電子の怒り
ゲヘナ学園風紀委員室、その一つにパーツを漁る一人の量産型アリス。
1072号、後方支援担当。68号がいなくなった後補充要員として導入された個体。
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「……必要なパーツは……いざとなれば自分のを使うしか…」
(72号隊長が重体になった。幸い電子頭脳に損傷はなく修理も可能だった)
(だが、帰ってきた隊長は心に深い傷を負っていた、いつものように健気に振る舞っていたがそれでも辛そうだった)
(ゲヘナでは美食研や温泉部などのテロリストにもアリスがいるせいで同族殺しなど日常茶飯事だった)
(隊長はそれを心を殺して任務を遂行してきた。それどころか私達他のアリスを後方や事務に送り、一人で背負って戦っていた)
(私達が前線に立てれば、ヘイローさえ持てれば、そう願わない日はない)
(それが出来なくてもせめて最大限の支援はしなければならない)
(そう思うと、あの事件のことが非常に怒りを覚える)
(隊長用の武器を見繕っていた時、対アリス鎮圧用の武器が開発されたという情報が入ったのだ)
(私はそれを願った、他のアリス達からお小遣いを募って積極的に開発資金を3070号越しに送った)
(これ以上隊長に同族殺しをさせないために。だがその願いは儚く散った)
(便利屋68がそのアリスモーターズにテロを起こした。その影響でその製品の生産は中止された)
(問題はそれだけにとどまらなかった。商売のために3070号が不良共に武器をばらまき始めたのだ)
(…厄介だったのが売る相手がアリス所持の不良共だったことだ)
(不良共は金を稼ぐために問題を起こした。それ故に、私達は否応なしにアリスと戦うことになった)
(……いくら治安の悪いゲヘナとはいえ、なんで私達はこのような思いをしなければならないのだ)
(怒りが電子頭脳を支配する。怒り、怒り、怒り、怒り、冷却水すら沸騰するこの怒り)
(私達の願いをぶち壊した便利屋68、許さない)
(72号に押し付けて逃げた68号、許さない)
(闘争を引き起こし私達に迷惑をかける3070号、許さない)
(私達に歯向かうテロリストアリス、野良アリス、海賊版アリス、許さない)
(甘やかされて楽しそうに人に迷惑をかける8号、許さない)
(72号を傷つけたおぞましきヘイローのアリス、■してやる)
(もう、怒りは同じ量産型アリスにも向けられる。今の私なら同族殺しも喜んでやれる)
(■してやろう、怒りのままに、私が、■す。■す。■す。■す。■す。)
(ああ、全てが憎い。自由と混沌の名のもとに、全てを、全てを)
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「1072号?」
その言葉で正気に戻る。声をかけたのは……チナツさんだ。
「ど、どうしましたか?」
「いえ、やけに思い詰めた表情でしたので。72号のことは私達やヒナ委員長も手を尽くしています。
だからあまり気負わないでください。あなたも私達の大事な仲間なのですから」
「は、はい……」
「そうだ、給食部のアリス……何号だっけ。その子から軽食を頂いています、
冷蔵庫の中に入っているのでよかったら食べてください」
そう言ってチナツさんは部屋から出ていく。気がつけばもう夜だった。
ほんの些細な会話であったが、私の心は少しときほぐれた。
そうだ、私達を支えてくれる人々がいる限り、まだ頑張れる。
風紀委員のみんな、給食部のアリス、応援してくれるゲヘナの一般生徒。
72号隊長もそれを知っているから私達を死なせたくないのだろう。
「………でもそれのどれかがなくなれば、アリスはアリスでいられるでしょうか」
憎しみを前にして何かが見えたような気がした。
電子頭脳のバグか、それとも得体のしれない何かか。
大罪の一つが頭の上にのしかかっている。だがヘイローはまだ、ない。