邂逅ver2
「……パウリー、くん?」
わかりやすい顔のパーツは隠されている、常に傍にいた白い鳥の姿は見えない、発された声は記憶より少し高く、おれの呼び方すらも以前とは異なっている。目の前の個人が奴であると証明することさえ極端に難しい、だが分かるのだ。散々見てきた顔が、見た事のない表情を湛えてそこにあった。
腹の底が煮えるような怒り、衝動といって然るべき感情が頭より先に体を動かす。
「テメェルッチ……!どの面下げて帰ってきやがった!?」
「え、……ッ!?」
がっと胸倉を掴み上げ怒鳴りつける。驚きに見開かれた瞳の中に困惑が入り混じっているのが見て取れた。なんでお前が、裏切りやがったお前の方がそんな顔をしている?
「よくここに来れたもんだ、なァ!恨んでねえとでも思ったか!?そんなはずないだろ、ナメてんじゃねェ!!クソ、政府の役人がなんだ、ふざけんなよ!アイスバーグさんもガレーラも傷付いたんだ、正義なわけがねェ……おれは許しちゃいねえ、許さねえ!!!」
捲し立てれば言葉は堰を切ったように溢れ出す。ルッチの服を掴む手には力が入りすぎて震えていた。言いたい事はいくらでもある、そのどれもが今の気持ちを表すに足るものではない。このままでは殴り飛ばしてしまいそうだ、と頭の冷静な部分が制止する。
「……クビだって伝えたろ、帰れよ」
「ま、て」
掠れた声が漏れる。あの時と、おれたちの信頼を切り捨てたときと同じ声。
「言い訳なんざ聞きたくねェ」
「まて、パウリー、たのむ、から……」
不意に冷たい感触が手の甲に触れる。伏せられた瞳からほろほろと涙が落ちていた。
「おねがいだから、話を」
泣き落としでもするつもりかと睨み付けようとしたところで、それが演技などではない事を悟る。おれの手に縋るように触れたまま俯いて肩を震わせる様は、迷子の子どものように頼りなく映った。
───子ども?
「裏切ったってなんだ、ガレーラって、……知らない、ここは、どこなんだ?教えてくれ、パウリー……!」
頭が冷える。
昇っていた血が降りていくと同時に、先程まで見過ごしていた違和感がぽつぽつと湧き出てくる。
ルッチの異次元のような強さは身に染みている、胸倉を掴まれるくらい回避は簡単どころか逆にこちらが抑え込まれるだろうに、現にそうなってはいない。
心当たりのないような顔もおかしい。いくらガレーラに情がないとはいえ、裏切りという恨まれかねない行為を働いた自覚程度はあるはずなのだ。
そして何より───おれよりも図体のデカかったはずのルッチが、今はおれのことを見上げている。
明確に違う、けれど似た顔の別人なんてことは有り得ない。都合が良すぎるし、そもそも間違えるはずがない。
……では、目の前にいるこの男は?
「……お前、いったい誰なんだ……?」
絞り出した問い掛けに、はく、と口が動く。顔を歪めながら答えが返る。
「新セカ中2年、ルッチ、ロブ・ルッチ……おまえの、いや、パウリーの、同級生のはず、なんだ」
おれの頭がおかしくなっていなければ、の話だが。
ぽつりと呟かれたその言葉は本当に迷子のようで、どうしようもないほどに切実だった。