銃・家族・チェンソー

銃・家族・チェンソー


墓参りの北海道旅行から帰ったアキは岸辺に、産休に入っている姫野に護衛をつけてもらうよう頼んだ。

「確か…デンジの子供を産んだんだったか」

「はい。姫野先輩とデンジを遠征に参加させない点も重ねてお願いします」

岸辺は若くしてデンジが所帯を持った点が気がかりだったが、口には出さない。優秀なデビルハンターの条件は、頭のネジがぶっ飛んでいる事という持論を持つ彼から見て、デンジは極上の資質を持つ。家族を持った事でその才能が損なわれないかという不安があるのだ。

「上層部に要望は伝えておく。十中八九通るだろう。戦うのは4課だけじゃないしな」

これでアキの懸念はほぼ払拭された。異なる歴史において出た犠牲を経験する事なく、遠征に至ったアキに恐怖は無い。待ち望んだ復讐の機会を逃す気はない。

討伐遠征の間も悪魔は湧く。公安のかなりの戦力が不在になった隙に、姫野が悪魔の犠牲になる可能性はある。ベテランのハンターとはいえ、赤ん坊がいては遅れをとることもあるだろう。1人にはしたくない。

デンジやその子供達に自分のような経験はして欲しくなかった。討伐遠征が済んだら、本格的に父親としてデンジは歩き出すのだろうとアキは未来を想像する。


岸辺に要望を伝えた後日、アキは朝早くにマキマに呼び出された。パワーを連れて会議室に向かう途中、デンジに出くわす。広々とした会議室で、3人はマキマと向かい合った。彼女は姫野の銃の悪魔討伐戦不参加、デンジの作戦参加を3人に伝えた。要望は通らなかったのだ。

「ちょ…どういう事ですか!?」

「デンジ君とパワーちゃんは私の管理下にあるの。私は2人の力をみんなに見せて、特異4課をみんなに認めてほしい」

「でも…コイツは父親になったんですよ!?」

ふざけたチンピラだが、伴侶がいて、子供がいる。独り身の自分や魔人であるパワーとは違うのだ。

「最初に言ったよね?デンジ君は特別な対応で扱うって。命令に従えない場合、デンジ君は悪魔として処分します」

「そうカリカリすんなよ、早川先輩」

「お前な!」

デンジ本人は深刻に考えていないらしく、けろっとした顔をしている。マキマと視線が交わり、アキが抗弁する言葉を紡がないでいると、デンジが口を開いた。

「俺には俺の考えがあるんだよ。銃野郎をぶっ殺せば、給料もどか〜んと上がるだろうしな」

「勿論」

「ワシも行くぞ!デンジはワシのバディじゃからな!」

能天気な様子の2人を見て、アキはますます憂鬱になったが、これ以上の抵抗はできないと悟ると、マキマに話の続きを促した。

「心配しなくてもデンジ君は死なないし、パワーちゃんは頑丈だよ。キミは自分の心配だけをしたほうがいい」

その後、マキマの口から伝えられた銃の悪魔の現状は、アキに落雷の如き衝撃を見舞った。

銃の悪魔の本体はアメリカ、中国、ソ連で59%を所持、その他の国が4%、その他の37%が肉片として各地の悪魔が持っている。

銃の悪魔討伐遠征というのは、倒したその肉体を持ち帰って日本のものにするという事。銃の悪魔は倒せない。誰かに利用されながら、永遠に生き永らえる。

落ち込むアキを見ていて、デンジも少し不安になってきた。銃の悪魔を倒したら、マキマが何でも願いを叶えてくれる約束をしているが、倒せないとしたら後で反故にされないだろうか?

(子供2人生まれて、食費がいるし、学校も通わせねぇといけねぇ)

初めては姫野に捧げた為、マキマと愛し合う欲求は薄い。彼女の事は今でも好きだが、今は金が欲しい。金はあればあるだけいい。

翌日の昼下がり、早川家の面々は東北の海岸に集結していた。姫野は岸辺の計らいで数日前に住居を一時的に移した為、デンジ達3人はアキの家から現地に到着した。周囲には公安のデビルハンターが集結しており、マキマが頃合いを見て、彼らに演説をぶった。

未来の悪魔の予知により、銃の悪魔はマキマを目指して日本を襲撃してくる事。予知通りにする為、各国の諜報員対策の為にギリギリまで作戦開始時刻を参加者に伝える事ができなかった事。

「突然で申し訳ないけど、すぐに準備を始めて欲しい。今回の作戦には公安屈指の戦力が集まっているから、確実に初手を凌げば十分勝てるよ」

1997年9月12日午後3時18分21秒

秋田県にかほ市沖合より銃の悪魔出現。

標的であるマキマ目がけて、進行路上にある全ての生物の心臓に銃弾を撃ち込みながら、高速で猛進。銃の悪魔討伐作戦が始まった。

マキマが演説をぶつ少し前、都内某所のファミレスにてんでバラバラな格好の男女が集結していた。

「チェンソーマンはそろそろ現地入りしたかな」

グレーのスーツに身を包んだ長髪の男が呟いた。男の懐で電話の着信音が鳴った、携帯電話だ。男は席を離れて電話に出ると、向こうの何者かとしばらく話し込み、通話を済ませるとテーブルに戻った。

「場所が特定できた。行こう」

短めの黒髪を無造作に流した少年、目つきの鋭い女、柔らかな微笑を湛えた少女が男の声で席を立つ。

彼らには使命があった。ある若い母親とその子供達を殺害せよ、という。彼女達の父親は銃の悪魔討伐作戦に参加しており、作戦終了までに全て完了しなければならない。


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