邂逅Ⅲ.Ⅴ:夢は終わらない(Chapter.Ⅳ)

邂逅Ⅲ.Ⅴ:夢は終わらない(Chapter.Ⅳ)

名無しの気ぶり🦊

2015年12月27日 第60回 有馬記念


『寒さ染み渡る冬空となった、ここ中山レース場。今年は12万人のファンが集まりました!』

『この厳しい師走の寒風でも掻き消せるファンの期待、いよいよ始まります! 総決算GⅠ有馬記念!!』

『改めまして解説の山本さん、豪華な出走メンバーとなりましたね!』

『そうですね。G1二勝、ファン投票2位に選ばれたプラーボディ』

『今年の菊花賞ウマ娘、キタサンブラック』


そして今日は2020年有馬記念当日。いずれ劣らぬ強豪たちが中山レース場に集っていた。


『秋から調子を上げてきているサウンズオブアース』

『リバーライトとパロールの姉妹対決も見ものです』


『しかし! なんといってもファン投票第一位! このレースがトゥインクルシリーズラストランとなるゴールドシップでしょう!』


「頼むぞゴールドシップぅ!」

「頑張ってアース!」


ただあいにくと曇天、テイオーの時とは全く違う。というかキタサンのレースは天気が悪いこと多い。

ただそれを忘れさせるようにゴルシは貫禄のファン一位、師走かつファン投票、有馬記念は盛り上がる内容ばかりである。


ツインターボ『いっけー! アースぅ!!』


チームカノープスも勢揃い。

例によって、眼鏡のウマ娘の名前は分からないままのようである。


(興奮と不安が無い混ぜ、でもなんだか心地良い…)

(うん。寒いのに熱くて、怖いのにワクワクする…、これが有馬記念!)


『キタ』

『何ですか?』


『今日は勝つことと同じぐらい有馬を楽しんでこい、ゴルシへの花向けも大事だがな』

『楽しむ、ですか…?』


『ああ、すぐに分かる』


(あたし…、いま有馬の舞台に立ってるんだ!)

(トレーナーさんが言ってた通りすごく…楽しい!)


これもまた「憧れた景色」か。

まだまだ今後も出られるも

アスリート人生1年目にしてファン投票で選ばれる大舞台、つくづくとんでもない名バなのである。


英寿の教えか、ここに至るまでの彼女自身の経験と蓄積か、怖い事も「ワクワク」に変わっている。


頭に覆いを乗せてゲートインするゴルシ、

落ち着かせる為なのかもしれないがまるでレスラーてまあ抜けて

問題なくゲートイン出来た模様


そして────


『さあ、各ウマ娘ゲートイン完了』

『暮れのグランプリレース、有馬記念』


『今!揃った奇麗なスタートを見せました!!』


2020年有馬記念、ファンに愛された者たちのレースが幕を開けた。


(よおーーし!!)


『さあ、先頭争いですがキタサンブラックが先頭。内からオールハイユー、その後ろにはサウンズオブアースが付けました』

『ゴールドシップはいつも通り最後方から』


『16人が今、1周目のホームストレッチへと入ってまいります』


「かっ飛ばせアースぅ! G1取ってこおい!」


十六人、先頭はキタサンブラック、ゴルシはいつも通り最後尾である。


「ゴルシさんとキタちゃん、どっちを応援すればいいの〜⁉︎」

「どっちもに決まってるでしょ!」


「頑張って、キタちゃん…」

「ああ神様、キタちゃんが勝てますよう…」


「鼓起勇气(ファイトよ)、キタサン!」

「…負けんじゃねえぞ」


(…ゴルシの衰えがどこまでレースメイクに響いてくるか。キタの走りに特に問題はなさそうだしな)


世界スターメンバーはゴルシ・キタサン2人ともだが、チームカペラメンバーはキタサン推し


そう、同チーム対決はどちらかが敗けるということを指し示してもいる。


「ゴールドシップ」

「ゴールドシップのラストランか……」


「「えっ!?」」


「夢のグランプリ」

「この有馬記念は数々の名ドラマが生み出されたひのき舞台!」


「現役最強を見せつけたシンボリルドルフ、世代交代を果たしたマンハッタンカフェ…」

「誰!?」


「そしてトゥインクルシリーズのラストランとして驚異の復活を果たしたオグリキャップ……」

「あんた誰?!」


「やはり期待してしまうな? 同じ葦毛のウマ娘として、ゴールドシップの復活を……!!」

「……飲むか?」


ちなみにみなみとますおは初めて見る観客と談志している。


『主導権を握りますキタサンブラック、大歓声に押され第一コーナーを通過』

『続く12番パドール、内側から7番オールハイユウ、外を通りまして9番サウンズオブアース、

さらには4番ブラーボデイ、5番グレートハウス、そして2番ブレイブターゲットが続く!』


(感じる…、先輩たちの圧を!)


第二コーナーを抜けた辺りはキタサン先頭、やや萎縮気味か。



だがやはり、主役はゴールドシップだった!


『第二コーナー抜けて向こう正面へ入っていきます。隊列はすうっと縦長の状態』

『先頭は変わらず11番のキタサンブラック、12番のパノール』


「仕掛けた…!?」


マックイーンもこれにはすかさず反応を見せる。いわゆるゴルシの勝ち確パターンに似ているのだから


『ゴールドシップが動き出すー!!』

『ぐんぐん動く! ぐんぐん動いて外から一気に捲りを見せる』


「一見すると衰えはないように見えるが、さて」


思い切り踏み込み、ゴルシは飛び出した。真剣な眼差しが先程までとは別物。

ぐんぐんぶち抜き、"これぞゴールドシップ"と言わんばかりの勝利パターンに入っていっているように見える。

これがゴールドシップというものなのか

普段はおちゃらけ枠、レースでもやらかした場面のほうが印象深いが底知れない"シニア"の強さを今見せつつあった。


ただ英寿としてはゴルシの動きに怪しさを感じていた。


「ずおおおりゃああ!!」


「「やr「やるのかゴールドシップ!?」…」」

「あのロングスパートを!?」」


完全にこの男女がみなみとますおを喰っている。

そしてサウンズも動く。また依然キタサンがトップだが、どこか敗北の2文字が顔を見せつつあった。


『第四コーナー回ってリバーライト、続くサウンズオブアース! 内からオールハイユウが「よーし行けーアース!」


一気に緊迫感が走る。キタサンはリバーライトに並ばれた。まるでグリーンリバーライトである。


『逃げるキタサンブラック、リバーライトが並んでくる!』


「ハアッハアッ!…あっ?」


『しかしここでゴールドシップだ!ゴールドシップが来たぁ!!』


「復活だ! ゴールドシップ!!」

「もう一度あの大まくりを見せてくれ!!」

「いけー!ゴールドシップー!!」「頼む!行ってくれぇ!!」「最後の力を振り絞れー!!」


『不沈艦ゴールドシップ!ラスト・ラン!!』

『黄金に輝く航路の行先は勝利へと繋がっているのか⁉︎』


「いや…これは」


『…伸びない! ゴールドシップ伸びないッ!』


が、ここでゴルシの絶叫に目に見えて限界が

ここまでのトレーニングもそうだが、伸びなやみ相対的にズルズル落ちていく。

観客の声も一転、往年の彼女ならやれたのだろうか?


「ハアハアッ…………ッ!!」


レースはまだ終わっていないが、ゴルシ本人が観念するように瞑目した。

それはつまりそれほど問題児が全力を以って臨んでいたということで、それだけに満足なのかもしれない。

ゴルシはちゃんと持てる力の全てを出し切ったのだろうから。


『前のほうにはキタサンブラック、そして7番オールハイユウ!』

『キタサンブラック粘る!』


(あと少し!あと少し!あと少し!)

(あと少し、あと少しッ!!)

「ハァッ…⁉︎」


『ここでオールハイユウ!オールハイユウだ!

そしてサウンズオブアースも突っ込んでくる!!』


「何っ⁉︎」


キタサンも粘るが、そんな彼女を欺いていたのか、後方から来たる名優1人


『オールハイユウが今一着でゴールイン!!』


『オールハイユウが夢の舞台を制しましたッ!!』

「「やったあ!!」」


『2着はサウンズオブアース!』

「ああ…最高のコンチェルトだったよ!!」

「ハーハッハッハッハッ♪」

「パンクに決めやがって、やるなアースぅ!」

「2着頑張った♪」


『菊花賞ウマ娘のキタサンブラックは3着』


結局、勝利したのはキタサンでもゴルシでもなく、予想されていなかったそれ以外の誰かだった。


菊花賞でキタサンが期待されないその他大勢の代表としてそれでも新たな願いを掲げて挑み勝ちきったように、今回も同じ因果を感じる結末だった。


「…まさかの伏兵だったな、ここでひっくり返されるとは。俺もトレーナーとしちゃまだまだ道半ばか…」

「めげるなよ、キタサン…」

(強いアスリートはキタサンやゴルシ達だけでは決してない…そりゃそうだな)


英寿も1人それを、そして己の至らなさを改めて噛み締めることとなったのだった。


『一番人気のゴールドシップ、ラストランは八着に終わりました』


そしてサウンズオブアースが二着。

キタサンは三着、奇しくも有馬でのネイチャと同順位である


「「ン……」」


ゴルシの衰退、そして力及ばすな敗北に彼女を推していた観客の多くは瞑目する。

やはり己がヒーローの勝利を応援する誰もが願ってしまうのか、少し残酷でもある。


「…くっ……!!」

「なーんだ♪」「あっ…」


「あたしのラストランで勝っちゃうんじゃなかったのか?」

「ゴルシさん……うっ、ゴルシさぁん!」


そしてキタサンはダービー同様敗北に悔し涙を流している。

だがゴルシはそれを慰める。自らも1着は取れず、なんなら決して順位としても良いものと言い切れない結果だったろうに。


「ううっ…グスッ、ヒグッゴルシさぁん…!」

「…」


「あぁぅっ⁉︎」


「だーから、シケたツラしてんじゃねえよ」

「……?」


観客「……!!」

「よく頑張った!」「お疲れ様!」「最後までハラハラさせてくれてありがとうなぁ!!」「GⅠ六勝!! 素晴らしい成績だったわゴールドシップ!」

「まだ終わってねーよ!!」


(…ゴルシさん、凄いなぁ。実はあたしはまだ、足元にも及んでなかったのかも)


その生き様こそがリアリティ


勝てなくてもダメでも、それが彼女への声援を止める理由にはならない


今までの貴方、その走りっぷりにありがとう

ただそれだけの気持ちで彼女を応援するファンも大勢いるということだ。


そうしてゴルシはゆっくり観客の前に移った。

サービス精神が強く、ファンの期待に応えることにこんな時でも余念がない

彼女個人の強さか、アスリートウマ娘の先達としての経験値の多さゆえか、キタサンも感服する振る舞いだった。


「待ってろよ!」

「オルフェーブル! ジェンティルドンナ!」


「トゥインクルシリーズでの借りは、ドリームトロフィーリーグで必ず返す!」


「あたしの夢に終わりはねえ!」

「それをみんなに見せてやる!!」


「あの対決がまた…!?」

「ああ、黄金の航海はまだ終わらない!!」


詩人か!!と思うようなこの男女の表現はさておき。

アスリートの引退と聞けばそれまでという印象になりがちだが、ウマ娘のレースにおいては上位リーグで健在。つまり引退と言ってもまた戦えるという事

一般的なスポーツとウマ娘のレース、その違いを前向きに感じられるような清々しいゴルシの始まりにして終わりだった。

ファンの方々の熱量もすごいものである。


「全く、八着なのに一番目立ってますわね?」

「ホント、ゴルシらしいよ…」


マックイーンと英寿もこう言っているように、かくて割れんばかりのゴルシコールで今年の有馬は幕を閉じた。


キタサンの夢の始まり、ゴルシの終わり

しかし終わりは終わりじゃない

(…いつか、キタサン達の引退も訪れるのか)

英寿もそう感じるように、他人事とは思えない結末ではあった。



「毎度ながらよく宴会しやがるな、キタサンのやつ…仮にも負けちまったってのに」

「まあまあミッチー、そう言わずにね。有馬で三着取るってことも立派なことじゃない、よくやってたと思うわキタサンは♪」


「本当に見応えあったよキタちゃん!」

「うん、良いレースだった!」


「頑張ったね、キタちゃん♪」

「最後までなかなか読めないレースだったよ」


そして、今日も今日とて英寿とキタサンはレース記念宴会を取り行っていた。こういうポジティブさも彼らの強みなのかもしれない


またこの宴会、絶好調カクテルはそのままに主食は伊勢海老などめちゃくちゃ豪華な料理となっていた。

前回がカップ麺大盛りばかりだったのと大違い。

ダイヤちゃんが奮発したのだろうか。

或いは年末だから?かもしれない。


「ありがとう皆!」

「でも…、勝ちたかったな、有馬記念……」


「…(勝たせてやれなかったのは事実だ)」


しかし気にしていないわけではないようで、キタサンは皐月賞・ダービー同様敗北にしんみりとしていた。


「おい」


「「「「「「⁉︎」」」」」」


だがそこに、歴戦の勇士が1人。


「ゴルシさん…?」


ゴルシがなぜか現れたのだった。


「…お前らにやる」


「わわっ⁉︎ …これって…」

「こいつは…いつもお前が使ってるやつのスペアか」


彼女は自らが愛用しているルービックキューブ、その予備も含めてそれぞれキタサンと英寿に投げて寄越した。

果たして何を意味しているのか。


「──お前らは一つだ」

「私は六つだったが、お前らは何面揃えられるかな?」


「!…なるほどな」


「えっトレーナーさん、それってどういう……あっ!」

(6はゴルシさんの勝ったG1の数! そうか、それで…なら!)


ただの趣味の継承かと思いきや、六面=GⅠ勝利数を示していたようである。

まさかの意味を持たせていたわけだ。


そして、英寿・キタサンは今は菊花賞の黄一面だけ


「…トレーナーさん」

「ああ」


「──あたしたちは!ゴルシさんを越えてみせます!」

「2人で六面×2を必ず揃えて、なんならそれ以上に勝ちきってみせます!!」

「G1っていう運命の瞬間を、何度でも!」


「お前なりに決意を秘めたサプライズムーヴにはそれ以上にとびっきりのサプライズムーヴで返してやるまでさ」

「…覚悟しとけよ、ゴルシ」


「「ここからが──俺たち(あたしたち)2人のハイライトだ(です)!!」」


「…せいぜい気張れよ〜」


そうして彼と彼女は黄金の不沈艦を超えてみせると、そう強く宣言してみせたのだった。

その二つの眼×2、そのどれもに沸る闘志を漲らせながら。


「(あたしの夢は始まったばかり、新しい年はきっと…、もっと……!!)」

「よぉし!合いの手お願いします、トレーナーさん!」

「よし来た」


「これからのキタと」

「トレーナーさんの未来にぃ…」

「「乾杯!!」」


「「「「「「またぁ!?」」」」」」


そうしてその景気付けにして誓いと言わんばかりに、また英寿とキタサンは自分たちの未来に幸あれと、全力の乾杯でそう祈ったのだった


もちろん、2人以外からは以前同様突っ込まれていたが。


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