錦、拐う

錦、拐う


・センターカラーからの着想

・ドイツ組の秋の京都観光に烏が顔出す話

・ちょっと現代妖怪ファンタジー要素有


潔「凄ぇ紅葉…絵の中にいるみてぇだ」

黒「綺麗、綺麗………!潔、雪宮、氷織、紅葉捕まえた!」

雪「わ、本当だ小さい秋だね」

『黒名くんかわえぇ~結構歩いたし、この後お昼休憩にしよか』

「「「賛成!」」」


ドイツプロユースチーム、【バスタードミュンヘン】での新英雄大戦を期に仲良くなった同室の三人と僕の地元、京都にちょっとした旅行に来ていた

勿論、案内は現地民の僕の仕事や

今居るのは、鞍馬山の貴船神社

石階段、灯籠、鳥居、紅葉、全てのロケーションがまるでファンタジーの世界のようで、余り現地民ではあるけど、観光をさせて貰えへんかった僕にも新鮮な風景に見えた

散りゆく椛に楓が風に乗って流れていく

山全体が鮮やかな衣を纏っている様だ

涼しげな空気と街路樹や山々の彩り、華やいだ背景に佇む建造物、観光客や地元民の賑わい、食欲の秋でもあるためか美味しそうな旬の物の匂いもする

今は雪宮くんのリクエストで寺社仏閣の御朱印巡りをしている


雪「まだ階段あるしゆっくり行こうよ お昼ちょっと遅くなっちゃうけど…」

潔「大丈夫だろ 中々こんなに綺麗な紅葉も見れねぇし」

『京都は晩秋になるとすぐ寒ぅなるからなぁ…夕方大分寒いと思うし、お昼の間の内に御朱印巡りとご飯しとこか』

黒「氷織、氷織、昼飯は何にする?」

『皆は何がえぇ?』

潔「俺は蕎麦がいいな」

黒「錦市場の食べ歩き、食べ歩き!」

雪「そう言えば◯民ショーとかで京都はパン屋さんが多いって聞いたから美味しいパン屋さんのパン買って河原とかで食べるのも風情があるよね」

『うーん黒名くんのリクエストの錦市場なら色々あるし、錦市場で食べ歩きにしよか』

潔・雪「「了解」」

黒「やった♪やった♪」


取り敢えずお昼を取る場所を決め、先ずは目の前の神社へ続く石階段を登っていく

綺麗な風景に圧倒され語彙力の無くなった感嘆の声を漏らす潔くん

ひらひらとキャッチした椛を揺らしながら楽しそうに歩を進める黒名くん

事前に行った神社の御朱印を眺めながら、鼻唄を歌いながら歩く雪宮くん

とても穏やかで、居心地の良い旅仲間との雰囲気に浸りながら僕は椛を拐う涼風に目を細めた 


一瞬、目を細めた瞬間

椛を乗せた突風に包まれた

強烈な風に包まれ、思わず目を瞑る

パッと突風が収まれば、そこは先程の風景と変わっていた

空は夕時の朱を残しながらに青紫に染まり、ハラハラ落ちる椛や楓の葉は宵闇のせいか、くすんで見えた

参道の石階段の脇、左右の灯籠は灯りを灯し、明らかに、現実離れした時間と空間に動揺を隠せない


『………へ…?』


思わず間抜けな声が漏れる

辺りを見回すけれど、三人の姿は見えない

何が起きてる?どうして僕だけ…?


?「おーおー近くで見ると、また愛いのぉ…」


カツンと軽い音と聞き覚えのある声に似た声の方を向くと、そこには、僕の、先輩であり、“大切な人”

「烏 旅人」とよく似た男が僕の顔をまじまじと見ていた

本物の彼と違う点は、山伏の様な格好に、どう見ても乗らないであろう小さな頭巾

そして、口許を覆う黒いマスクの様な物に、大きな墨色の翼

どう見ても、僕らの生きる世界とは異なるモノ


『ぁ………か、らす…?』

?「ほぉ………ちゃんと化けられてるみたいだな」


烏に似たナニカは驚いて動けない僕の頬に手を伸ばす


『ひッ………』

?「怖がらなくていい、取って食ったりせんから」


かさついて、大きな手が僕の頬に触れる

ふに、と頬に指先が軽く沈み、すり、と頬を手で包まれる


 『ぅ、ん…?ん………』

?「あぁ……愛い顔だ…頬ぺたも柔こい…愛らしな……」

?「この時ばかりは堪忍な……久しくここまで好みの人の子は居らんかったからな…少しばかり、この老い耄れを癒しておくれ」

『……貴方は…?』

?「ただの鞍馬の山の老い耄れ天狗さ…」

『…………ぁったかぃ』

?「!…………坊、此方にお出で」 

『わッ…!』


ポスン、と引き寄せられて、烏に瓜二つや天狗さんの腕の中に包まれる

一本下駄のせいか、少し高い背の彼の腕の中にすっぽり包み込まれると、何だかじわじわと胸の奥が熱くなる


?「……余り心を覗くような事はしたかないが………坊は………随分と我慢をしてきたんやな…」

『………』

?「すまんなぁ……坊…頬ぺたに触れた時、坊の心の中が見えてもうた………随分と…今の世の親というのは………残酷なもんだな」

『………ぅん……天狗さんの時代はどうだったん…?』

?「儂らの時代か………まぁ世継ぎの問題もあったりしたが……寺での修行で子供を預ける親や、親子揃って店を切り盛りする親子も、皆、時代の流れに抗いながらも必死に、それでも愛し合っておったな…」

『……………ねぇ、天狗さん』

?「何だ?」

『…今の天狗さんの姿、秘密にしとるけど、ずっと、憧れて、ずっと、好きやと思ってる人と瓜二つなんや……………天狗さん、この気持ちは……どうしたらえぇ……?』


思わず見ず知らずの、しかも、この世のモノではない存在にずっと胸の内に隠していた物を明かしてしまう

でも、目の前に秘かに想う人と同じ姿形があるせいか、ざわつく胸の内を堪えることは辛かった


?「………坊は…今、儂に見えてる男と、どうなりたい…?」

『………ゎかんないんです』

『好きなのに……どうしたらえぇか、分かんないんです………僕には、想いを伝える方法が、分からんのです…』


声が震える

愛された事もないし、誰かに好意を抱くのも初めての事で…


?「………坊、ならこれはどうだ?」

『はぃ…?ん』


マスクの様な物を外した天狗さんの唇がソッと僕の頬に触れた

線香の様な、懐かしい匂いがすぐ近くでする

初めて、キスされた


?「唇への接吻は流石に坊の好きな子に残しとかなアカンからな」

『……天狗さん…?』

?「坊がどうしたら分からんのなら、坊の好きな子から動いてくれる様におまじないさ」

『?』

?「さて……坊の友達も心配してるだろうし、そろそろ表に帰さんとな…それと、」


プチッと天狗さんは自分の翼から羽根を一本もぎ取ると、僕へと差し出した


『!?天狗さん?痛くないん…?』

?「こんくらいなら別に痛くないぞ?ほれ、こんな老い耄れに付き合ってくれた礼じゃ…お守りにでもしておくれ」


そう言って差し出された墨色の羽根を受け取ると、天狗さんは翼を大きく羽ばたかせて飛び上がる


?「もしまた何かに悩んでいるのなら、いつでもお出でな…じゃあ達者でな」

『天狗さん!……ありがとう…』


天狗さんにお別れとお礼を告げると、また紅い突風が僕を包む

目を開ければ、石階段の頂上、貴船神社の前の鳥居の所に僕は立っていた


『……戻ってきた…?』

潔「氷織!今まで何処居たんだよ?」

黒「氷織居た!雪宮!氷織居た!」

雪「氷織くんッ!良かった…いつの間にか姿見えなくて心配したんだよ!?」

『ごめんなぁ……ちょっと紅葉綺麗やったからぼーっとしとったわ』

潔「マジで何処行ったか分かんなくて、烏にも捜索協力して貰ったんだぞ!?」

『え…?烏来てるの…?』

潔「いや、大阪から急遽来て貰ったから少し離れた所で捜索して貰ってた」

『本当にごめんな…』

黒「大丈夫、大丈夫 氷織が無事で良かった」

雪「まぁまぁ、無事に見つかって本当に良かったよ 取り敢えず烏くんにはお昼奢ってあげようよ」

『せやね 烏に連絡して錦市場で合流しよか』

「「「OK」」」


―錦市場―


「氷織!無事やったか!?」

『烏……ごめん、探して貰って…』

「怪我無いか?」

『平気………心配掛けてごめん…』

潔「氷織…そんなに凹むなよ…無事に合流出来たんだからさ」

黒「烏、烏、無事だったのを喜べよ」

「んやまぁ…せやな」

雪「まぁまぁ、烏くんも協力ありがとうね お礼にご飯奢るよ」

「あーあんがとな と、ちょっと待ってろお前ら 氷織、ちょっと来ぃ」

『?』


烏に手を引かれ、錦市場の店の間、細い路地に連れて行かれる

烏の手はさっきの天狗さんみたいにカサついて大きくて、暖かい


『なに…?』

「お前、変な奴に絡まれとらんか?」

『へ…?何なん急に…』

「えぇから答えろ」


路地の壁を背に、所謂壁ドンみたいな状態で烏に問われる

両手で逃げ場は塞がれていて、答えないと離して貰え無さそうだ


『いきなり何…?』

「そもそも迷子になったんお前やろ 悪い虫に誑かされたかもせぇへんやろ」

『んな事…』

「現にお前、何やその白檀の匂い……絶対凡ら以外に接触あったやろ!」


いきなり手を取られて、引き寄せられて、烏の顔が近づく

近い近い近い近いッ!!

思わずそっぽを向くけど、もう片方の手で顔を烏の方に向けられる


『ぁ………』

「答えろやアホ…」

『………からす………』


心配してるにしては、オーバーなリアクション

潔くん達と前に見た恋愛ドラマの中の男の人が、恋人の女の子に嫉妬と心配の感情の籠った言動と行動に似た事をする烏に、天狗さんの言っていたおまじないのキスの意味を知る

……もしかして、烏は僕の事、好きなのかな…?


『…………からす、』

「あ?」


胸の内が熱くなって、嬉しい様な、恥ずかしい様な、色んな気持ちが混ざり合う

もし、本当に烏が僕の事を好いていてくれているのなら…

キスしても、許してくれる…?


 ―ちゅ―


「はッ…………!?」

『………/////…からす、嫌やった…?』

「~~~~ッ!!アホ!嫌な訳あるかボケぇッ!!」

『ょかった…/////』

「あーもう…怒る気失せたわ…」

『もうえぇの…?』

「…好きやと思っとる子にキスされたら怒るに怒れんわ」

『!!……烏』

「何や」

『……////改めて言うな……僕も、烏のこと、好きや…』

「~~~ッ!!ほんッまに!!かわえぇ事すな!」


正直に話しても天狗さんの事は流石に信じてくれないかもやから、そこは話さへんかったけど…天狗さんのおまじないは功を奏し、僕は烏に自分の想いを伝える事が出来たし、烏と両想いにもなれた

今度、天狗さんにお礼参りに行こうかな

「んじゃ、凡らの所戻るで」と僕の手を引いて皆の待つうどん屋さんへと足を運ぶ


大好きな烏の隣で、仲良くなったみんなと食べるおうどんは今までで一番、美味しかったな


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