(酒入り冴と素面のカイザー)

(酒入り冴と素面のカイザー)


「あっミヒャエルじゃん〜♡ 一緒にマゾ犬どもにご褒美やろうぜ♡」

「……何でドイツで酒浸りになってんだよ、冴」


 ありがとうございます、ありがとうございます、と雄叫びを上げながら土下座する男の頭に足を置いてやっている腐れ縁の酔っ払いを見て、カイザーは己の安息が早々に終わったことを悟った。

 場所はドイツのとあるクナイペ(居酒屋)。たまには庶民的な店で酒と肴を嗜むのも良いかと初見で入ったそこで、何故かスペインに住む友人が出張S嬢になっていた。

 確かレ・アール下部組織がフランスのチームに招かれ親善試合をしたのが数時間前だった筈。そこから何の目的があってわざわざ国境を越えドイツまで移動したのか。

 カイザーの疑問に応えるように、冴が椅子代わりに腰掛けたビリヤード台からキューを片手に飛び降りる。着地の際に強めに踏んづけられたマゾ犬と、キューの先端が体に当たって痛そうな音をたてた別のマゾ犬が揃って幸せそうに呻く。


「俺ドイツに来て“たまたま”でミヒャエルに会わなかったこととかないし、適当にどっかいれば会えると思ってさ♡」

「そうか。まあ、俺もスペインに行って“たまたま”でお前に会わなかったことは無いからな。それで要件は?」

「愚痴ぃ♡ 聞けよミヒャエル、こないだルナの家で初めて酒飲んだら危うくロストバージンするトコでさぁ!」


 荒いのに妙に色っぽく見える動きでカウンター側の椅子に座り直し、バーテンダーの差し出したピルスナーをジョッキで煽りつつ冴はくだを巻く。

 もう片方の手で隣の椅子をバンバン叩いているのはここに座れということだろう。酔っ払いの女王様に逆らうほど無益なことは無い。カイザーは大人しく従った。

 すかさず2人の足元にマゾ犬どもが滑り込む。女王様と茨姫様のフットレストは先着2名様だ。出遅れたノロマのザコが後方で負け犬の遠吠えをかます。


「俺非処女なんて一生なる予定ねぇけど、ダチと一緒なら怖くないかなって♡ てなワケで今度ルナん家で酒飲むの回避できない時はお前も来いよ♡」

「クソお断り申し上げるわ。何が嬉しくてお前と竿姉妹に。しかもレオナルド・ルナで」


 いつだったか、レ・アールの貴公子が冴と並んだ自分のことも猫ちゃん扱いしてきた屈辱の記憶を思い出す。飲んでいるヴァイツェンの苦みが増した。

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