雷撃ちて刃となる 上
吾妻 光あたしは恵まれている。
家が恵まれている。あたしが生を授かったのは「吾妻家」と呼ばれる、幾多の和風プロヒーローを排出し、かの護国の要たる「死薙龍家」の血を継ぐ名家であるが故に。
単一能力が恵まれている。放電…雷を放出するだけの力ではあるが、十分強力だし見栄えもいい。ここから成長させていけば吾妻の歴史に残る鮮烈なヒーローとなれる、と周囲に確信させる程には。
生きていく上で、ここまで恵まれた前提条件はそうそう無いだろう。古い慣習など煩わしいものもあったが、分家故の気楽さなのか、大人たちも特別束縛してくれるような事は無かった…期待の視線は山ほど送られたが。
そんな大人たちの目が、期待だけでなく「不安」や「心配」も入り交じるようになったのはいつ頃だったか。何時まで経っても放電の制御が出来ずじまいで数年が経過した頃だったろうか。
単一能力に精通した家庭教師の尽力により、出力の調整自体は自分でも驚くくらい制御できるようにはなったが…問題は、方角。
十撃っても望んだ方向へと飛ばない。
百回撃ってようやくまぐれで当たった。
千回撃つ頃には修練場が木っ端微塵となった。
大人たちも神童がここまでじゃじゃ馬な事に手を焼いただろう。それでも匙を投げようとしてくれなかった。やはりあたしは恵まれている。
だけど。
そんな大人達の期待にあたしが答えられ無い事は、あたし自身がよく分かっていた。…いや、大人たちの中にも気づいてた人も居たのやもしれない。けれど指摘すれば確実に悪い方に向く、ハッキリと自覚してしまうから敢えて言わなかったのかもしれない。
あたしはこの家が嫌いだ。
ヒーロー?何それ。反吐がでる…人は殺すな悪は許せと…しがらみばっかりで何も面白そうじゃない。惹かれるものを感じない。そもそもなんであたしが「望んだ」力を大人たちの「望まれた」力に矯正されなければいけないの?
放電(すべてこわすちから)の何がいけないの?知らない人の家が壊れるから?どうでもいいんだけど。知らない人が死ぬから?もっとどうでもいい…金があるなら不都合な事の一つや二つ隠蔽できんだろ。そこは腐っててくれよ。金持ちだろ。
どうして「あたし」が殺すのはダメで、「あの子」が殺すのは許されるの?そこが1番意味が分からない。
「ヒーロー」と「護国」。一見似ているようで差異のあるこの二つの理念の為に家が分かたれてしまったのなら、あたしは「あっち側」の方が良かった。少なくとも御国の名の下に殺しが許されるんだろ?だったらこっちより居心地が良さそうだ…やっぱり途中で投げ出して好き放題暴れてるかも。
あゝ、あの頃のあたしはきっと
「光」なんかより「剣」になりたかったんだと思う。