道は続く
転進ルートを選んだ末期ゲヘナの万魔殿12月3日 ヒナ委員長が突然失踪した。
12月10日 マコト先輩から言われた通りにアビドスの偵察をしていたら、突然ヒ(破られている)
12月24日 マコト先輩から借りた精鋭部隊を連れてアビド(汚れて見えない)
1月3日 ミレニアムのノア生徒会長代行から連絡があったらしい。マコト先輩は彼女たちと組み『対アビドス大同盟』を結成した。マコト先輩は特にやる気だ。もちろん私も戦うつもりだが。
1月8日 イブキから連絡があっ(塗られている)
1月10日 先生から連絡があった。申し訳ないが断った。イブキをあんなにした連中を殺さずに説得するなど、月を掴むより難しいことだ。
1月15日 アビドス廃校を賭けた戦いが始まった。私はマコト先輩の作戦通り、第1戦線を担当することになった。
1月20日 アビドス本町まで侵攻したものの、砂嵐で戦車の動きが悪くなり、それ以上の進撃が難しくなった。
1月22日 あやうく包囲されかけて、撤退を余儀なくされた。
1月28日 北アビドス砂漠での戦闘に敗れた。こっちは戦車部隊なのに、たった1人のヒナ委員長相手に手も足も出なかった。ほとんどは捕まったが、私は這々の体で逃げ帰った。私の虎丸2号は破壊されたので、私が前線に出ることも少なくなるだろう。
2月1日 ミレニアムに奇襲があったらしい。ノア代行らが捕縛され、事実上対アビドス大同盟は瓦解した。
2月2日 アビドスの軍勢がゲヘナ自治区に侵入し始めた。
2月7日 アラバ海岸にアビドスの大部隊が上陸したらしい。マコト先輩はなぜ防げなかったのだろうか。
2月8日 マコトタワー(400インチ)が砲撃で崩れた。マコト先輩は怒っているが、戦争なのでこればかりはもうどうにもならないと思う。
2月9日 『調月リオ』から託された設計図を基に、量産型アバンギャルド君の製造が始まった。量産型AL-1Sとヘイロー破壊爆弾搭載型弾道ミサイルはゲヘナの科学技術やその他の問題でできなかった。ゲヘナの科学技術は世界一じゃなかったんですかマコト先輩。
2月10日 トリニティが私達を裏切って宣戦布告をしてきた。サツキ先輩の指揮で何とか持ちこたえているが、ここが破られれば総崩れになるらしい。
2月11日 マコト先輩の鶴の一声で、私達は万魔殿議事堂の地下壕に移ることになった。
2月12日 風紀委員会も地下壕に移ることになった。久しぶりに見たアコ先輩は肌荒れや傷で酷いことになっていた。
2月13日 先生からのモモトークが途絶えた。あとマコト先輩考案の超大型戦艦が完成したらしい。今更何に使うのだろうか。
2月14日 ゲヘナ学園名物バレンタインパーティーをマコト先輩の提案により迎賓館でやったら砲撃が飛んできて大惨事になった。イブキがいなくてよかったと初めて思った。
2月15日 チアキが督戦隊を提案してきた。
2月16日 久しぶりに集合写真を撮った。
2月19日 春の目覚め作戦の企画書を提出した。
2月21日 春の目覚め作戦が発動した。マコト先輩曰く、この作戦にゲヘナの命運がかかっているらしい。
2月24日 春の目覚め作戦は大失敗に終わった。
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私は自分の日記を閉じて、はぁとため息をつく。
今日は2月27日。アビドス廃校戦争が始まってから約1ヶ月半。
この戦争の結末はおそらく言うまでも無い。
私たちの完膚なきまでの負け。
逆に今この状況から勝てる方法があるならば教えてほしいくらいに、負け。
春の目覚め作戦が成功すれば、最低でもあと3ヶ月は持ち堪えられたが、失敗を超えて、イオリが部隊ごと包囲されるという大失敗になってしまった。
この結果、私たちが持つ正面戦力はアビドス側を下回った。ただでさえ上回ってる時でも押されていたのに、下回ったらもうどうしようもない。
ああ、こんな時もし、あのアビドスの連中が愛用する『砂糖』があるなら、辛いことや苦しいことくらい忘れられるのかな。
思ってはいけないことなのにそう思ってしまう自分に嫌悪感を抱きつつも、どうしようもない気持ちに駆られる。
すると、チアキが大部屋に入ってくる音がした。
チアキ「や」
イロハ「うっわ。びっくりしました」
彼女は、あの時以来ずっとこの明るい調子を維持し続けているようだ。
呑気なのか考えなしなのか、あるいは・・・・。
チアキ「・・・暇そうだね〜イロハちゃん。」
冗談半分でそう言うチアキ。
イロハ「そうですね」
気遣っているのか貶しているのかはともかく、暇なのは事実だ。
もう指揮できる部隊がまともに残ってないので、やることなど書類かライオンマルと遊ぶくらい。
チアキ「外は毎日砲弾の嵐だし〜。ついにアコちゃんとイオリちゃんもいなくなっちゃったし、そろそろ年貢の納め時なんじゃない?」
私は少しだけ驚く。
あの天真爛漫の面白いもの好きの彼女にしては珍しく弱々しいと思った。
目の光もいつもより弱々しい。
こんな姿の彼女をあまり見たことがない。同級生なのに。いや同級生だからか?
イロハ「・・・諦めないでって一番言ってたのはあなたですよね?」
チアキ「それはわかってるんだけどさぁ〜。これを見せられちゃね〜」
そう言って彼女は私の目の前に、一枚の紙を見せてくる。
紙の内容は暗号だが、赤ボールペンの文字の方を見れば、解読してあることがわかる。
イロハ「・・・これは?」
チアキ「・・・逃げた敵が落としていったやつだよ。内容はゲヘナ学園の要人の処遇について。ゲヘナを捨てて逃げても、逃げ切れるわけじゃないみたいだね」
そう言うと彼女は私に押し付けてくる。
内容は捕獲の優先順位だ。
チアキ≧私>>サツキ先輩>マコト先輩という感じらしい。
マコト先輩に関する評価は少し笑ってしまうが、策謀で右に出るもののいないあの人を放置とは節穴だな、とも思ってしまう。
チアキ「いくら希望を持ったりしても、結局こうなっちゃうんなら・・・最初からイブキちゃんのところ行った方が楽しかったなぁ」
イロハ「チアキ・・・」
咎めるような声で言う。
すると、彼女は飴玉を取り出した。
イロハ「『砂糖』ですか?」
まさか飲むつもりだろうか。
そうなら体を張ってでも止めないといけない
チアキ「そう。砂糖。アビドスの子が持ってたやつだよ〜」
そして包み紙を開け、彼女は天井の光に照らす。
その砂糖の塊は、人工光に照らされて蒼く輝く。
チアキ「・・・なんでこんなのばっかり食べてる奴らに負けてるんだろうね〜私達って」
私は思わず彼女の方を見る。
今まで弱音もほとんど吐かず、マコト先輩の太鼓持ちをしながら楽しんできていた彼女が、こんなに弱音を吐き続けている。
これはまずい。
元気な人ほど病んだら重いという説もある通り、彼女が病めば一発で『砂糖』くらいやるだろう。
イロハ「ちょっと・・・。そういうのはやめてください。」
チアキ「でもイブキちゃんに会えるよ?」
私は思わず苦虫を噛み潰したような表情になってしまった。それは事実だ。認めたくないが、この『砂糖』を使えばアビドスに行け、そしてイブキと再会することができる。
確かにそれは、この希望の見えない戦いを終わらせ、明るい世界に行ける魔法のパスポートかもしれない。
だが、それで果たしていいのだろうか。
私たちには風紀や正義の実現などと言った大義はないが、それでもゲヘナ学園のために戦ってきた。
それを裏切るというのは、自分の心が許さない。
その心に悶々としていると、重厚な扉が開かれる音がした。
マコト「・・・キキ。随分と苦しそうな表情じゃないかイロハ。」
マコト先輩だ。
爆発にでも遭ったのだろうか。少し服が煤に汚れている。
ついでに顔も暗い。春の目覚め作戦が大失敗してから少し暗くなってしまった。
チアキ「あっ、マコト先輩」
マコト「・・・・イロハ。何をそう見てるんだ?」
彼女はツカツカと歩み寄ると、勝手に私の手から紙を取る。
イロハ「あっ」
マコト「・・・ほぅ。・・・・・捕縛リストか」
そう呟いた次の瞬間、ビリッと破いてしまった。
マコト「なんだこのガバ資料は!!ヒナの奴め!このマコト様を狙わずしてどうする!!!
私こそゲヘナで一番偉い大将なのに狙わなかったらゲヘナを落とせないも同然だろう!!!」
さっきまで暗かったマコト先輩の豹変に、私たちは目を丸くする。
でも、よくよく考えてみるとなんだか笑えてくる。
マコト先輩は普段は初歩的なミスをしたり余計な事をしたりと散々だが、こういう絶望的な時に一番いて欲しい人かもしれない。
砲撃の音を掻き消すようなバカ騒ぎこそ、この人が周りから慕われる理由なのだ。
チアキ「あははは!どんな時も自分のスタイルを維持できるのすっご〜く、マコト先輩らしいね!イロハちゃん!」
イロハ「・・・はぁ。先輩達を見てるともう胃が痛いです・・・」
チアキは皆といる時ほど、元気になる人だと思った。それはいいことかもしれないし、悪いことかもしれない。
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数分後、サツキ先輩も来たところで。
先ほどの暗さはどこへやら、完全復活のマコト先輩が話し始めた。
マコト「・・・キキキ。さて。私たちは今この通りもう中央区目前まで敵が迫っていると言う状況になっている。そこでだ!今思いついたアイデアがある!!」
私含め全員が息を呑む。何かアイデアがあるのだろうか。
マコト「やるぞ!亡命!」
この人のテンション、ついてゆくのが精一杯です。
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2月29日。
私たちは最低限の・・・リュックサックに収まる程度の荷物を持って、地下壕の入り口付近に集まっていた。
マコト「・・・オデュッセイア海洋高等学校は複数の船が集まって形成される学校だ。それ故に各船ごとの閉鎖性が強く、まだ多くの船で『砂糖』は流通していないだろう!そこでだ!そのうちの一隻に私達、そして生き残りの万魔殿議員を潜入させて乗っ取り、新なるゲヘナ学園を作る!・・キキキッ、我ながらいい計画だ!」
こんなざっくりと語っているが、マコト先輩は真剣だ。
そして当然、それを聞く私たちも少しは真剣だ。
この計画に文字通り命を賭けるのだから。
サツキ「・・・それで、新しい名前はどうするの?マコト・フリートとかかしら?」
チアキ「ネオ・ゲヘナの方がいいですって」
何故こうもキヴォトス流行の百鬼夜行発アニメの名前を取り入れたがるかはともかくとして、皆乗り気なのは間違いない。
マコト「すでに他の議員達にはこの作戦を通達してある!28万のオートマタが足止めをしている間に、オデュッセイアに行くぞ!」
そう言いながら私たちを先導しドアへ向かう。
ドアを抜けたら、私たちは全員別行動を取ることになっている。
集結して移動中のところをヒナ委員長に襲われるリスクほど怖いものはないとマコト先輩が判断したからだ。
ドアの前で、ふと私は喉に出かかった言葉を出す。
イロハ「マコト先輩」
マコト「・・何だ?」
イロハ「・・・私たち、上手く行くでしょうか」
すると、少し驚いた顔をした先輩は、途端に緊張がほぐれたかのように笑い出した。
マコト「・・・クククッ。案ずるなイロハ。私たちは今まで、たくさんの『困難』を乗り越えてきただろう?飛行船を堕とされたり、パーティーを破壊されたり、他にもたくさんあるが。・・そんな私たちが、たかだかオデュッセイアの一隻を乗っ取るくらい、不可能ではないッ!」
キメ顔でそう言った後、彼女は私の頭を撫でた。
大きな手が私の髪をワシャワシャと撫でる。
マコト「だから上手く行く。亡命も、イブキの奪還も。そしてお前が望んでいた・・シャーレの先生との再びの邂逅も多分!上手くいく!」
イロハ「撫でないでください」
そう言って彼女の手を押し除ける。
だが初めてだ。マコト先輩が私のことを撫でてくれたのは。本当に初めてだ。
マコト「さぁいくぞ!次会う時はオデュッセイアだ!」
扉が開かれる音がする。
外は戦場だ。
私たちはこれからオデュッセイアにいく。
これは退却ではない。
イブキとのあの在りし日を取り戻す。
そのための『転進』だ。
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用語集
精鋭部隊:3スレ目でマコトが1コマで奪われた対アビドスの精鋭部隊。
「気化した『砂糖』を散布する装備」:この時間軸だと1月30日くらいに開発されたアビドスの兵器。文字通り気化した無色の砂糖(気体)をばら撒く。
虎丸2号:虎丸をイブキごとヒナに持ち去られたイロハのためにマコトが用意した代わりの虎丸。元はポルシェティーガー
マコトタワー:絆ストーリーにある建造物。
超巨大戦艦:風紀委員会の1月から3月までの予算の90%を投入して作ったゲヘナの誇り。なお出番。
量産型アバンギャルド君:リオの設計図由来。アバンギャルド君を極限まで低コスト化した、遅すぎた名機。ゲヘナの技術力の影響か有人。
量産型AL-1S:量産型アリス。こちらもリオの設計図由来。どこかの時間軸ではエンジニア部が20万クレジットで作っていたが、ここではゲヘナの技術力の問題で一部分しか作れず製造断念。
ヘイロー破壊爆弾搭載型弾道ミサイル:これもリオの設計図由来。こちらは作ろうとはしたが、工場が先回りで破壊されて製造断念。
NKウルトラ計画用陸戦隊:サツキの部隊。催眠音波を流す装甲車を持っているらしい。
春の目覚め作戦:アラバ海岸周辺の資源地帯を奪還するために行われた攻勢作戦。大失敗。
捕縛リスト:ゲヘナの要人の捕獲優先度のリスト。イロハとチアキが高い理由は赤冬侵攻作戦に使える/プロパガンダ担当。マコトがやたら低い理由はマコトがいると騒いでヒナが嫌がるから。
追加
第13大隊:「春の目覚め」(https://telegra.ph/%E6%98%A5%E3%81%AE%E7%9B%AE%E8%A6%9A%E3%82%81-01-30)にて登場。対砂糖ガスマスクに量産型アバンギャルド君など、最新鋭装備を揃えた部隊。なお人員は風紀委員の中隊と万魔殿の中隊のニコイチ。指揮官はイオリ。