【鎮圧後の録音】
Part12 - 153-157「───驚いたな……わざわざ案内された別室で先の用務員と会うとは」
「そういう割には驚いてなさそうだね」
「驚いてるさ、見た目の幼さとは裏腹に只者ではないと思っていたが、まさかそれなりの地位にいるとはな」
《“灰の傷痕”がうっすら笑う音》
「で、半世紀前の小説に出てきそうな用務員ヅラの上役殿は、俺に何の要件だ?」
「簡単さ、値下げ交渉だよ」
《壁に鋭利な何かが突き刺さる音》
「なるほど、死にたいのなら早めに言ってくれ」
「助かるよ、そうやって脅してくれるのなら、まだ交渉の余地があるという証拠だからね」
「……次に発する言葉が有意義なものであると期待する」
「まぁ聞いてくれよ、本来なら今回の案件は私預かりなんだ、というのも“彼”を拾ったのは私でね」
「特色を拾うのが趣味の様だな、オレでさえこれほどの人数の特色と同時に何かをしたのは初めてだ」
「それは何よりで」
《壁と肉が裂ける音》
「次はもう少し深く行くぞ」
「……おぉ怖い怖い」
「有意義な話が聞きたいんだ、そっちの事情やお世辞が聞きたいわけじゃない」
「はいはい」
「端的に言おう、忙しそうだからね。減額と引き換えに、ウチの上役の座をあげよう」
「本当に釣り合ってると思うならお笑い種だな」
「それが釣り合うんだとも、あぁ最後まで聞いてくれ、切るならその後にしてくれ」
「……………」
《少しばかり沈黙が続く》
「先にウチの現状を教えよう、C社に目をつけられてる」
「そんなの白い死刀がいる時点で一目瞭然だ。泥舟に乗れって言ってるのか?」
「良いや逆だ、今なら大船に乗れるぞ」
「……気が狂ってるのか?」
「いいや正気さ」
「C社に狙われて無事でいられると思っているのなら正気じゃないぞ」
「無事で済む方法が一つあるじゃないか」
「は?」
「───C社を乗っ取れば良い」
「……やはり気が狂ってるな」
「まぁ口だけならそうだろうな、だがプランはちゃんとある」
「相手は“爪”だぞ、そんな一朝一夕で下せるのなら苦労はしない」
「そんなこと都市にいる者なら知らない奴などいない」
「……夢見るバカなら口にできるだろうな」
「こう見えて結構歳はいってるんだ、都市あるあるだろ、歳だけに」
《沈黙、今度は先ほどよりも長く続く》
「もう認めろよ、勘が囁いているんだろ?」
「………」
「まぁ勘だけで決められる内容じゃないってのも分かるさ、だからコレをあげよう」
《紙が一枚捲れる音》
「ッ!これは……」
「そう悪名高い“魔法の契約書”だ。昔のツテで一枚融通してもらってね、これさえ有れば君は安心安全だ
内容はそうだね……“報酬の減額”を条件に、“C社上役の座”を差し上げる」
「………出来なかった場合は?」
「おっ、ノリに乗ってきたね
その時は……まぁ椅子の代わりに“私”をあげようか」
《……溜め息、酷く…深い深い溜め息をする音》
「おっ、本当に呆れた顔をしているね、まぁ論より証拠」
「────高く売れるってところ、見せてあげるよ」
《「せーの」の掛け声と共に何かが切り裂かれる音》
《水音、何かが崩れた落下音の後に静寂が訪れる》
「……マジか」
「ああ、分かってくれたかい?」
(録音終了)
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「ということで<灰の傷痕>のギャラの値下げ交渉成功したよ〜。
でも、C社乗っ取れなかったらオレ売られちゃうから倍手伝ってね〜」
「なにやってるの!なにやってるの!?!なにやってるの!!!!??」