電ノコ男のうわさ

電ノコ男のうわさ


アサはデビルハンター部への入部を果たした。彼女は部室に入り、伊勢海ハルカの姿を認めると、電ノコ男の研究ノートなどがないか尋ねた。

「個人的につけている覚え書きが、そこのキャビネットにある。必要ならコピーを取ってもらって構わない。借りていく場合は僕に一声かけてくれ」

まもなく集まった部員達と共に、アサは校外の見回りに出発する。入部試験で悪魔と戦う力を示すよう求めるだけあり、トレーニングなどに活動時間をあまり割いたりしないようだ。

見回りから戻った後、アサはノートの中身のコピーを入手。帰宅した彼女は、その内容をヨルと共に読むことにした。

ーー電ノコ男。

極めて新しい都市伝説であり、その起源はテレビで報道された悪魔を殺す悪魔と考えて間違いない。

人間を食うとされるが、これは電ノコ男(テレビ報道されたほう。以下オリジナル)が、悪魔との戦闘中、巻き込まれた人間を無視する傾向にある事から来ていると思われる。

語られる特徴はオリジナルと共通。4本の腕を持ち、頭部と二股の腕からチェーンソーを生やしている。さらに首にマフラーを巻いている。

ノートには目撃談のあった場所も、簡単な地図と共に記されている。

「明日以降、回ってみるか」

「本気…?」

「嫌なのか」

「いや…やるけどさぁ…。呼び出せる呪文とか…書かれてないか。花子さんみたいな」

決められた手順を踏んで呼び出せれば、わざわざ調査に出る必要はない。ヨルは「チェンソーマンを呼ぶ呪文」の存在を把握していたが、アサには教えなかった。それを口にするのは、彼女のプライドが許さない。

最新の目撃談があった場所は、学校から徒歩20分の範囲にあった。普段寄り付かない場所なのだが、大きな建物なので初めて行くアサでもそんなに時間はかからなかった。

ーー蹊合病院跡地。

住宅街に建つ五階建ての診療棟をメインとする大型の廃病院で、ノートの記述によると、医療事故による訴訟、事務長の逮捕が以前あったらしいが、いずれもアサに心当たりはなかった。

「どうすんのこっから」

お金がかからない近くで良かったというべきか、学校の徒歩圏内にこんなスポットがあることを嘆くべきか。

「近くを歩いてる連中に電ノコ男について聞いて回る」

「は!?それ、私がやんの!?」

都市伝説の目撃情報の聞き込みなど、考えるだけでゾッとする。逃げようとしたアサだったが、ヨルは体の主導権を握っており、通行人を探すが歩いているものはいない。

「待ってよ!そんな事されたら、この辺来れなくなっちゃう!」

「…この辺りに用事でもあるのか?」

「無いけど!この辺から通ってる子だっているかもしれないでしょ!」

ただでさえクラスで孤立しているのに、変人の評価が確立されたら、最底辺にまで落ちてしまう。卒業はまだ先だし、転校の予定もないので奇妙な行動は控えてほしいのだ。

「そうだな……風評が回るのは…まずいか」

たくさんの人間を武器にしたいヨルとしても、アサの意見は頭ごなしに否定できない。彼女に寄りつく人間が減る行動は控えるべきと思う。しかし、散歩だけして帰るのも頂けない。

「…なら、中を一度見よう。チェンソーマンの隠れ家かも知れないからな」

ヨルは廃病院を指差す。

「は?立ち入り禁止でしょ…」

「なら誰か捕まえて聞き込みに行く。お前の言うことにも一理あるしな、決めさせてやろう」

中に入るならカバンを用意しろ、とヨルは言った。武器になりそうなものがあれば持ち出したいからだ。

「それ犯罪…」

「猫を殺すより、犯罪者を殺す方がマシなんだろ?最悪を終わらせるために、悪いことをするだけだ。銃の魔人を手に入れるまでの繋ぎになる程度のものでいい」


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