運命の分かれ道 その2

 運命の分かれ道 その2

8歳差ルウタたまらんマン

「ふぅ… 流石に何曲も歌ったから疲れちゃった」


皆にせがまれ数多くの曲を歌ったウタ、一休みするためにソファに座っていた


「みんなわたしの歌を聞いて笑顔になってくれてる… わたしの歌なら、もっと色んな人を笑顔に出来るのかな… えへへ…」


自分の歌に皆が笑っている、喜んでいる  そんな皆の反応を見て確かな実感を得ていたウタの隣に…


「…? なんだろうこの紙…?」


突如古びた4枚の紙が表れた


誰かの忘れ物だろうか その紙を手にとって内容を見てしまう


「楽譜…? なんて歌だろう…」


その楽譜に書かれていた楽曲名は…



「Tot…… Musica……」



聞いたこともない曲だった しかし、どこか惹き込まれる歌詞が綴られていた


この楽譜を見て、ウタの頭の中を


『今すぐこの歌を歌いたい』


という感情のみが支配した


「………」


虚ろな目で歌詞を読み込む そして…


「…… ᚷᚨᚺ…」


この曲を歌おうとしたとき


パ シ ッ ! !


ルフィが、楽譜を取り上げた


「あっ… ルフィ!! 何するの!!」


「…… 変な違和感の正体はこいつだったのか…」


「ルフィ!! その楽譜を返してよ!!」


「… ダメだ… こいつからは良くねぇ『想い』を感じるからな」


「想い!? 何言ってるのルフィ!! 早く返して!!」


ウタが何とかして楽譜を取り戻そうとした時、


ビ リ ィ ! !


ルフィがその楽譜を破いた 


「あぁ…! なんてことを…! …… あれっ?」


虚ろだったウタの瞳にも光が戻っていた


「………やっぱこいつのせいだったのか」


ルフィはそのまま楽譜を破り捨てた


「なんなの… その楽譜…」


「…… ゴードン!」


「? どうしたんだルフィ君」


「この楽譜… 何だか解るか?」


「……! これは… Tot Musica…!!」


―――


混乱を避けるためにその場を離れ、シャンクス ウタ ルフィの3人はゴードンから話を聞いた


曰く、それは古代に作られた楽曲であり永らくこのエレジアに封印されてきた


偶然にもウタウタの実の能力者であったウタがエレジアに来たことにより封印が解かれた可能性があった


ウタウタの実の能力者がそのTot Musicaを歌い上げてしまった時、楽譜に宿る魔王が現世に降臨されると言い伝えられてきた


「そんな… わたしは…」ガタガタ


ウタは震えていた ルフィが偶然にも航海に着いてこなければ自分はどうなっていたのか

想像もつかない恐怖にただ怯えるしかなかった


「…… やっぱあの時感じた変な“想い”は間違いじゃなかったんだな」


「想い? 何があったんだルフィ」


「昔ここに来た時、変な“想い”を感じたんだ 怒りとか… 悲しみとか… 色んなもんがごちゃ混ぜになった“想い”だ」


「確かにこのTot Musicaは古代の人間の強い想いが込められていたらしいが… 何故ルフィ君がそれを…?」


「昔センゴクって人に、おれの見聞色は感情を感じ取る力に長けてるって言われたんだ あの日この国には海賊がいた 

皆の海賊への怒りや恐怖が、その楽譜に伝わっておれが感じ取れたんじゃねぇかな」


「おれでも感じ取れなかったんだがな…

覇気の才能ってのは分からんもんだ…


……その時探そうとはしなかったのか」


「そんなこえぇ顔すんなよ… 

…… ほんの一瞬だったんだ 変な感じはしたけど強く感じ取れたわけじゃねぇし、その時は気の所為だと思っちまったんだよ」


「そうか… すまない…」


「……」ガタガタ…


「ウタ もう大丈夫だ 破いた時に変な感じはしなくなったし、お前も元通りになった」


「ルフィ君がいてくれて本当に良かったよ… ありがとう…」


「…… こういう事を聞くのは野暮かもしれねぇが… 

なんでその楽譜を処分しようとしなかったんだ? 

知ってたんだろ?」


「おいシャンクス!」


「いいんだルフィ君… わたしの責任だ…」


ゴードンは吐き出すように話した


「エレジアの国王として先代国王から話を聞かされた時、楽譜を見に行ったんだ…

……1人の音楽家として、素晴らしい曲だと思ったよ…

私はその楽譜に込められていた想いを感じなかったから… ただ素晴らしい曲だとしか思えなかった…

話を聞いた時処分しようと考えていたのに…楽譜を見て魔が差してしまったんだ… 

ウタウタの能力者さえこの国に来なければこれはただの楽譜なんだと…」


「ゴードン…」


「謝っても謝りきれない…! 

私があの時ちゃんと処分さえしていれば…!」


「すまないゴードンさん… 

いらん事を聞いて悪かった… 


この国には何も起きなかった… 

それで良かったじゃねぇか…」


「……」ガタガタ


「…… 明日にはここを出よう 何があるかわからねぇからな」


「そうだな… ゴードンさん、この事はなるべく他言無用で頼む ウタ自身には罪がねぇんだ」


「分かっている… 死ぬまで誰にも話さんよ…」


―――

「すまねぇなゴードンさん ここまで見送ってもらって」


「いいんだシャンクスさん 彼女の歌声に私たちは心を震わされた これくらいはさせてくれ」


「元気でなゴードン また会いに来るよ」


2人が船へ向かおうとした時、ルウが2人の元へ駆け寄ってきた


「お頭ァ〜!! 大変だァ〜!!」


「! どうした!?」


「ウタが… ウタがいねぇんだ!」


「なにっ!?」


「!! 探してくるッ!」


「あッ! おいルフィ!」


考えるよりも早く、ルフィが駆け出していた


―――

「ハァ…! どこだ…! 感じ取れねぇ!」


見聞色を使っても、ウタを見つけられなかった 範囲にいないのか… 感じ取れないほど弱っているのか… それとも…


「ッ…! そんなはずねぇ! そんなはずねぇ!」


最悪の事態を考えず、ただひた走る 


そして…


(ルフィ……)


「!!! そこか…!」


微かだが、ウタを感じ取ることが出来た


―――

「ハァ… ハァ… ウタ…」


「!? …ルフィ 見つかっちゃた…」


沢山泣いたのだろう 涙の跡がハッキリと残っていた


「探したぞ… ほら… 船に戻ろう」


「……… 戻れるわけないよ… ウタウタの力は… みんなを傷付けるかもしれないんだよ…?」


「楽譜はもう破いた… もう大丈夫だろ…?」


「楽譜に操られて… わたしの意志じゃどうにもならなかった… Tot Musicaじゃなくても… 同じ事が起こるかもしれない…」


「ウタ…」


「グスッ… どうすればいいのかな…    わたし…」


「………」


「グスッ… ルフィ… 助けて… グスッ…」  ポロポロ…


「………ウタ」


「えっ…」


泣き続ける少女の背中を、男は優しく抱きしめた…


「大丈夫だって言ってるだろ…? シャンクスもいる… ベックマンだっている… 赤髪海賊団の仲間が… なにより、おれがいる…」


「ルフィ…」 ポロポロ…


「これからどんな事が起きたって、お前を守ってやる… お前がどんなとこにいたって、必ず駆けつけてやる…」


「………」ポロポロ…


「どんな敵が表れても、どんなに悪い奴が表れても お前を必ず守る…!」


「…… どうして…?」


「ん?」


「どうしてそんな事を言ってくれるの… わたしは海賊の娘なのに…」


困惑に揺れるウタが問いかける


ルフィは、淀みなく答える


「お前の未来を、見たいからだ」


「え…?」


「いつか言ってくれたよな? 皆が笑い合える時代を作るって 自分の歌で、新時代を作るって」


「それは…」


「おれはこの世界に絶望して、夢を諦めた


力だけじゃどうにもならなかったんだ


だけど、お前には諦めてほしくねぇんだ お前の夢を


“新時代”を作ることを」


「ルフィ…!」


「海賊の娘かどうかなんて関係ねぇ おれは、お前の夢を守りたいんだ ウタ」


「ッ…!」


「だから一緒に船に戻ろう… な?」


「ルフィ…! ルフィー!!!」


ウタがルフィの胸に飛び込む


「わたし…! みんなのとこにいていいんだよね!?」


「当たり前だろ…」


「わたし…! 生きてていいんだよね!!」


「あぁ… おれが… 守ってやるから…」


「ルフィ…!! ルフィ…!!」


―――

「……待ってるだけでいいのか? お頭?」


「……ルフィのやつが、探してきてくれるさ」


「しかしそんなおっかねぇ事が起きてたなんて… 水臭いぜお頭 おれたちに教えようとしなかったなんて…」


「真実を話して、ウタを必要以上に傷つけたくなかったからな…」


「あぁ… ウタは大丈夫だろうか…」


「大丈夫だよゴードン ルフィは頼りになる あんたも知ってるんだろ?」


「それはそうだが… しかし…」


「…! ルフィ! ……また抱っこしてるのか…」


「よぉ おまたせ」


「スゥ… スゥ…」


「ウタは大丈夫なのか?」


「あぁ 泣きつかれて寝ちまったよ」


「あぁ…! ウタ…! 無事で良かった…!」


「へへっ 相変わらずゴードンは優しいな」


「……ルフィ こんなことが起きちまったんだ 皆にはTot Musicaについては伝えておいた」


「まぁそうなるよな… …なぁ皆」


「?」

 

「ウタのこと… しっかり守ってやってくれよな…」


「…… へっ! お前に言われなくてもなぁ! ウタはおれの、おれたちの娘なんだ! 命に変えても守るさ! なぁ皆!?」


\おゥ!!!/


「そうか… なら良かった! 皆がいてくれれば、ウタもきっと乗り越えていけるさ!!」


「そうだな! よぉしお前ら! ウタも帰ってきたことだ! 出航するぞォー!!!」


\オォー!!/


「……良い家族だな ウタ…?」


「スゥ… ルフィ…」


それぞれの決意を胸に、レッド・フォース号はフーシャ村へと航路を進めた…


―――


「………」


「おいウタ…? 大丈夫か…? 起きてからずっとボーッとしてるが…? どこか変か? ホンゴウに診てもらうか?」


「ねぇシャンクス…」


「ど、どうした…?」


「どうやったらルフィとずっと一緒にいられるかな…?」


「……… ハァ!?」


夢破れた男と、新時代を夢見る少女の物語は まだ始まったばかりである…

Report Page