邂逅
麦わらの一味が出航してしばらくの月日が経つ。
アクア・ラグナによる市街地の被害を初めとして市長襲撃だのガレーラ職長の欠けだのなんだので不安定であったウォーターセブンは、アイスバーグさんの回復、副社長の就任、街全体を挙げた復興作業でようやく落ち着きを取り戻していた。
前と変わらず借金取り、それに加えて増えたファンに追われる日常。そして慣れない事務仕事に大変だと零しながら、この忙しい毎日が心傷を薄れさせているのだと自覚している。
ぽっかりと空いた時間があれば、嫌でも傷がじくじく痛む。それはアイスバーグさんにルル、タイルストン、裏切りを知っている皆がそうだった。
(……CP9、なあ)
ウォーターセブンに潜入していた諜報員であり、アイスバーグさんの命を狙った奴ら。彼彼女にとっては情も何もないのだと分かってはいるが、五年という長い歳月を共に過ごしてきた仲間だったのだ。そう簡単に忘れられる感傷ではない。
「あーもう、やめだ、やめ!もういねェ奴のことなんざ考えても仕方ねえ」
頭を振って思考を中断する。堂々巡りに陥る前に切り替えてしまわなければ無駄な時間ばかりを費やしてしまうことは、ここ最近で身に染みていた。
こういう時は息抜きに限る、と造船所へ向かう。副社長がギャンブルを借金してまで続けるのはどうなのかとアイスバーグさんから直々の注意を賜ってしまった為、気軽にできる丁度いい息抜きといえば船作りなのだ。趣味を仕事にしてはならないだとかいう俗説もあるが、ガレーラの船大工には全くもって当てはまらない。
とんからとんと軽快に鳴る作業の音を背景に、職人達と挨拶を交えながら奥へと進む。
目的の部屋の前に立ち、ドアを開けようとして、
(───?)
胸騒ぎを感じた。なんの根拠もない、ただ漠然とした予感。それでも無視できないそれに急かされるように音を立てて扉を開く。
果たして、そこに居たのは。
「……パウリー、くん?」
わかりやすい顔のパーツは隠されている、常に傍にいた白い鳥の姿は見えない、発された声は記憶より少し高く、おれの呼び方すらも以前とは異なっている。目の前の個人が奴であると証明することさえ極端に難しい、だが分かるのだ。散々見てきた顔が、見た事のない表情を湛えてそこにあった。
なんで今更、どういう気持ちでここへ来た、その安堵のような表情はなんなんだ?ぐるぐると思考が駆け巡る。衝動のまま怒鳴りつけようとして、
「ぬは~~ッ顔見知りがいてよかったわ!ところで、ここどこか分かる?」
……。
…………。
……………………。
気の抜けた声に、今度こそぴしりと固まる。
「誰だテメェ!?!?!?」
「え゛え!?」
ガレーラ全体に響き渡るような大声量で叫んだ俺は、間違っちゃいないはずだ。
学園パウリーはヒョウ太としての姿を知ってる、ヒョウ太の姿のときはルッチとしての友人相手でも演技続けてる設定。
「ぱ、パウリーくん?ぼくだよ?冗談きついよ~!?」
「知らねえ!そんなルッチおれは知らねえッ!!!」
みたいな会話が挟まる。ノスタルジックセンチメンタルウォーターセブンをカラッカラにしてくれ服部ヒョウ太