閲覧注意

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夜の帳が下りてしばらく。


昼のあいだに暖められていたはずの空気は月明かりに冷やされて、すでに肌を刺すように痛い。


カフェの夜のトレーニングを終えた僕は帰路を急ぐ。筆記用具や貴重品を入れたカバンを小脇に抱えて、小走りになりながらたどり着いた我が家はすでに明明と照明がついており、僕の帰りを待ってくれていることが伺えた。


ドアの前で少し息を整えてから、


「ただいま」


ようやく帰ってきた我が家の廊下に、ふわりと漂う出汁の香り。今夜はお鍋だろうか……寒い夜にはぴったりで夜風に冷え切った僕の身体も喜んでいる気がする。


「おかえりトレーナーさん!」


ぱたぱたと足音を立てながら、廊下の奥からひとりの少女が現れた。艶やかで豊かな黒い髪を揺らしたその子は、マンハッタンカフェと瓜二つの見た目をしている。


「ただいま、サンデー」


名をサンデー、あるいはお友だち。いつの間にか僕の家に来るようになって、いつの間にか共に暮らすようになった半同居人。


しかしその姿は僕とカフェにしか見えず、話せず、触れられない。側から見れば存在しない者……────だけれど僕たちにとっては明確に存在する者。


声が聞こえるし、触れれば暖かさが伝わるし、近づけば香りが分かる。ここまで確かなこの子を、存在しない者だなどと僕にはひとかけらも思うことはできない。


「どうした? 部屋暑かったか?」


僕がぼんやりと彼女を見つめていたからだろうか、少し不安そうにサンデーがこちらを覗き込むようにそう言った。僕は首を横に振って答える。


「ううん、ちょうどいいよ」


「じゃあどうしたんだ。寒暖差でやられたのかと思ったぞ」


「だいじょうぶだよ。今日もサンデーが迎えてくれて嬉しく思ってただけで」


「なっ!? ば、ばか言ってないで早く入れよな!」


僕が軽口を叩くと、サンデーが少しだけ顔を赤くして片手に持っていた菜箸をこちらへ突きつけた。


恥ずかしがっているのか、それとも照れているのか。多分どちらもだと思う────カフェと同じ形をした耳と尻尾が嬉しそうに動いていたから。


・・・


「ごちそうさまでした」


「フフ、おそまつさまだ」


サンデーの用意してくれた料理をたいらげて手を合わせると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。


今夜の夕飯は予想通りのひとり用のお鍋。こたつの真ん中にガスコンロを用意したから、ずっと温かいままでいただくことができた。


その味も問題なし。料理をよく焦がしていた最初の頃から比べると見違えるほどの成長で、ひとりで食べるのが申し訳なくなってしまったくらいだ。


そんな時、カフェから教えてもらった供養を料理に施すことで彼女も食べられるようになるため、ふたりでそうやって鍋をつついて楽しんだのだった。


「隣、行っていいか?」


テーブル上の片付けをふたりで済ませて戻ると、サンデーがそんなことを言いながら僕の隣へ潜り込んできた。まだ何も言っていないんだけどな……。


「ダメって言われても行くからな」


「じゃあ聞かずに来ればいいのに」


「細かいことは気にするな」


フフンと気分良さそうに鼻を鳴らしながら僕へともたれかかってくるサンデー。カフェが見たら少し怒るだろうなあ、と心に思いながらも僕はそれを受け入れた。


左腕に押し付けられた、柔らかな感触に少しだけどぎまぎしてしまう。カフェと瓜二つと言ったけれど、ここだけは違う……────彼女よりも大きく柔らかな、その存在が。


あまり口にすると起こられてしまうから、何も言わないしその感触から意識を逸らすように僕は思考にロックをかけた。


「やっぱりこの体勢が落ち着くな。トレーナーさんの温もりが感じるし、落ち着くし」


恥ずかしくなるようなことを平然と言ってのけるサンデー。とはいえ僕も、預けられた体重は心地よく感じているので何も言えない。


ただ何も言えないのは少しだけ悔しいので、少しだけ反撃するように、僕も彼女へと体重をかけてみる。


「……重いぞ」


「そう? じゃあやめとくよ」


「誰がやめろって言った。そのままでいい」


「はいはい」


彼女は基本的に面倒見がよく、たまにわがまま。特に僕とカフェに甘えてきている時はわがままな部分が強く出てくる。


まあ、わがままと言ってもこのように可愛らしいもので……────


「鍋、うまかったか?」


心地良さそうに目を閉じながらサンデーが言った。


「うん、おいしかったよ」


「へへへ、そうだろ? クックパッドでうまそうな鍋を見つけてな、きっとトレーナーさん好みだと思ったんだ」


「なるほどね。じゃあまた寒い日には食べられるんだ」


「今度はカフェも来る日にしような。トレーナーさんの好みはあいつも知っておきたいだろうし」


「聞いてくれたらいいのに」


「ばかだなトレーナーさん。こういうのは自分で見つけるから面白いんだ。アンタの味の好みも、女の好みもな」


「女のって……」


「まあ女の好みは分かりきってるけどな。ワタシたちだ」


「……トレーナーとして、答えないでおきます」


「今更はぐらかされても」


「僕はまだカフェのトレーナーなんだ。たとえそうだとしても、まだ踏み込んだ仲には……」


「それこそ今更だし、ワタシはカフェじゃないぞ?」


「でも」


「意気地のない男は嫌われるぞ?」


「こ、これでも我慢してるんだからな!?」


「それが意気地なしって言うんだ。覚えてるかは知らないが、もうワタシとカフェはトレーナーさんとキスだってしてるんだからな」


「それっ……は、お……おぼえ……っ……てる、けど……」


なんだか急に恥ずかしくなってきた。身体が熱くてたまらない。


「ふぅん」


サンデーの口角が上がり、にやにやとほくそ笑んで僕を見つめてくる。


「するか? キス」


「し、しないよ」


「なんだよーつまんないやつだな」


つーんと不機嫌そうに鼻を鳴らして、サンデーはころんと寝転がった。それと同時に給湯器がアラームを鳴らし、お風呂が沸いたことを知らせてくれた。


「じゃあお風呂入ってくるよ」


「ん。ちゃんと温まってこいよ、今日は寒いからな」


「はーい」


返事をしつつ着替えを取り、お風呂場へと向かった。


・・・


「さむさむ……」


手早く衣類を脱ぎ洗濯機に入れて、空気の冷えた浴室に入ると身体が芯から震えるような気がした。


急いで浴槽の蓋を開けると、ぶわっと蓄えられた湯気と熱気が一気に浴室へ広がった。みるみるうちに浴室を真っ白に染めながら、少しずつあたたかくなっていく。


僕は桶で掛け湯をしてから、そっと湯船に身体を沈めた。


「は、あ……ぁぁ……」


情けない声が出てしまう。


身体の末端から温められていくような感覚。少し熱く感じるお湯が指先に少し痛い。


痛みがじわじわと温もりに変わっていき、身体が芯まで温まるころにはこの熱が心地よくなってくる。


「ふー……」


お湯の熱が身体を刺す痛みに慣れてようやく心地よくなり始めた頃に、浴室の外から声がかけられた。


『湯加減は大丈夫か?』


ドア越しに影が見える。サンデーだろう。


「ああ、気持ちいいよ」


『そうか、よかった』


僕の返事に嬉しそうな言葉が返ってくる。その声に混ざるごそごそという音に、僕は気づかない。


「あぁ……」


本当に気持ちいい。寒い日に入る熱いお風呂は最高だと、毎度思わされてしまう。サンデーが僕の部屋に現れるようになるまではシャワーで済ますことが多かったが、お風呂に入るだけでここまで心も身体も文字通り洗われるような気持ちになるならもっと早くに気づけばよかった。


毎日ご飯とお風呂を用意してくれるサンデーには感謝してもし足りないくらいだ。


『なあ』


「んー……?」


どうやらまだ外にいたらしい。かけられた声に生返事を返すと、


かちゃりと。


浴室のドアの固定が外れる音がして。


「ワタシも入る」


「……えっ」


身体の前を小さなタオルで隠した────……少女が現れた。


「ちょっと!?」


艶やかな黒い髪に、黒い尻尾。


そして小さなタオルでは隠しきれない、大きな胸。


タオルからはみ出した乳房から急いで視線を下に逸らすと、今度は大胆に晒された真っ白な脚が僕の目に飛び込んでくる。


そちらも、ほとんど隠せていない。


しっかりとした太ももに、すらりと伸びた脚。そして……────


「って、ちがっ……なんで入ってきてるんだ!?」


そうだ、そんなところを見ている場合じゃない!


僕はぎゅっと目を閉じて身体ごと彼女から意識を外し、声だけで応対を試みる。


「ワタシもお風呂入りたいんだ。ふたりで入った方があったかいだろ?」


「そ、そ……そんな、わけ」


まともに思考が働かない。すぐそばに裸のサンデーがいるというだけで、僕は意識をそちらへ引っ張られてしまう。


ひたひたと近づく足音。


湯船のそばでそれが止まると、桶で身体に掛け湯をする。


「は、ぁ……んん……」


浴室に響く色っぽい声。温かいお湯に反応しているだけのはずなのに、目を閉じているだけで全然違うものに聞こえてしまう。


だめだめだ、考えるな。石になるんだ。石になれば耐えられる、頑張れ僕。


「……おい」


かけられる声。なんだろうか、僕はいま石になっているところなんだけど。


「入れないだろ、そっち開けろ」


「入るの!?」


「入るだろそりゃ」


この浴槽はお世辞にも広いとは言えない。たったひとりでも満足に足を伸ばすことはできない程度で、僕だって足を曲げつつ入っているのだ。


ここにもうひとりが入る余裕なんて────


「あぐらかいて座ってくれよ。その上に乗るから」


「えっ」


サンデーが湯船に入ってきた。ざぶざぶとお湯が流れ出て勿体無いな。せっかく貯めた温かいお湯なのに、ふたりも入ったら溢れてしまうじゃないか。


彼女のお尻が僕の脚に乗せられる。柔らかな感触が肌に擦れて反応してしまいそうにああ違う待って待って。


……湯量は最初の半分くらいだろうか……これじゃ身体や頭を洗ったあとにもう1度入ることができないだろう。


すごく勿体無い……水だってお湯を沸かすのだって無料ってわけじゃないのに────


「むぎゅー」


「なんで抱きついてくるの!?」


「うるさいなぁ……いいだろ別に」


「良くないって!」


必死に逸らそうとしていた意識が、彼女に抱擁されたことで無理やり戻されてしまった。


「狭いんだから仕方ないだろ? あと一緒に入るたびにその反応するの、そろそろ飽きてきた」


飽きる飽きないの問題ではないと思う。カフェと3人で入ったときも大変なことになったような記憶がある。


あれは初詣が終わって帰ってきた後の話だっただろうか……あの時はサンデーが僕の背中側に回り、カフェが前から僕を挟むように入って……2人の身体の感触がとても柔らかくて、気持ちよくて、僕の身体は否応なく反応してしまって隠すのが大変だったんだ。


……いや、だからそんなこと考えたらだめなんだって!


「どうせ最後には受け入れるんだから最初から腹括れって。その方が気持ちいいだろ?」


むにぃ、と胸板に押し付けられる彼女の胸。柔らかく気持ち良い感触が当てられて、頭の中で警報が鳴り響いている。


このままではいけない……意識を切り離さないと。


「……あったかいな、トレーナーさん」


「そう、だね」


わがままなサンデーがまた顔を覗かせた。僕の反応を楽しむ、意地悪な顔だ。


「こうやってくっつけばお湯が減っても寒くないだろ」


そう言いながらサンデーはお尻を僕に擦り付けるように動かし、身体の密着度を上げていく。もう僕の身体は完全に彼女に抱きしめられ、身動きが取れなくなってしまっていた。


唯一自由に動く腕も、もはや彼女の身体を抱き返す以外には許されそうもない。


「……硬くなってる」


「い、言わないで……」


生理反応だ、と言い訳したところでどうにもならないことは分かっている。サンデーに裸で抱きつかれて、こうならない男なんていないだろう。


「ワタシがこうするのはオマエだけだぞ」


「……」


それは嬉しい、けれど。


だとしても、この状況はどう考えたって良いものではない。これを僕が許せるようになるのは、もう少ししてからで────


「……気にしなくていいんじゃないのか? ワタシはカフェじゃないし、ましてや生きた人間でもないんだぞ」


「……」


「なら、いいんじゃないか。ワタシはオマエにならいいと思うし、霊体ならノーカンみたいなもんだ。カフェは怒るかもしれないが……それはほら、犬に噛まれたようなもんだろ」


確かにこの子は生きた人間ではない。言うなれば幽霊、霊体だ。


本当なら浴室に入る時にドアを開ける必要はないし、ご飯を食べなくていいし、ましてやお風呂にだって入る意味がない。


けれどこうして彼女は僕と共に過ごす中で、可能な限り普通を装ってくれている。ときどき霊体の力で驚かしてくることはあるが……ほとんどは普通の人間と同じように行動してくれている。


そこまでしてくれる彼女を、どうして違う扱いをできるというのだろう。


「……んっ」


宙ぶらりんになっていた腕を彼女の背に回し、少し力を入れて抱きしめた。これでもかというほどに密着し、サンデーの柔らかさや匂いが強く感じられる。


彼女の全てが、僕の腕の中にある。


「やっと、抱きしめてくれた」


嬉しそうな声をするサンデーに、僕は答えない。


肌の感触がある。


濡れた髪の感触がある。


柔らかい身体の凹凸が分かる。


こんなにも、僕らと何も変わらない存在として目の前にあるのに……どうして違う扱いができようか。


サンデーのぬくもりも、柔らかさも、香りも、可愛らしさも、その全てがいま僕の腕の中にあるというのに。


どうしてそれを、違うと言えるのだろう。


そんなこと、言えるわけがない。


言うわけがない。


この子はいま、実在している。僕の腕の中で実在しているのだ。


「……ちょっと、苦しい……どうしたんだ?」


いつかのバレンタインに、カフェとした問答を思い出す。


何もない場所にチョコの包みがあると口にしたカフェに、僕は見えないと答えた。


見えない以上、その包みは存在していないのと同じだから。


するとカフェは、見えない包みは存在しないと言うのに、見えないお友だちを存在すると言うのはなぜか……────と。


僕がお友だちを信じているのは、カフェが信じていたからだ。


そして僕が存在すると信じたお友だちが、いま、僕の腕の中で苦しそうに喘いでいる。


見えなくても信じていた。存在すると疑っていなかった。


それがいま、こうして目の前に明確に見えるものとして存在している。


触れられるものとして存在している。


僕の大切なヒトとして、存在している。


僕の……大好きなヒトの、片割れとして存在している。


「……どうしたんだよトレーナーさん……」


「好きだよ、サンデー」


「……………………ふえっ!?」


唐突に口にした言葉に驚いたサンデーが、可愛らしい声をあげて僕から離れた。


「な、なっ……なん……っ!?」


「好きだ」


「っ……ぅう……い、いきなりなんだよっ!」


ちゃぷちゃぷと湯面を叩きながら抗議の声をあげるサンデー。普段しないような可愛らしい行動に、僕はまた愛おしさを感じる。


「サンデー」


「わっ」


そんな彼女の肩に手を置いて、今度は僕から抱き寄せた。身体を密着させ、お互いの距離を限りなくなくす。


「……なんだよ」


「僕は……キミとカフェが好きだよ」


「………………おぅ」


「だから大切にしたいんだ。確かにキミと……一緒にお風呂に入ったり、こうして……裸で身体を寄せ合ったりしてるけど」


「言葉にするとめちゃくちゃなことしてるなワタシたち……」


「でも……大切だから、簡単に手を出したりはしたくないんだ」


「……」


確かにずっと生殺しだ。身体は嫌でも反応してしまうし、このまま果てることができたらきっと今まで感じたどんな快感よりも気持ちいいことだろう。


しかしそれでも、僕は一時の衝動で彼女やカフェに手を出したくはないし、たとえその時が来るとしても然るべき手順を踏んでからだ。


トレーナーと教え子という関係性から解き放たれたあと、男と女として向き合うことができるようになってからだ。


だから今は、今は────


「……分かってる、分かってるから落ち着け。ワタシも意地悪が過ぎたよ」


「……」


僕の訴えを聞き届けたサンデーは、やれやれと言いたそうな声で答えた。


頭に手が乗せられ、優しく撫でてくる。


「オマエがワタシたちを大切にしてくれてるのは知ってるし、理解してる。ワタシのことだって……ぁ、愛してくれてる……のも、伝わってる」


サンデーがそっと身体を離し、顔を突き合わせた。カフェと同じ琥珀色の瞳が僕の目を見つめてくる。


白い肌がお湯の熱で上気して、とても赤く染まっている。果たしてそれは本当に熱のせいか、それとも。


「……そんなだから、ワタシもいつの間にかトレーナーさんのこと好きになってたんだろうな」


フフ、と照れくさそうにサンデーは笑ってから、小さな口唇を僕に押し当ててきた。


「ん、っ……ちゅ」


時間にして、数秒もないほどのキス。


キスされたことに気づくよりも先に、その柔らかさに胸が高鳴るのを感じた。


口唇が離れてからようやく僕はキスされたのだと気づき、頬が熱くなっていくのを悟る。


「今日はこいつで勘弁しといてやる」


裸で、お風呂の中で抱き合う。特に話すこともなく、何かを訴えることもなく、別に異議を唱えることもなく。


ただ温かいお湯に浸かりながら、お互いの身体を抱いているだけ。


極限まで密着し、離れることなく剥がれることなく。


いつまでもいつまでも抱き合って、抱き合って。


どちらからともなく身体を離したのは、お湯が冷たくなり始めた頃だった。


・・・


「あーあ、カフェにバレたらめちゃくちゃ怒られるんだろうな」


お風呂を済ませて着替えも終わり、サンデーの髪をドライヤーで乾かしてあげているとそんなことを言い出した。


背筋がぞくりと冷えるような気配がするからやめてくれ。


「怒られるのはワタシだけじゃないからな?」


「わかってるよ……」


きっと僕もすごく怒られるに違いない。そしてサンデーと同じくらい、ともすればそれよりも長くキスをねだられるかもしれない。


カフェは……言葉で気持ちを伝えるのはよくしてくれるが、行動に移すのはあまり得意ではない。


無自覚に手を繋いだり身体を寄せ合ったりなどは出来るのに……明確にキスをしたり抱き合ったりなどの行為は恥ずかしいらしい。


逆にサンデーは挨拶と言わんばかりにハグやキスをしようとすることもあるから、なんとも対照的なふたりだなと感じることが多々あるのだが。


とにかくどう埋め合わせをするか、今から考えなくちゃいけないな……。


「抱きしめてキスしてやればイチコロだろ」


「そう簡単じゃないよ、女の子って」


「……トレーナーさんに女の子を語られるとは思わなかったよ」


サンデーに何かをすれば、カフェにも同じことをしてあげる。


カフェに何かをすれば、サンデーにも同じことをしてあげる。


それは彼女たちが望むことであるし、僕がそうしてあげたいと思うことでもある。


ふたりを愛してしまった僕にできるのは、ふたりを平等に愛することだけだから。どちらかを贔屓したり、優先順位をつけたりすることはしたくない。


だから今日サンデーにしてあげたことは、後日カフェにも必ずしてあげる。ふたりでお風呂に入って、キスをして、髪の手入れをしてあげて……────


我ながら面倒な性格だと思う。


でも、そんな僕を好きだと言ってくれるこの子たちには……どんなことでもしてあげたいから。


「へへ、ワタシたちは幸せもんだな」


「僕も幸せだよ。キミたちに愛してもらえて」


「当たり前だろ? もし他の女のところに行こうとしたら命はないと思えよ」


「行くわけないでしょ……」


「分からないぞ? 男なんて浮気は文化だって言いやがるんだからな」


「いつの時代の話だよ……」


「トレーナーさんの目を釘付けにするために服装に気を遣ってるんだぞ。ほら、縦セーター好きなんだろ男って」


「そんな理由で着てたのそれ?」


「可愛いだろ、白い縦セーター。お気に入りだ」


「ああ、可愛いよ。すごく似合ってる」


「へへへ~」


くだらない話をしながら、夜は更けていく。時計はもう日付を超えてからそれなりに経過している。


髪を乾かし終わった、寝なくちゃ。


「明日の弁当、カフェのも作るから持って行ってやってくれ。あと朝飯は鍋の残りを雑炊にするから」


「うん、楽しみにしてる」


さっきまでのことは何処へやら。僕たちは翌日のことを楽しみに話しながら、布団に入って眠りに落ちる。


ひとり用のベッドにふたりで並んで入り、寒くないようにまたくっつきながら、風邪をひかないように。


「これ風呂と変わんなくないか?」


「……それは言わないで」


「フフ、柔らかいだろワタシ」


「……それも言わないで」


「脱ぐ?」


「脱がない」


「なんだよつまんないなー」


「いいから寝ようね」


「へいへい、おやすみ」


「おやすみ」

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