野箆坊が丑の刻-後編-

野箆坊が丑の刻-後編-


注意:R18,R18G

未成年者の閲覧はご遠慮ください。

■人斬り鎌ぞう(キラー)×🥗ホーキンス

■キッド×🥗ホーキンス要素あり

■暴力

■性行為

■欠損

■その他、文章力・理解度不足の問題で起こるキャラ崩壊等ご理解いただき、皆様の閲覧と感想をお待ちしてます。





♢

殺人鬼・人斬り鎌ぞう、北海の魔女・真打ちホーキンス。面を失い狂うまま、花を摘み取り花弁を千切り、愛憎渦巻く恋模様。

かつての友の変貌に、女は何を思う。

かつての友を恋慕し、男は何を笑う。

乱れてゆく波、床を濡らす涙……2人の目に映る運命の分かれ道。

「哀れね、人斬り鎌ぞう」

♢


この作品は前・中・後編に分かれます。完結してから別テレグラに、後書きとして「丑の刻に噂話」を添付いたしますので、重ねて読んでいただければと思います。

また、この作品では、皆様の生み出した素晴らしい概念を誠に勝手ながら流用させていただいてます。素晴らしい供給、大大感謝です!

それではどうぞ。



 キッドはもう、何も信じないと決めていた。しかし、それはそれだ。視界に映った者を……キッドは絶対に殺すと決めていた。

「よせキッド!!ファッファッ!!お前もバレちまうぞ!!」

キラーは、機械を引き寄せていくキッドを見た。何をしようとしているのかは分かっていた。止めなければいけないから言葉だけでも届けたが、この気持ちの動きだけは、キラーも止めようと思っていない。

「磁気弦!!!」

その手に潰された全ての元凶は、頭から血を流している。

「兎丼の囚人が何か用かァ??お互い忙しいんだ、手短に済まそうぜ」

「率先して「同盟」に乗ってきやがった裏切り者がァ!!!お前を何度ぶちのめしても、おれ達が失ったものには届かねえ!!此処で殺す!!!殺してやる!!!」

その言葉に対するアプーの答えは、無言の笑みだった。キッドの怒りはさらに増し、

「何が可笑しいんだよ!!!」

と、金属の手でアプーを掴み上げる。アプーは下卑た笑みを浮かべ、そして、こう言った。

「要するに、テメー1人が冷や飯食わされてんのが気に入らねえってわけか」

「何だと!?」

「相棒の代わりに教えてやるよ……おれ"達"の裏切りをな」

キラーは、何を話しているのかは知らないにせよアプーが何か、キッドに話し込んでいる様子をチラリと見た。その時、キラーが最も恐れていた事態が起こった。

「……キラーはそんなことしねぇ!!」

「じゃあ聞いてみろォ!!!人斬り鎌ぞうと、バジル・ホーキンスに!!!」

キラーを駆け巡る、2つの名前……忘れようとした名前だ。まさか……アプーが話したのは……。

「キラーはそんな名前じゃねえ!!!」

「じゃあアイツじゃねえのかアレは!!?アイツがしでかした行いは、名前さえ変えれば無かったことになるか??現実に気づけ!!」

「ファッ……ファファ……やめろ……」

キラーの背中に這い寄る、黒い影。

『苦しゅうないぞ……キラー、お前はおれだ。思い出せ、お前はおれだ』

「ファッファッファッ……」

『お前は人斬り鎌ぞう。花の都の下手人、女を物のように扱い命令とあらば罪のない子供さえも殺せる。お前の名は人斬り鎌ぞうだ』

黒い影は少しずつキラーを飲み込んでいく。アプーは叫んだ。

「そもそも海賊の同盟がハッピーエンドを迎えることなんてねェんだ!!!せいぜい少しでもましな終わり方探して手打ちが限界!!それにしちゃあ……おれ達はな、上手く回ったほうだぜ!!!誰も死ななかった!その上同盟関係にあった男女の相思相愛!毎日部屋で好きなように抱く!!アッパッパッパ!!鎌ぞうよォ〜楽しかっただろォ!?ワノ国はァ!!!……ぐっ!!」

振り下ろされる金属、アプーは血を吐く。

「だから……鎌ぞうじゃねえ……キラーだ」

キッドは最早、怒りそのものになろうとする。

「それがアイツの答えか」

「そうだ!!」

「お前はキラーじゃねえだろ?」

キッドの言葉にキラーが同意しきれないのは、事実であった。後ろに立つ鎌ぞうの影はキラーに語りかける。

『ホーキンスはおれの女だ。思い出せ』

違う、敵だ。

「はぁー、こっちは情報売ってるってのに……金もくれねえしすぐに殴ってくるクソ客に、コイツはおあつらえ向きってやつだァ!"斬"♪」

「う!!!」

「なァキッド……キラーの答え、ちゃんと聞いとけよォ??」

キッドはニヤリと笑った。笑える程、腹が立つ人間だ。

「………ゴミが」

「キッド……離れるぞ」

キラー達は城内を走る。その間、キラーは闇に呑まれた精神を引き摺りながら、キッドに訊いた。

「アプーの言っていたことは、恐らく全て真実だ。軽蔑しただろう」

「どうでもいいそんなこと!!おれ達が目指してるものはなんだ!」

「……カイドウの首だ」

「全部終わったらテメーの答えとやらも聞いてやる!今はその時じゃねえ!!」

キッドの言葉はいつだってキラーを安心させる。しかし、心の奥底まで届くあの感覚を、今の自分は何故か得られなくなっていた。言葉が喉元に引っかかって、そして溢れてくる。

「おれは、ホーキンスが好きなんだ」

キッドは何か言いたそうな顔でキラーを睨むが、すぐに目を逸らして、雑兵を蹴散らしていく。

「ホーキンスの方は、知らなかった……アイツがおれのことを好きなはずがないと思ってた……アイツを何度殴ったかわからない」

「ホーキンスを……殴った?」

「ああ……ファッファッ……殴った……蹴った……暴言も吐いた……ファッファッファッファッ!!そうしなければ、この世界でおれは生きていけなかった!!」

キッドは足を止めた。キッドは、キラーを殴った。

「頭!!何やってるんですか!」

「キッド……すまない」

「!!」

動揺……手を開いて、見つめる。相棒を殴った、反射的だった。自分のものだと信じられないほど、それは理性も感情も、全てを超えて、自分の掲げていた信条の全てを否定して、キッドの拳を動かした。

「お前に負けたくなかったんだ!!アイツがいつもお前と仲良くしてる姿がずっと気に食わなかった!!ファッファッファッ……おれもそうだったらってどれだけでも思えた!!」

その言葉を信じたくなかった。本当はアプーの情報などただ自分達を錯乱させるためだけの与太話だと思っていた。だが、キラーの言葉は信じるに値する。だからこそ、信じたくなかった。キッドは唇を噛み締めながら、立ちあがろうとするキラーを、また殴る。

「もしアイツがおれのこと……ファッファッ……好きなんだったら……おれの……ファッファッファッ!!勝ちになる!!」

殴る。

「あいつがおれを求め、おれに「愛してる」と言ったのが本当なら……!」

殴る。

「は……ハァ……ファッファッ……アプーの言うこと、同意したくなかったが一理あるみたいだ……キッド、お前」

殴る。

「ううっ!!……お前……ファファ……悔しくて仕方がないだろ!!ファッファッファッファッ!!」

上げた拳が止まる。動けなくなった。

「誰も信じないと言ったのは嘘だったんだな!!ファッファッファッ!!そうだろうと思ってた!!お前はまだ忘れてない!ホーキンスのことを諦めきれないんだ!!ファッファッファッ!!」

「……ッ!!」

誰も信じない……そうだ、強がりでしかない。悔しかっただけだ。道を潰して、無かったことにしようとしていた。頭の中にずっと住んでいたホーキンスの存在を、その笑顔を、何もかも無かったことにすれば苦しまないと思った。でも、キラーは教えてくれた。そうしたって、この気持ちは何も解決しない、無かったことになんて出来るはずがない。おれは……おれは。キッドは拳を開いた。

「キラー、おれの負けだ」

その手をキラーに差し出して、笑った。

「ファッファッ……また同じ女を好きになった……今回はもう、勝ちが決まってるがな」

キラーは満足そうに笑う。キッドにはそれが、SMILEの副作用によるものではない、と分かった。

「いや、完全に決まったわけじゃねえ!勝つまでやってやるからな!!」

「ファッファッファッファッ!……ああ」

「おいお前ら!作戦変更だ!!」

キャプテンキッドは、2人の喧嘩でおろおろして歩みを止めていた船員に号令をかける。

「おれは!!!ババアとカイドウを倒す!!そして……この戦いでホーキンスが、もし生きていたら……」

キッドはもう一段、大きく声を張る。

「告白する!!!!」

「おおおおーーー!!!」

「キッドの頭ァー!!頑張れーー!」

「応援してるぜー!!」

船員達の声の中、キッドはキラーを見て、言った。

「相棒、行くぞ」

しかし、キッドは知らない。もう何もかもが遅いということを。キラーの闇は、彼の心を全て包み込んでいた。

「ファッファッファッ……させるか」

キラーの言葉は歓声の中に隠され、消える。キッドの耳には入らない。

「殺せば、アイツはおれのものだ」

 鬼ヶ島の一角、ドレークはホーキンスを、同情するような目で見ている。

「裏切るなら今だぞ」

何?その言葉。ホーキンスは、心底冷めた目でドレークに視線を返す。あなたは知らないでしょう、私が何のために今まで戦って、何のために此処にいるのか……そうね、ドレークなんかにこの思考は理解できないでしょうね。

「舐めないでくれる?」

裏切ったら自分の今まではどうなるの。何もかもキラーのために耐えてきた。キラーと一度きりでも良いから逢瀬を交わすため、今までの人生はそのためにある。だから、キラーの死亡確率と、この確率で……!

「1パーセント」

「何を占ってる」

ドレーク、あなたには教えないわ。

「ある人が、明日までに生きている確率よ」

「1パーセントか、不憫だ」

言っていれば良い、とホーキンスは無言の返事をドレークに渡す。何処が不憫というの?これは、1番の幸福と言っても良いわ。キラーよりも低いと分かれば良かったの。そう、2人で死ぬならそれで良いの。92パーセントと99パーセント、私の方が死亡確率はわずかに高いけれど、ほとんど変わらないようなものよ。キラーだけ生き残るのなんて……絶対に嫌……!!どれだけ辛い思いをしたと思っているの、毎日痛い思いをしたわ、毎日涙をたくさん流したわ……それは本当!それでも好きになったのよ!!それでもあなたを、私は愛しているの!だから、その罪は死をもって償いなさい……!私があなたの死体を見てあげる、内臓を引き摺り出して、私の飾りにする、そして私も死んでやる!!!あゝどうか!!キラーに幸運を……私の手にかかる前に死なないように。私が死ぬのは、あなたの死をこの両目で見届けてからよ……!フーが呼びに来た。さあ行きましょうドレーク、裏切り者の制裁へ。きっとあなたは驚くわね。でも、みーんな知ってるわ。バレバレよ、と、ホーキンスはほくそ笑んだ。

 場内の何処かに、キッドとキラーは落とされた。ビッグマム達は追ってこない。恐らく場所を見失ったのだろう。2人は急ぐ、カイドウと組んだあの化け物をどうにかして引き剥がすため。戦況は一刻を争う、止まってなどいられない。その様子が1人の目に映る。

「どいてなさい」

なるほどね、と女は笑う。

「藁備手刀」

キッドは避けた。その攻撃を認識した2人の足が、びたり、と、固まる。

「ホーキンス……」

キッドは目を泳がせた。

「おれ達を刺しに来たのか裏切り者がァ!!!」

「裏切り者だなんて……敗けるとわかった戦いを回避したまでよ!!アハハハ!!!」

その笑い声は不自然に明るく、キッドの心を大いに乱す……まさか、自分達で手にかけるなんて、思っていなかった。こんな、こんな酷い巡り合わせ……。

「だからお前は小物なんだ!!」

戻ってこいホーキンス、言いたいのに……言えないのは、立場が許してくれないからだ。ホーキンスがその立場であろうとするからだ。何でだよ……キッドは何処にもぶつけようのない、強い怒りの炎に焼かれ、悶える。

「あなた達……よく命があったわね」

だから、ホーキンスが分からない。何故、こんなに満足そうな顔をしている。何故、そうやって笑っていられる。キッドは目を開き、気づく……ホーキンスは、変わってしまったのか?キラーは、ホーキンスの様子を見て明らかに平常心を失ったキッドの姿を、見る。すっかり百獣海賊団に服従しているこの姿を見ても、お前は好きでいられるか、とマスクの中で優越の笑みに浸る。そして、引き離す。

「キッド先に行け!!ビッグ・マムを野放しにするな!!」

キッドは、その言葉を聞いて我に返った。ごちゃごちゃ考えている暇はない。相棒に任せよう、きっと上手くやってくれる、そう信じた。ホーキンスが何を考えているかも、キラーが何故そう言ったのかも、知らないまま。

「頼んだ!!」

最期の対面だ、と、残された2人は思う。

「2人相手じゃ勝ち目はなかったわ」

「おれ1人でも殺せる」

「出来るかしら?」

「やらなければいけない」

「あなたがここで死ぬ確率は……92パーセントよ?哀れねぇ"人斬り鎌ぞう"」

「おれは実力主義だ!!ファッファッファッ!!」

「あら、フフフ」

鎌ぞうにはもう会えないと知っていても幻影に縋ろうとするホーキンス、鎌ぞうとしての自分を取り込み、ホーキンスを我が物にしようとするキラーの2人の戦いの火蓋が、切って落とされようとしていた。

「やっちまえー!!ホーキンスさん!!」

ホーキンスは、氷のような目で百獣海賊団の部下達を見回す……邪魔ね。

「アハハハハハハハハ!!!」

高笑い、野次馬達はギョッとして声を上げるのを止めた。

「本当にありがとう!!この私のためにライフになってくださるのね!!嬉しいわ!!!」

「え……ホーキンスさん?」

「ライフって、何の冗談を」

「私は今とおっても気分が良いのよ!!だから、勢い余って……あなた達のこと……」

ざわ、ざわ、と音がする。ワラワラの実の能力者、異名は北海の魔女……遂にその全貌が顕現する。

「殺してしまうわ!!!」

長い手の指に縛られた大量の釘、蜘蛛のように地を這う足、体中を埋め尽くす藁、天井まで届くその巨体、美しい女性の姿からの変貌、1人がこぼす。

「化け物……」

その瞬間、首が手刀で飛ばされた。隣にいた男がギョッとして、

「ヒィ!」

と叫ぶ。

「あらぁ……聞こえなかったみたいね。殺してしまうって言ったじゃない」

私は魔女なのだから。

「うわああああ!!!お前ら逃げるぞ!!」

「アハハハ!!そうよお逃げなさい!この命知らずとおんなじになってしまう前に!」

キラーはその姿を見て、思い知った……ホーキンスは、どんな理由にせよ自分を本気で殺しに来ている、と。

「最初から……おれとお前は……なら」

絶対に、殺してやる。

「幸運を祈るわ、キラー」

絶対に、殺してやる。

「お前がくたばることが、1番の幸運だ!!!」

やっとここまで来て、同じ想いを持っていた、と2人は深く意識する。そして、それは今も同じだ、ということも。だからこそ、2人は道を違える。互いの命を求めて争う。息が切れる、幾つもの藁人形が落ちていく……。

 ホーキンスは、苛立っていた。キラーもまた、苛立っていた。決着がつかないのだ。

「てめェ何体"身代わり"を入れてやがる!!……ハァ……ハァ……」

いくら傷つけても藁人形達が落ちるだけ、面倒な相手だと思いつつも……何故か、嬉しい。自分に抵抗もせずに体を捧げるだけだったホーキンスを殺すのは味気ない。今の、必死に思いをぶつけながら戦っているホーキンス、そして、それをキラーとして、鎌ぞうとして、自分のありったけを返していくのは……最早、この男にとっては快感でさえあった。

「残り僅か……マズイわね……フフフ」

ホーキンスもまた同じだった。ライフは残り1つ……劣勢ではあるかもしれない。でも、このライフこそがホーキンスの「とっておき」だ。ホーキンスは、キラーと戦う時を夢見て面白い遊びを考えていた。キラーが苦しみながら死ぬためにどうすれば良いのか、答えを決めていた。

「命に同情する」

2人は思った、「勝てる」と。キラーは飛びかかって、刃を向ける。ホーキンスは待っていた、と言うかのようにその刃を、受け止めた。

「!!!」

「僅かよ……僅かでもね」

ホーキンスはキラーと目を合わせる。

「重要なのは……」

1体の藁に、斬り込みが入った。

 2階で、ローと共にビッグマムと戦っていたキッドは、唐突に崩れ落ちる。

「ユースタス屋!?」

「刺し傷……!!?」

ドクドクと、身に覚えのない傷が溢れていく……これは、何だ?

 キラーは恐ろしい事実に気づく。

「まさか……」

「重要なのは、誰の命か!!」

「その藁人形……!!」

「知らずに殺させるのも、酔余の一興というもの……でも、もっと面白いのは……それを知ったあなたの姿を観望することじゃない?」

キラーは選択を迫られる。女か、相棒か。

「あなたの手で出来るかしら」

「ファッファッファッ!!」

キラーの額に汗が滲む。ホーキンスはあらゆる万感の中、勝利の笑みを浮かべる。これがあなたの罪の全て、さあ……

「興じなさい」

「……」

あなたがいつも口にしたあの言葉、今の気持ちに、ピッタリよ。お返しするわ。

「苦しゅうないぞ」

鎌ぞうは笑った。

「いい趣味してやがる」

復讐が始まった。ホーキンスはキラーに何度も襲い掛かる。キラーは迷いの中、ホーキンスを、キッドを傷つけることも出来ず、血を流し、消耗していく。

「アハハハ!!向かってこないのねぇ!」

「クソ……」

「旦那様がやる気のない夜ほど、つまらないものはないのよ!!」

胸を刺す。

「ぐっ」

キラーは口から血を流し、酸欠で床にへたり込んだ。

「そうね……こうしましょう」

キラーに背を向け、ホーキンスは歩く。

「何をする気だ」

「いい加減、焦らされるのはうんざりなの」

振り返るホーキンスは、目の前の柱をゆっくりと、撫でるように触った。そして、

「!?」

ガンッ!!!と衝撃音が響く。

 キッドは脳に激しい痛みを受け、倒れる。何度も何度も、衝撃は繰り返す。

「何やってんだ役に立たねェな!!」

叫ぶが虚しく、ローはプロメテウスの攻撃を受け、倒れた。キッド自身も、頭痛に手を抑える隙を突かれ、ビッグマムの斬撃を受ける。キッドは何が起きたか分からず、混乱しながらこの痛みを恨む。やっと「四皇」に辿り着いたのに……!!これで死んだら、何なんだ……おれの海賊人生……!!

「くそォ……」

口惜しげに呟く。

 痛みの正体を2人は知っている。

「これは……オロチ!!!」

ガンッ!

「これは……最初の男!!!」

ガンッ!

「これは……2人目!!!」

「3人目!!!」

「4人目!!!」

「5人目ェ!!!」

「6人目ェェェ!!!」

キラーの体が震える。

「返せ!!返せ!!!私の体を返してええええ!!!」

ホーキンスは、柱に頭を強くぶつけ、そのダメージをキッドに肩代わりさせていた。キラーはそれを、見ることしかできない。

「ファ〜ッファッファッ!!!やめてくれ!!」

「人斬り鎌ぞう!!!何度も何度も私を弄んだ!!!!何度も!!!」

ホーキンスは恨み辛みを叫びながら頭を叩きつける、まるで……丑の刻参りのように。

「これは私を初めて殴った時!!!」

「やめてくれ!!!」

「私を初めて蹴った時ィ!!!」

「やめろぉ!!!」

「もうやだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

その叫び声はあまりにも悲痛で、キラーは自分の犯した罪を自覚させられる。戦意が削がれていく。

「いやだ!いやだ!いやだ!私の体から出ていってよおおおおお!!!!」

ホーキンスは錯乱していた。男達の汚い手が自分の体に忍び寄るあの生々しい感覚が蘇ってくる、それはずっと自分の心の中に残って、離れないのだ。怖い、痛い、辛い、寂しい、悲しい、思考はいくつもの枝に分かれ、最早本心が何だったかすらも忘れられていく。

「ファファファファファ!!!ホーキンス!!!おれが!!おれが悪かったんだよォ!!!ファッファッファッ!!!頼む……キッドは解放してくれ!!!」

「嫌よ!!!」

キラーは、ホーキンスの叫びに顔を歪める。

「その笑い声!SMILEを食ったのねキラー!!不幸の極み、でもアンタにはお似合いよ!!アンタはそうやって笑って!!!親友が無様に死んでいく様を見ていれば!!!」

ホーキンスは頭を振り下ろす。

「いいの!!!」

「ファッファッファッ……!!頼む……やめろ……!!」

女か、親友か……こんな選択……。

「死ね……!!!死ね!!!死ね!!!キッドも!!!キラーも!!!アプーも!!!オロチ……!!!オロチもォ!!!みんな!!死ねえええ!!!」

「キッドを……解放してくれ……ファッファッ……」

『お前がやった。ホーキンスをあそこまで壊した、恨みに生きる人間にした。目を閉じるな、両の目で見ろ』

目を閉じると、常闇の中で鎌ぞうが、キラーに語りかける。聞きたくない。

『ファッファッファッ……殺してしまえ、あの女を。オロチに奪われてしまう前に、キッドに奪われてしまう前に』

「ゼェ……キッドを解放してくれ……ゼェ……おれの命ならやる……!!!」

ホーキンスは目を開いたまま涙を流し、笑ってキラーの方に歩く。

「あなたを愛してるわ、キラー」

対面したホーキンスは、キラーを、そう言って蹴る。

「!!」

「ビッグマムと戦ってるらしいわね、キッドは」

「ハァ……」

痛みは強い。

「念願「四皇狩り」成るのかしら??野望が大きくて、結構なこと」

「知っているのなら……アイツの邪魔をしないでやってくれ!!」

「フフフ……あははははは!!!」

けたたましい笑い声を上げ、ホーキンスはキラーの頭を踏む。

「あんた達に勝ち目なんかないわよ!!!現実に気づきなさい!!!」

キラーは目を閉じる。

『この女は、取り残された者だ』

鎌ぞうは語る。

『おれの相棒は前に進む者だ』

キラーは、はっとした。塞いでいた耳を開ける。鎌ぞうの言葉を、聞く。

『過去を超えるには、痛みが伴う』

「あいつらが古くからこの海に君臨する理由を!!生物の本能で感じた筈!!!」

ホーキンスは、キラーを蹴り飛ばす。

「勝てるわけなんて、ない!!!」

目が覚めた。違う、キッドは……相棒は、勝つ!!

『敗者に構っている暇はねえ』

「ハァ……ハァ……」

「まだ立ち上がるつもり??さっさと私に殺されたら??」

「声を荒げるな……ホーキンス」

「……っ!!」

「本当に、悪いことをしたな」

ホーキンスは、崖の上で立ち止まる。もう、これ以上進むことはできない。キラーが近づいてくる……嫌……嫌!!

「お前は悔いているんだろう」

「黙りなさい」

「あの時の選択を……!!」

「黙って」

「お前が死ぬと恐れた未来を、おれ達は生きてんだからな!!ファッファッ」

「黙ってって、言ってるでしょ!!!」

怨念に満ちた険しい顔で、ホーキンスは剣を握る。

「やってみせよう……おれも、悔いを残さない様!」

「やれるものならね!」

「一か八かだ!!」

キラーは飛んだ、ホーキンスが剣を突き立てる前に。そして、鎌は血を吸った。

「……!!!」

ホーキンスは目を疑う。血が溢れる、視界に、吹き飛んだ自分の左腕が映る……。

「あああああああ!!!」

失敗した……失敗した、失敗した、失敗した!心臓の鼓動が激しく耳をつんざく。

「どうして……切れるの!!?ダメージは全部……」

「キッドに左腕はない!!!」

ホーキンスは1つの結論に気づく。自分の道の果てが何を示すか、最早、ただ1つ……殺される。痛みと絶望の中で腰を落とした。キラーは血がぽたりぽたりと落ち、力なく垂れた左腕を掴む。装甲の重みが手に伝わるが、しかし、それは分離したことで拠り所を失い、掴んでも、何も返ってはこない。ホーキンスを、人間を、感じられなくなった。あの夜の感触はもう、戻ってこないのだと思わせた。それでも、戦いを続けなければいけない。過去を振り返っていたら……おれ達は、勝てない。

「こいつを取っちまえば、お前を守る命は何人になる」

キラーは藁人形を外し、問う。

「おめでとう……それが、最後」

ホーキンスの愛と恨みは,絶望をどうにか動かし、立ち上がらせる。最早,満身創痍と言っても良いくらいの弱り具合だが、彼女は諦めない。

「藁人形ズカード「死神」正位置「消滅のカード」!!!」

相討ちになればいい……どうせ死ぬのなら、あなたも連れていってやる!!

「真っ当に殺してあげるわ!この死に損ない!!!」

「斬首爪!!!」

襲撃した藁人形は首を切り落とされ、うめき声と共に倒れた。キラーはそのままホーキンスに向かってくる……まだ、復活のカードがある……死にたくない……!

「この戦いの決着を示しなさい!!!」

カードを出す……あゝ何と言えば良いのだろう。破綻、崩壊、1人の敬虔なる魂は、運命に見放されてしまった。ホーキンスの目に映ったそのカードは「"塔"」それは、全ての終焉を意味する。崖の足場が崩れ落ちていく、それでも止まれない。追撃を加えようと走ると……見えなくなった。

「刀音撃!!!」

カードが舞う、散る桜のように……ホーキンスの元へと落ちていった。

 キラーは仰向けに倒れたホーキンスの方へと歩く。気を失っているようだ。顔の裂傷に触れる。

「可愛い顔に傷をつけてしまった……悪く思うなよ、おれもお前も命懸けだったんだ」

キラーは、マスクを外した。

「ホーキンス……」

抱き上げると、糸が切れた人形のようにふらりと揺れる。

「他の男には絶対に渡さないと決めていた」

静かな場内、物言わぬ体に伝える。

「お前は、おれの女だ」

キラーは唇を重ねる。柔らかい感触、そして……鉄の味がする。構わない、この血だっておれのものだ。

「う……うっ」

そうだった、と後悔の涙が零れ始めた。キラーは今まで、一度も彼女に直接「好きだ」と伝えてなかった。彼女はずっと、言っていたのに。想いに最後まで応えられなかったというのか。こんなに恋焦がれても、こんなに愛されても、そんな簡単なことが出来なかったというのか……。

「あああ……ファッファッ……あ……あ……」

絶え間のない涙の洪水と共に、沢山の過去が浮かぶ。

「お前を愛している」

届かなくても、言ってやる。

「お前の全部が、好きだ」

そうしないといけないからだ。

「本当は……生きていてほしかった」

もう一度キスをする。さっきより冷たい、本当に死んでしまうようだ。お前の分まで背負っていく、お前の辛い思い全部、おれが背負っていく……!

「え」

唇を離し、目を開ける。

「ふふ」

キラーの頬が凹んでいる。視界に映ったのは、

「引っかかった」

「あ……!」

「やっと……本当のこと、言ってくれた」

この笑顔は……忘れていない、ずっと好きだった、ずっと焦がれていた、ずっと待っていた……!

「ありがとう」

瓦礫の中、その言葉は微かなものでも、キラーにはよく聴こえている。ホーキンスはキラーの顔を、暗くなる視界の中で必死に見ようとする。

「……私も……キラーが大好き」

キラーの胸に、ホーキンスはもたれかかる。

「ああ……あ……ファッファッファッ……ホーキンス……ファッファッ……」

笑いながら、キラーは涙を流す。ホーキンスもまた、瞳をキラキラと潤ませる。

「行って……みんな心配してるわ」

「キラーさあん!!!」

「何処ですかー!!」

遠くからクルー達の声がする。

「お前のところは……」

「出国させた……わかってたから……」

柔らかい笑顔でホーキンスは答える。

「どうしておれ達のところに、来なかった」

「誇り」

「……そうか」

何も言えなかった、彼女は最期まで筋を貫き通していた。

「キッドによろしくね」

自らを過去として、未来に託す。

「ああ!」

託される。その力強い返事に安堵したホーキンスは、まだ血も止まらない中、力の入らない体を揺らし、立ち上がる。

「もう動くな!!何処へ行く気だ!!」

「裏切り者がまだ生きてる、探して……処罰しなきゃ」

キラーは、最早何も言わない、止める気すらなかった。惚れた女がそうしたい、と言っているのだ。見届けるだけだ。

「キラーさん!!うわあすごい怪我だ!良かった生きてて……」

「炎がこっちに迫ってるんだ、逃げよう!!」

クルー達はキラーを持ち上げる。

「降ろせお前ら……ファッファッ」

「こんくらいさせてくれよ!!ふぁっふぁっふぁ〜!!」

クルーは自分の笑い声を真似る。馬鹿にしたものではないことは分かっている、だから別に怒らないし、キッドも気にしていない。

「行くぞお!!」

「ファッファッ」

「ふぁっふぁっふぁーー!!!」

キラー達は、鬼ヶ島を走る。

♦︎

「小紫ィ〜〜〜!!!」

炎に灼かれながらオロチは叫び、小紫……光月日和に襲いかかろうとする。その瞬間だった。

「修羅場でござる……」

一太刀、オロチの首は落とされた。傳ジローは、日和を抱きしめる。

「よくぞ……よくぞ耐え忍びましたね。長い長い歳月を……!!」

小紫としての地獄のような日々を回想する。

「日和様……!!」

日和は袴を握りしめ、その温もりを、全てからの解放を噛みしめ、大粒の涙を流した。

♦︎

 倒れていたドレークの視界に少しずつ映る何かがいた。

「ドレーク……あなた……海兵なんでしょ?」

切断されたと見られる左腕から血をポタポタと零しながら、ホーキンスは聞き出そうとする。

「……答えるか……!!」

本当に、嘘をつくのが下手なんだから……体に力が入らず、ホーキンスはどさ、と柱の前に座り込んだ。

「カイドウを裏切らなきゃあ"安全"だと……ゲホ……占いで……出たんじゃないのか……」

その言葉を聞き、静かに、何もかもを諦めた表情で笑う。

「今更……キッド達に尻尾ふるなんて、出来ないわよ……あなたとは違うの」

ドレークは黙って……はっとして訊ねる。

「占ってたある人ってのは……」

ホーキンスの目から涙が落ちる、血がガフッと吐き出される。

「私……」

走馬灯。キッドとキラー、幸せな毎日……でもね、もう、後悔なんてしてないのよ。これが私の、道だから……。淡く消えていく、苦しかった日々も何もかも、遠い昔のことのようにピントがぼけて、暗くなっていく……あゝ私……幸せだったわ……。

「ホーキンス……」

決戦は終わった。

 7日経った。キラーとキッドは傷も癒え、あの日のことを2人で語らう。

「……そういうことだ。アイツは、百獣海賊団として……役割を全うした。おれも、止められなかった」

キッドは怒らない。

「今回は負けか」

「ファッファッ、戦った後に告白したが振られなかったから、そうだな」

「抜け駆けしやがって」

こん、とキラーの頭を軽く小突く。

「……キッド、泣くとアイツが悲しむぞ」

わかっていても無理だ、涙が止められない。

「悲しいのはわかる。おれも、実感が湧かないよ……ファッファッファッ」

「次は負げねぇから」

キッドは鼻を啜った。その後ろに一つ、影が出来る。

「……キッド、キラー」

2人は名前を呼ばれ、振り返った。

「「!??」」

その先に見えたのは、2人もよく知っている……。

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