遺志を継ぐ者
獣狩りの夜が終わる。
「コラさん!脚が!!」
「はは…ちょっとドジっちまって」
「ドジで片脚が無くなるもんか!!」
止血を急かすローの声を聞き流し、小さな体を腕の中に閉じ込める。
「コラさん…?」
「お前はもう自由だ」
死の宿痾からも、終わりのない夢からも。
ああ、それからー
「ロー、愛してるぜ」
目を見開いたままの首が、ことりと落ちる。
とても、呆気ない終わりだった。
悪夢のフレバンスを狩り尽くし、その果てに神すらも狩り出したおれにとって、あのゲールマンの夢を終わらせるのはそれほど難しいことでもなかった。
ローに医療の手解きをしてくれた、お爺様と呼ばれたあの人が終わらぬ狩りに涙することはもう、二度とない。
ああ、最後の最後まで、おれは嘘を吐くことをやめられなかった。
嘘、嘘だ。
ロー、お前が震える声で伝えてくれるその前から、おれはその大切な妹の名前を知っていた。
昏い悪夢の病室で、痣に覆われた小さな怪異を狩った後、白い壁にラミと書かれたネームプレートを見つけたから。
それに、お前の尊敬する父様が、きっと素晴らしい医者だったことも。
人ならざる者たちがひしめく病棟で、白衣と銃痕の残る体をなお引き摺るその胸に、トラファルガーの文字があったから。
大嘘つきの、バケモノめ。
おれのために優しい秘匿を守った兄上が、いつかおれを狩りにくる。
それならきっと、その首を狩り落とすのがおれの役目だ。
いつか夜明けを迎えるあの世界に、帰るべき場所が、まだ兄にはあるのだから。
変わらず優しげな彼女には、いい義足を作ってもらおう。
「狩人様、あなたのお名前は?」
口の端を吊り上げて、ローには告げることすらなかったその名を口にした。