適性:追い込み 直線一気 〜好スタート〜

適性:追い込み 直線一気 〜好スタート〜

(遊園地でデートするトレやべ。担当ウマ娘は誰で想像してもらっても大丈夫。甘々を目指して長くなりすぎた話)


髪はばっちりセットして、前日にしっかりトリートメントもした。

動きやすさを重視して選んだ、履き慣れたスニーカーはぴかぴかにしてある。

荷物が多くなって、大きめのリュックを背負った。

服は何を着ていくか迷った末、今日のために新しく買うことにした。

彼の側にはいつも若くてかわいいウマ娘がいるから何度鏡を見ても不安になるけど、私の中ではベストを尽くしたつもりだ。




駅の前、私が立っていると改札から次々と人が降りてくる。どうやら電車が到着したようだ。

となるとそろそろの筈だと私は人の波の中に彼の姿を探す。

私が指折り数えて会えるのを待っていた彼氏はすぐに見つかった。

なかなか筋肉質でそこそこある背をぴんと立てて姿勢をよくしている彼はどこにいたってすぐ分かるのだ。見覚えのあるコーディネートだったというのもちょっとだけある。


「おはよう! 待った?」


手を振っている私を見つけて、急いでやってきた彼に私は首を横に振った。


「ううん。今来たところ」


本当は四本前の電車に乗ってきたけど、この言い方なら一本前の電車だと思ってくれるだろう。

少しでも長く顔が見たかったから、自然と早く目覚めてしまった。

私を見つけて笑顔になって、早足で近づいてくる彼の姿を見るのが好きだ。


「じゃあ行こうか」


そう言って彼は私の手をとった。

会ったばかりだというのにもう頬が緩んでいるのを感じる。この分では帰る頃には頬肉が溶け落ちてしまうかもしれない。


「ふふっ」


私たちが向かう先にあるのは有名な遊園地だ。

遊園地に向かう道を歩く人もまばらになり始めた、開園から少し経った時間。

ゲートまでの道は楽しげな音楽が流れ、顔は見えないけど前を歩く人たちの足取りは心なしかわくわくしている。

その中に私たちもいることがたまらなく嬉しかった。


「目、きらきらしてる。遊園地、久しぶりだからね」


彼が私の顔を覗き込んで微笑んだ。


「うん。楽しみだね」


私はそう言いながら彼の手を、少しだけ力を込めてぎゅーっと握った。


「楽しみだね」


彼が私と同じ言葉を返して、同じように手を握り返してきた。

ぎゅー。

彼が力を緩めたから私がもう一度強く握る。

ぎゅー。

私が力を緩めると彼がまた強く握り返す。


「ふっ……ふ、くく」

「あはははっ」


繰り返しているとなんだかおかしくなってきて、顔を見交わして笑ってしまった。

そうやってエントランスまでは二人で交互に手を握り返しあって歩いた。


この遊園地でデートしたのは学生時代が最後だったから確かに久しぶりではあるし大好きな遊園地だけど、私が嬉しいのはそれだけじゃない。

今日は彼をずっと一人占めできる特別な日だ。

時間がとれなくて、会えても食事に行くだけで終わったりおうちデートでダラダラしたりでちゃんとしたデートなんて全然できなかった。

だからたまには恋人らしく外で待ち合わせて遊園地に行こうよって誘ってくれたのがすごく嬉しかった。


「ねえ、どこ行きたい?せっかく久しぶりに来たんだから行きたいところ全部行こうよ 」

「じゃあ、まずは朝ごはん食べながらどこ行くか考えよう?」


私が提案すると彼は目を丸くした。


「えっ。それでいいの」

「うん。あなたはちゃんと朝ごはん食べてきたの?どうせギリギリまで寝てたんでしょう」


じっと目を見つめながら言うと彼はバツが悪そうに目を泳がせた。図星みたいだ。


「大丈夫だよ。ちゃんとた…」

「ちなみにおにぎり一個分のカロリーしかないゼリー飲料は、私の中でちゃんと食べたの定義には含まれないことを踏まえて答えて欲しいな」


目を見つめたまま怒ったフリをして言えば、彼はすぐに降参した。


「ごめんなさい……食べてません」

「よろしい」


素直に謝ってくれたので、私は許すことにした。


「じゃあ入り口すぐにカフェがあるからそこでパン食べよう?」


私たちはピンクと白のかわいらしいベーカリーカフェに入った。




「実はきみも朝食食べてこなかったんじゃない?」


彼はパクパクとパンを胃袋に収めていく私を意外そうに見た。


「ヨーグルトと果物は食べてきたもん。バナナとりんご、あとはちみつ」


一緒にパンを食べられる程度の空きは作ったけど、もし彼が朝食をちゃんと食べてきたとしてもお昼まではお腹が鳴らない量に調整した。


「朝にフルーツはいいな。タンパク質、ビタミン、ミネラル。水分もとれるし果糖はすぐエネルギーになる……うん、健康的だ」


職業病か、トレーナー目線でうんうんと頷く彼に私は微笑ましさと呆れが入り混じった気分になる。


「せっかくのお休みなんだから今日くらい仕事のこと忘れちゃおうよ」

「あはは、ごめん。つい癖で」

「癖になるほど気にしてるなら自分の食事も気遣おう?」

「敵わないなぁ」


彼は困ったように笑った。


「でも、朝食の時間を削りたがった癖に身だしなみしっかりして、待ち合わせの時間より少し早くきてくれたのは嬉しかったよ」

「……そっかぁ」

「うん。今日もかっこいい」


髪型を変えたときとか、新しい服を来たとき、ウマ娘レースの特集で顔を見かけたのを伝えたときくらいしか言えたことがないけど今日は素直に褒めてみた。


「そうかな」

「そうだよ」

「あ、ありがとう……そうかあ。今日もかぁ」


彼は照れて顔をそらした。


「きみも今日の格好、おしゃれでかわいいね」

「そっ、そうかな。ありがとう」


私も気恥ずかしくなって彼が見たのと同じ方向に顔を向ける。

テラス席からは遊園地のシンボルであるお姫様のお城が見えた。

私はスマホを鞄から取り出してお城に向けてシャッターを切った。


「あ」

「どうしたの?」

「ううん。撮れた?」


うん、と答えた私は撮影モードをそのままに彼にスマホを向けた。


「笑って」


パシャリ。


「どっちも後で送るね」

「ありがとう」


もう食べちゃったけどせっかくだしマスコット型のパンも一緒に撮ってもらうべきだったと残念がる彼に、次の食事ではそうしようねと答えた。

それから、どのアトラクションに行きたいか話し合う。


お金はないけど体力は有り余ってた学生時代に私たちはこの遊園地に来ている。

前日に打ち合わせを済ませておおよその地図を頭に入れ、開園前から並んで閉園まで早足で歩き回った。

今の私たちの時間の使い方を教えたらきっと時間もお金ももったいない!と信じられない顔をするだろう。

こういうのも楽しいのだけど、過去の私たちの姿は眩しくて、私は少しだけ寂しくなる。


「あと、やりたいことができたんだけど」

「何?やろうよ」

「お城だけ撮るのもいいけど、今からお城の前で二人で撮ろうよ。前に来たときと同じポーズで」


多分このスマホに入ってる筈なんだけどな、とライブラリを遡る彼が昔の写真を見つけるのを待つ。

学生時代とはいえあんまり恥ずかしいポーズはしていないはずだ。多分。


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