銃・闇・チェンソー
マキマとの戦いを終えた後日。早川家の面々は岸辺と会っていた。アキはベンチに、岸辺と隣り合う形で座る。デンジとパワーは少し離れた芝生でバトミントンをやっていた。1人の少女が、2人のプレーを眺めている。
「昨日まで24時間体制で観測させていたが…マキマの復活は確認できなかった」
「…らしいですね」
「まさかあんな方法で突破できるなんてな…」
契約内容か、認識の問題か、岸辺からすれば信じ難い結末を迎えた。しかし、マキマを倒す事は果たせたからそれでいい。今問題にするべきは、殺したアキの精神状態。
「お前…出てきて大丈夫なのか」
「デンジも心配してましたけど…結構平気です。ただ…しばらく忘れられそうにないですね。いろいろ…」
生から死へと向かっていくマキマの身に起きた変化を、アキは生々しく思い出す事ができる。何者も映さない瞳、妙齢の女性の香り、体温の抜けていく身体。チェンソーマンが知らないマキマを、アキは知っている。
「そうか。お前…遠くにいっちまったな」
思惑はともかく、マキマが動いてくれたおかげで会えた奴らがいる。悪い人だったけどいい女だったな、と湧き上がった考えをアキは一瞬で打ち消す。
「ところで…あの悪魔誰です?」
アキはデンジ達のバトミントンを眺めている少女について尋ねた。
「あいつは中国で発見されたのを、俺が盗んできた。もうマキマではない、支配の悪魔だ」
岸辺は少女を早川家で預かってもらうように頼む。少女にはマキマとしての記憶は何も残っていないだろうが、政府に管理させたら第2のマキマになりかねない。
「だからアキ、アイツ、お前らに任せるわ」
「は?」
「俺はこれから忙しくなるから、お前らに任せるのがベストだと思ったな」
「…養育費は振り込んでくださいよ」
「別れた嫁みたいな事言うな」
岸辺は去っていった。アキはベンチから立ち上がる。観戦している少女の隣に座ると、名前を尋ねた。
「…ナユタ」
「ナユタ、何か食いたいものあるか?」
「食パン」
「…安上がりだな」
顔色を全く変えずアキの質問に答えたナユタは、無表情でピースサインをアキに向けた。アキはデンジ達に声をかけるとナユタを2人に紹介して、4人で家に帰った。
★
「今日、1時から見たい映画の上映があるんだ…一緒に来ないか?」
「う〜ん…いいよ。仕事するより楽しそうだ」
アキはパトロールに出発してすぐ、天使の悪魔を映画に誘った。それまでは業務に励もう、とアキは気合を入れるが天使はサボりたがった。
「適当な店で時間潰せばいいじゃない」
「そんなわけにいくか。上に報告するぞ」
「ええ〜…真面目だなあ…」
同じくパトロール中、パワーはデンジに手柄を寄越すように要求してきた。理由を尋ねると、出世したいらしい。
「よいか?ワシはアキの家で暮らすようになって、知恵をつけた。大統領になるにも、ある程度段階を踏まねばならぬらしい。だからまずは外交官を目指す!」
「なんで外交官?」
「ワシは棍棒外交というものを知ったのじゃ!ワシが棍棒外交をやれば、どんな要求でも呑ませる自信がある!ワシは外交官に向いておる!そして実績を積み、ワシは大統領になる!!」
「すげ〜な、パワー!色々考えてんな〜!」
「ガハハハハハ!!ワシはインテリじゃからのう!!ガハハハ!!」
パワーは悪魔の匂いを感じて駆け出し、デンジもそれに続いた。出現した悪魔から逃げ惑う群衆とは逆方向に走り、2人は獲物の前に躍り出た。