過去の戦い1
辺りに悲鳴が響く。
白いタイルのような床や壁が赤く染まる。
その情景は見る者が居たら地獄のようなモノだと例えるだろう。
そうして悲鳴を上げるモノが減っていき…
辺りには男の足音以外は聞こえない静寂へと変わる。
「よぉう、あー…なんだったっけ?」
獲物で遊ぶ獣のような目をした男が
全てを嘲笑うかのような気配の男が
まるで荊のような鎖を持ち自身も血を流しながら返り血で染まるその男がただ1人悲鳴をあげなかった存在へと話しかける。
「オレにとってはどうでもいいんだけどよ」
「あの連中にとっちゃテメェらは都合が悪い上にもう要らねぇらしい」
そう死体が、もはや生きていた頃の面影もない血と肉の破片が辺りに散らばっている場所で唯一の生き残りにそう告げる。
「という訳でオレが此処に来た」
「コレからどうなるか…わかるだろ?」
今までの何処か全てを嘲笑うかの雰囲気から
そう何も感じさせない…虚無の如き気配へと切り替わる。
「そう、今やこの研究所の生き残り最後の一人」
「哀れな実験体の成功例」
目の前の存在へ宣告するかのような口調で告げる。
「お前は何も残すことなくオレの手で死ぬ」
そう告げた瞬間に相手は異形の姿へと変わる。変身する。
「なるほど、その姿は悪魔か何かの再現か」
「変えられた姿に相応しい力でも宿ると唆されたか?」
「そのアプローチは無意味なのだと10年前の実験に学ばなかったのか?」
山羊のような頭、蝙蝠のような翼、そして獣の如き手足をした姿。
そう物語に語られる悪魔のような存在へと真っ当ならば太刀打ちなどできないだろう。
だが彼は既に存在が外れている。
その悪魔の如き存在と比較にもならない程に。
異形はその手足の如く獣のような速度で強襲する。
──遅い、改造され慣れ果てた体はその速度を捉える。
獣のようなその分厚く鋭い爪が幾本も空を裂く。
──未だに爪はその身に触れる事などない。
「…どうしたまさかコレだけのことに驚いているのか?」
爪を避けられ異形は驚愕の声を上げる。
「そうか、お前はその様で怪物になりきっていないのか」
少し蔑んだかのような声を出す。
それを見下されたと思い激昂した異形は跳躍し…
その翼で勢いをつけて襲いかかる。
──しかし、その動きは既に捉えられている。
「遅い」
そうして男の周囲を漂うように在った荊のような鎖で異形は絡め取られ…
そうまるで磔刑されたかのような姿へとなる。
「偽りの悪魔」
「怪物にすらなることの出来ない半端者」
再び全てを嘲り笑うかのような気配に変わる。
「無意味で無価値な研究もその成果も全てオレに踏み躙られる程度の存在で」
「今までどうもご苦労なことだ」
「今までの徒労だったモノもこれで終わりだよ」
そう何かへと苛立つかのように言い放ち
既に異形からは興味をなくしたかのように後ろを向き歩きだす。
「ああ、そうそう」
異形が叫び声を上げながら背を向けたその男へと鎖の拘束が緩くなった瞬間に襲いかかる。
「…ガロット」
男はそれを予期していたような態度でその鎖を起点に新たなナニかが召喚される。
それは何処か後ろから抱きしめているかのようなシルエットにも見える鋼で出来た椅子だった。
その椅子へと手と足、胴体、そして首を拘束されていく。
「お前はこれから苦しんで死ぬ」
そして再びくぐもった悲鳴が辺りへと響いたのだった。