃんは、変わっちゃいました。人のことを簡単に踏みにじれる人に、なっちゃいました」
「ーーーだから私は、ハナコちゃんのヘイローを「壊しに」行こうと思うんです」
「………そんなこと、どうやって」
「トリニティにいるアビドスのスパイは」
アズサの疑問の声を遮って、ヒフミは話を始める。
「ハナコちゃんから命令を受けていたそうなんです…私たち補習授業部には、『砂糖』を盛らないようにって」
「何…?」
ヒフミは乾いた笑い声をあげる
「あはは…ズルいですよね。皆『砂糖』に怯えていたのに、私、ずっと安全な所にいたんですよ」
「違う…それはヒフミのせいじゃない!それに、それは私だって同じだ!」
「まぁ、この際それはなんでもいいんですよ」
アズサの必死の否定を無視してヒフミは淡々と話を続ける。
「大事なのは、どうやらハナコちゃんは私たちに手を出したくないみたいってことです」
「それに、ブラックマーケットの方で、話を聞いたんです。アビドスから、『砂糖』が入っていないと確約できる食料の注文が定期的にあるって」
「ーーーだから私たち補習授業部なら、アビドスの中枢に無事に潜り込めるかもしれない」
「そこをこの時限爆弾でドカーンとやっちゃう訳です。どうですアズサちゃん?これなら私にもできそうでしょう?」
「駄目だヒフミ…そんなことしちゃ駄目だ!」
アズサは悲痛な叫び声を上げる。
「前に私がそうしようとしたとき、ヒフミは止めてくれたじゃないか!」
「あはは…言いましたね。そんなこと…」
ヒフミは困ったように頭をかいて
「ーーーごめんなさい、忘れてください」
「そんな…」
幾度否定されても、ヒフミを止めるためアズサは必死に食い下がる。
「だとしても、そんな友情に漬け込むような真似…!」
「ーーー本当に、友達なんですか?」
「え…?」
アズサの疑問の声にヒフミはトリニティの校舎を眺める。
「友達だったら、なんでこんなに酷いことができるんですか?」
「友達じゃなかったら、あんなに酷いことをしてもいいんですか?」
「ハナコちゃんがどう思ってるかはもう分かりません。でも、私の心はもう決まっているんです」
「ーーー私はもう、ハナコちゃんと友達じゃいられない」
「そして、ハナコちゃんが皆にしてることに、私はもう耐えらせません。だから、ごめんなさいアズサちゃん、私は行きます」
「だったら、私が代わりに…!」
ヒフミは首を振った。
「アズサちゃんは、今までアリウスの中でずっと、辛い思いばかりしていました」
「だから、アズサちゃんはこんなことには関わらず、ここで青春を送ってください…私は…もう、いいから」
「そんなこと…!」
アズサは歯噛みする。思いではもう、ヒフミは止められない。
かつて同じ選択をしたものとして、アズサは痛い程それを理解していた。
「…そんなことしても無駄だよ。今のヒフミが持ち歩ける程度の爆薬で、ハナコをどうこうなんてできない」
次は理屈をもって、ヒフミを止めようとする。しかしーーー
「あはは…普通の爆弾だったらそうかもしれませんね」
「え…?」
アズサの頬を、冷汗が流れる。
嫌な予感が止まらない。
「…アズサちゃんなら知っていますよね」
ヒフミがアズサにリュックを見せる。
果たしてアズサの予感はーーー
「これ、ヘイローを壊す爆弾なんですよ」
「ーーー」
考えうる限り、最悪の形で実現していた
「そんなもの、どこから」
擦れる声で、アズサはヒフミに問う。
「ブラックマーケットで、安く譲ってもらえましたーーー武器を売るのを止めて、『砂糖』を売るからって」
「ダメだ…ヒフミ、そんなのだめだ!」
「そうですね…でも、私は行きます。全部終わらせるのに、私ができることは、これしかないから」
言うべきことは言い終わったと、ヒフミはアズサに背を向ける。
「さようなら、アズサちゃん。友達でいてくれて、モモフレンズを好きになってくれて、一緒に海に行ってくれて、ありがとうございます。コハルちゃんと2人で、また新しい友達を見つけてください」
「待って…ッ、!?くっ…」
止めるために走りだそうとして、転んでしまう。
直起き上がろうとするも、体が重くて思うようにいかない。
連日の戦いの日々は、少し全力疾走をしただけでここまでの消耗をアズサに与えていた。
「ヒフミ…!?」
重い体を何とか起こすも、彼女の姿は見当たらない。
「ヒフミ…」
泣き叫びたくとも、その力も残っていない。
動く気力もなく、アズサは一日、ただただその場で項垂れていた。