鏡は何を映すのか
海兵になって間もない頃、ある日鏡を見たら、そこには在りし日の父親の顔があった。
「……!!」
思わず吐き戻してしまった。その場に倒れ込む。気付いた先輩や同期が「大丈夫か」「どうした」と駆け寄ってくる。葉巻好きの同期が「お前、酷ェ顔色だぞ」と頬に触れて言った。酷い顔なら、見ないで欲しかった。父に似た酷い顔を。誰にも見られたくなかった。
鏡を見る頻度が減った。
少しでも父親から離れようと思って、髪を伸ばしてみた。前髪で顔を隠しがちにすれば、少しだけ気持ちが楽になった。けれど、顔立ちだけは変えられなかった。
鏡を見る頻度が減った。
飲み会の終わり、集合写真を撮ることになった。ひとりだけ、笑顔が歪だった。父親と同じ顔だった。
鏡を見なくなった。
少将になった数年後、苦い顔をしたセンゴクさんに、潜入任務を命じられた。海賊になれと言われた。
嗚呼、これは、そういう事だよな。蛙の子は蛙なんだよな。
長く伸ばしていたくせ毛の前髪を、思い切って上げてみた。後ろ髪をペタリと撫で付け、目元を隠すマスクを付けた。それから、特徴的な形の帽子を被る。全身をレザーで包み、マントを羽織る。使い慣れた異形のメイスとレイピアを提げ、久々に鏡を見た。
しかめっ面の、立派な海賊だった。
だが、父とは少し違った顔立ちだった。
たまになら、鏡を見てもいいかもしれないと思った。