過去・今・未来の王座
守護者。それが私の本懐、私の生きる意味。
この星の秩序を守り、外なる敵を防ぐ。何の疑問も無く、何の異論も持った事は無い。自負と誇りが私を突き動かし、度重なる傷を負っても立ち上がらせた。
だが。
だがもし、それが過ちだったのならば?
(酷いな……)
龍の一族の巣。私と同じく星の核に繋がり、共に敵から世界の平穏を守ってきた種族が。その拠点の一つが、灰燼に帰している。
乱心したスカーキングと、彼を唆した邪なる者達。それによって開かれた戦端がこれ程の物になるとは。
《王よ》
『女王か。その様子ではそちらも……』
《……手遅れでした》
舞い降りた彼女から告げられるは、他の繁殖地の壊滅。猿族側の被害も相当だろう。
私は無策だった。外敵どころか、地球に息づく仲間同士が殺し合う現状を──愚かな事に、想定すらしていなかったのだ。
(どこで、間違えた?)
自問自答。だが答えは明白だろう、私は守護は出来ても“統治”が出来なかったという事。
タイタン同士の諍いを止めるだけ止めて、根本的な解決に動かなかった。原因を明らかにせず、不満を燻らせ高めてしまった。
ならば、どうすれば良かった?
粛清か?
私の一存で?
《……アレは?》
『!』
意識を現実へ引き戻したのは女王の言葉。指し示した先に蠢く影。
生存者。幼き龍!
「………ッ!!!」
瓦礫の中から這い上がり、此方を睨め付ける視線は鋭い。敵と思っているのか。少なくとも信頼はしていまい。
だが消耗ゆえに躓き──倒れる寸前で、我が手に拾い上げられた。
万物を撫で切る瞳だった。
悪逆を決して赦さない怒りが其処にあった。
嗚呼。私に無い物を、此の子は持っている。
同族達の亡骸の中で、彼は得たのだ。
『女王よ。此の子を頼めるか』
《承知。しかし、王は?》
『務めを果たす』
彼が此の座に就くまで。私が譲るか、それとも彼に奪われるか、いずれにせよ其の時が来るまで。
(此の世界を守り抜く。それだけだ)
瞬間、南極圏にて感じた地脈の異常。龍族と猿族の戦いを感じ、私は飛んだ。
両足から火を吹くジェットが巨躯を押す。悲鳴と咆哮目掛け、私を突き動かす。
この星に平和が齎される、其の日まで───
───様々な事が起きた。
ついぞ私では終わらせられなかった戦乱を、成長した“彼”が終わらせた。スカーを他の猿族諸共、地下空洞に封印した。
三つ首の怪物、ギドラが天空より襲い来た。私では敵わなかった脅威の雷を、“彼”が追い詰め突き落とし、シーモの牙によって氷の中に封じ込めた。
傷付いた私に代わり其の時から、とうとう“彼”が王位に就いた。
“彼”は総てを制した。総てを統べた。私では為せなかった世界を、為してみせたのだ。
そして、今。
「兄貴ぃーっ!でけぇ亀だぁ!!」
「落ち着けスコ!とりあえず斧出しな」
「ごめん、驚いた拍子にアイツの足元に落としちまって……」
「お前なぁ……」
亀は万年。地下空洞に身を引いてそれ程の月日が経った頃、私の元に二頭の猿族が訪れていた。
足元には、苦々しい記憶に眠る斧。其の内には“彼”の奔流が微かに残っている。
ならば彼は、目の前の猿族にとうとう敗れたのか?
答えは否。既にモスラより、事の顛末は聞いていた。
私が拾った命が。彼が。
(見初めた、王の素質)
“ゴジラ”が拾った、次代の可能性!
『猿族の者達よ』
「えっ俺達の言葉を……?」
「……アンタ、何者だ」
『支配者になれなかった隠居の身だ。が、ここは王より賜った我が縄張りとなる』
彼自身は認めないだろう。だがしかし、私と違い粛清を厭わない彼が、因縁深き種族の若者を見逃したのだ。其の未来を惜しいと思い、共闘までしたのだ。期待してないとは思わないし、言わせるつもりも無い。
『踏み入った以上、その一歩に足る“資格”の有無……』
「回転し出した…来るぞスコ!!」
『見極めさせて貰う!』
若者よ。君が“キング”コングと、将来そう呼ばれ得るのか。
この老骨に、魅せつけて頂くぞ…!!