雨の河
「ここが俺の家だな」
「ここがあなたの……あら雨?」
「って、急に強く!?ひとまず俺の家へ入ろう!」
買い物帰りに突如降り始めた大雨、雨宿りするためにその家に駆け込んだアドマイヤベガとトレーナー。しかし雨は止む方はなくますます強くなる一方だった。
「帰宅困難者も出てるのか…これは不味いな…」
「心配ないわ、さっき外泊許可が出たから。それよりお腹が空いたでしょ?簡単なものなら作るから」
そう言って買い物袋の食材と冷蔵庫の中身を確認しキッチンへ向かうベガ。
「俺も手伝うよ、多少は料理できるし」
「あなたは良いのに…はぁ…まあ良いわ」
そう言ってキッチンで2人並んで料理を作る2人。
雨の音と調理の音が静寂な部屋に響き渡る。
(こうしてみると家族みたいだな…家族か…いつかは君の様な……いやいや何を考えてるんだ!)
(まるで夫婦の共同作業ね…あなたと2人で…そして子供達と……ッ!?)
ふと互いの目が合い、恥ずかしそうに目を逸らす。
「ごめん!」
「い、いえ何でもないわ!」
そこから2人は目を合わせられなかった。
「ご馳走様でした」
「お粗末さまでした」
食事を食べ終わり、食器を片付け寛ぐ2人。雨は未だ止む事なくその勢いを強めていた。
「しかし美味しかったな〜アヤベならきっと良い奥さんになれるよ」
「それはあなたといつか………は?」
「きっと良い出会いも待ってるだろうしね」
「………決めつけないで」
「へ?」
「勝手に決めつけないでって言ってるのよ!私があなた以外と?ふざけないで!私にはあなたしかいないのよ!聞かせてよ…あなたはどう思っているか…聞かせてよ!」
「俺だってアヤベと一緒にいたいさ…でも君には色々な出会いだって必要になってくる…だから…」
「だから何!?私があの時拒んでも勝手に心の中に入り込んできたのに!今度は勝手に私に対して身を引くというの!?」
外の雨に負けない様な大粒の涙を流しながらベガは迫る。
「もう嫌なの!大切な人が居なくなるのは!離れていくのは!会えなくなるのは!織姫と彦星なんて御伽話で十分よ!私には…私達には天の川なんて必要ない!ずっとそばで一緒に光り輝いていたいの!」
「……本当に俺で良いんだな?」
「当たり前じゃない!あなた以外となんてやだ……ッ!?」
その瞬間、トレーナーは彼女を強く抱きしめていた。
「ごめんな…君の事を考えてなくて…俺はもう迷わない、絶対にアヤベのそばにいるから!」
「そう…よ!絶対に!破るなんて許さないんだから……っ!」
「好きだ!アヤベ!」
「私も!すき!すきっ!だいすきっ!」
雨は止み、満面の星空が2人を祝福する様に照らしていたのであった…
満天の星を眺める、ふとあの時を思い出す。きっとあの子も見ていたのだろうかと思いに耽る。
「もしかしたらあの子があの雨を降らしたのかしら…まさかね」
「でもありがとう…またお姉ちゃん、あなたに助けられてしまったわね…」
その呟きに応える様に名もなき星が一瞬光り輝いた。
「………ふふっ、大丈夫よ。私はもう独りじゃないから…だって…」
その時ふと後ろから彼女を呼ぶ声が聞こえる。
振り向けば彼女に向かって駆けてくる小さい影が2つ、そして後から追いかける影が1つ。その影に向かって彼女は歩き出す。
(あなたが紡いでくれた…あなたが巡り合わせてくれたみんながいるから!)