閲覧注意かもと思ったのでワンクッション
血の表現が大きいよ「兄さん…?入るよ」
控えめなノックの音の後、扉が開く音がして誰かが入ってくる。声の主は分かるが今は誰とも話したくないし会いたくない。それでも俺の願いとは裏腹に彼は近づいてくるので、仕方なく上体を起こすことにした。
「すまない、時計を落としてしまった。」
「わ、ほんとだ。」
入口に近いところまで破片が飛んでいたのか。
「怪我はない?」
「……大丈夫だ」
沈黙が流れる。何を話せばいいのか分からなかったからだ。こういう時に限っていつも饒舌なはずの弟がだんまりを決め込んでいるのだから困る。昔はなんでも話せたのに、いつからこうなってしまったのだろうか。
「なんでそんなすぐバレる嘘ついたの」
床に伝ってしまった血を見たのか、ラウダは心配と笑いが混ざったような顔をしていた。
「お前が心配すると思ったから」
「そんなことがなくても心配しているよ。…アナログ時計じゃない方が良かったね」
ラウダは俺の隣に座り込む。シーツにつかないようにベッドから下ろした腕からは未だに血が滴っていて床を汚すものだから後で拭かなくてはと思う。パキり、とガラスが踏みつけられた音がする。
「痛いよね?手当てするね。」
「……自分でやる」
そう返事したのにラウダは曖昧な顔をして笑った。刹那、べろり、傷口を舐められる。生暖かい感触を感じて思わず体が跳ねた。汚いだろうと抗議してもやめる素振りすら見せない。それどころかどんどんエスカレートしていくのだ。唇で食んでみたり舌で抉ってみたり歯を立ててみたり、様々な方法で傷を弄ばれる。混乱からか、痛みは感じなかった。汚い行為であるはずなのに、王子様が跪いてお姫様の指先にキスをするような絵面に似ていて、純愛的に見えて嫌だった。
「おま……お前……!」
やっと解放された頃には息が上がっていた。顔中に熱が集まってまともに思考が働かなくなっている。
「覚えていてね」
そう言った弟の顔は今まで見たこともない程妖艶な笑みを浮かべていた。
「ごめんなさい、ちゃんと手当てするね」
消毒液やら絆創膏やらを取り出して手際よく手当てしていく弟の姿がなんだか不思議だった。得体の知れない化け物が弟に戻っていくのを見ている気分。